第6話 ここから先は自分の力で何とかしなさい。信じているから。
甘ったるく甲高い声を発しながら、こちらへ駆け寄ってきたのは想像通りの人物だった。しかもその背後には取り巻きの令息たちを引き連れている。
「いやだっ!貴女ったらまた違うご令息や王子殿下に声をかけるなんて!なんて下品ではしたない人なのっ!!」
「へぇっ!?」
思わずひっくり返った声が出た。ユリアンはわたしを視界に収めるなり眉を吊り上げて
何だこの気持ちの悪い薄紫
「ちょっ‥‥セレネ?!拒否反応起こしてる場合じゃないよ。取り巻きを見て!」
スバルが珍しく切羽詰まった表情で、トレーを持った手の
「ぐぇっ。」っと令嬢らしからぬ声を再び上げる事となったわたしは恨めしい視線をスバルに向けるが、彼女の真剣な表情を見て瞬時に意識を切り替える。
改めて
「へぇっっ‥‥りおすぅ!?」
何やってるの?あなた、いや、取り巻きだってのは分かるけど、なんでよりにもよってその毒饅頭軍団の一員になっちゃってるの!?
口をパクパクさせるわたしに、ユリアンが勝ち誇った笑みを向ける。
「あら、そう言えば
困っちゃいますねー?と、口角を吊り上げて、わたしの顔を挑戦的に覗き込む。ユリアンから発せられた薄紫の魔力が周囲を漂い、更に王子の元へも伸びて行く。
ヘリオスが、よりにもよって
俯いて無言になったわたしに、ユリアンがクスリと笑い声を漏らす。
「生徒会長ったら、肩を震わせてー。泣いてるんですかぁ?」
「君は色々分かっていないな。」
スバルが溜息交じりに呟いて、わたしが差し出したトレーを無言で受け取る。両手がフリーになったわたしは、毒饅頭の中へ勢いよく大股で突入し、ぎょっとしているヘリオスの頬を両手でバチンと音を立てて挟み込む。
「ヘリオス?唯一無二の品質と性能を
挑戦的な笑みを浮かべたわたしは、見開かれた
そう、わたしは姉として弟が本当に選び、全力で進もうとする道だったら、それが自分とは
「ねぇ、ヘリオス。誰かのお尻について歩くだけしかできない軟弱者なんて、商会のためにならないわ。わたしが蹴落としてあげましょうか?まぁそれ以前に、百戦錬磨の商会員の中で勝ち残ることすら出来ないでしょうけど。」
言い切って、ヘリオスの頬に添えていた手を放し、腕組みをしながら
「もう一度だけ聞くわ。ヘリオス、あなたの立ち位置はそこで良いの?魅了に屈した、その他諸々の取り巻きの一人――その程度の存在で。」
スバルの「魔王降臨だね。」と云うふざけた呟きが耳に入るけど気にしない。ヘリオスは次期当主だもの、自分の行動に大きな責任が伴う事なんて
「―――や・です‥‥。」
ヘリオスが苦し気に顔を歪ませて切れ切れに言葉を発する。「うそっ!へーちゃん!?」とユリアンがヘリオスの両肩を掴んで揺する。けれどヘリオスは鬱陶しそうに、肩に食い込む細い指を払い除ける。
「いやです!僕はお姉さまと肩を並べるんです!!」
かっと目を見開いたヘリオスに、ユリアンが「うそ‥‥。」と愕然とした呟きを漏らし、アポロニウス王子は楽し気に笑っている。王子の隣ではギリムがこちらに向けて片手を
「馬鹿が、王子の御前でいつまで遊んでいるんだ。この鬱陶しいモノを早く何とかしろ。」
うん?この言い方、記憶にあるぞ。つい最近だった気がするけど誰だったっけ?
首を傾げてギリムをじっと眺める。
「お姉さまっ!」
目を潤ませたヘリオスが、視界に割り込んで来た。もう薄紫の毒饅頭には混じっていない。大事な家族だから、見捨てたりなんかするわけ無いのに。
わたしは必死な形相のヘリオスを宥めるように、不安な気持ちを包み込むように、弟へ目一杯の想いを込めて心からの笑顔を浮かべてみせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます