第33話 どこかで見たゾンビ映画みたいなんですけど!
わたしを取り囲んだ神官と禰宜から成るローブ軍団は、ハディスとオルフェンズにより打ち伏せられて、全員が床に倒れたはずだった。それなのに、すぐに身体を起こし始めるなんておかしいわよね?!
よたり……と、身体を傾がせながらローブ姿の男が1人……2人と立ち上がって行く。やっぱり目つきは虚ろで、口元は
倒しても倒しても起き上がってくるローブ軍団のその姿は不気味で、どこかで見た
血こそ出ていないけれど、見ていられるものではない。
「どうなさったの!?しっかりしてください!」
占い師の女がふらふら動くローブ軍団の一人に
「……怨敵退散……悪鬼滅殺……大神殿主に…仇なす者……
「いや、怖いんですけどぉ―――!って言うか、あなたたちの方が怨霊みたいなんですけどっ」
錫杖を支えに、のたりのたりとこちらへ近付くローブ姿に向けて
思わず一歩
「
「ダメに決まってるでしょ!」
耳元に響いたテノールに、涙目になりながら秒で答えると、不満気な溜息が聞こえる。
取り敢えず、黄色い魔力あっちいけ!とばかりに扇をパタパタ振るけれど、ローブ軍団を包んだ薄黄色は吹き飛ばしても、吹き飛ばしても、次々に彼ら自身から湧いて出て来るようで、きりがない。
けど靄を飛ばすと一瞬動きが止まるから、ローブ軍団をゾンビみたいに起き上がらせているのはやっぱり薄黄色い魔力なんだと思う。
ハディスは少し離れたところで、加減しつつ彼らを何度も投げたり、転ばせたりを繰り返している。オルフェンズはわたしの側から動かずに、近付きすぎた者だけを投げ飛ばす。彼がやり過ぎない様に、わたしは注視しつつ扇でパタパタ風を送り続ける。
いや、わたしだけ間抜けじゃない?だって、占い師と案内役の男が、ローブ軍団を危惧する声を上げながら、こっちに向ける「こんな異常事態なのにコイツ何ワケの分かんない事やってんの?」とでも言いたそうな視線が居た堪れない……。
ローブ姿の一人が運悪く足を捻ったんだろう。歩を進める毎に体勢を崩し、微かに顔を歪ませるのにこちらへ向かってくる。錫杖を握る手首も、捻ったのか腫れて痛々しい。
「もう止めてください!あなた様の身体が取り返しのつかないことになってしまいますっ」
占い師の女と案内役の男も、彼らを止めようと動き出す。けれど、既に虚ろな様子で動いているローブ軍団は構わず動き続けてる。味方の2人の声も全く無視してるし。案内役の男は、痩せてはいるけど、彼がしがみ付いても、まるでお構いなしにそのまま引き摺って、傾いだ姿勢でこちらへ近付いてくるし!?
「この人たち、いつもこんななんですか!?」
「そ、そんな訳ないじゃない!私たち神に仕えるものは、
聞いた私も涙目なら、答える占い師も涙目だ。
「じゃあ、やっぱりわたしはこの神官さん達も傷つけたくないし、けどわたしを護ってくれる人達も傷つけるつもりはないんです!」
この扇が少しでも力になるなら、何とかしたい。『薄黄色い魔力』なんて絶対に要らない!
ありったけの力を込めて、
「えぇ―――――――い!」
渾身の一振り、と気合を入れたけれど、本当に身体中から力を持って行かれる感じがする。扇が、ひと際強い風と共に放電の様なバチバチ云う音を纏って、ローブ軍団から黄色い靄を吹き飛ばした。
「王都
王都警邏隊が踏み込んだとき、室内には薄桃色の
その桜吹雪は、居合わせた人のほとんどが何の反応もしていなかったから、見えていないんだなってすぐに分かったけど―――見えないのが勿体ないくらい、とても綺麗で幻想的な景色だった。
「やはり桜の君は面白い」
笑いを含んだ声音で呟くのが聞こえると同時に、
それと入れ替わるみたいに、神官や禰宜とは比べようもない鍛え上げた体躯の厳つい男たちが、治安を守る組織を現す青色の揃いの制服を纏って、U字型の
「王都商業ギルドを通さない商品の売買、同じくギルドの特許権の侵害、そして現行犯の女性への傷害未遂でお前たちを捕縛する!」
けれど、勇ましく突入してきた王都警邏隊の隊員たちは、わたしたちの居る場所に到達するなり勢いを削がれて困惑顔になった。
さっさとここを治めて欲しいのに何で?と思ったけど、確かに息巻いて来た挙句見たのが倒れ伏すローブ軍団と占い師、その中でがっくり膝をついたわたし、その側に立つハディスと、呆然と座り込んだ案内役の男なんて……、そんな大立ち回り終了後の様子を見せられたら困り顔にもなるのかもね。
まごつく彼らに苦笑したハディスが「ご苦労様」と声を掛けると、先頭を切って来た、ひときわ厳めしい男の人が慌てて胸に握り拳を当てて会釈して……それからようやく彼らも仕事を思い出したのか、倒したローブ軍団を持参した縄で手際良く拘束していった。
こうしてエンドレスなゾンビ映画も終幕を告げたのだった。
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