第25話 地雷男の更なる興味を煽ってしまったと云うことなのかな!?
背後からの不穏な地響きがじわじわと近づいて来る。それとは対照的に、目の前の丘には大人の肩ほどの高さの低木が、太陽に向かい青々繁った葉を広げて、さやさや風に揺られている。実に心休まる光景だ。幹の太さは平均的な成人男性の腕くらいだろうか、丁度良い幼木……刈り頃だ。
手にしていた鎌を振り上げて脚に魔力を込め、一気に距離を詰める。
『ピギャァアーーーァァ』
『ピィィイァァァア』
『ギャピィィィイイァァ』
鎌のひと振りで、何体ものトレントの悲鳴が上がり、葉が舞い上がる。爽快な刈りだ。
「うっわぁ、
「短時間で最大限の収穫を得たいんです。余裕ないんですから茶化さないでください。ハディス様もオルフェも余裕があったら刈ったトレントを拾ってください。抵抗しないはずなんで危険はないですから。お願いします!」
ドン引きなハディスの声が聞こえたけれど、目を向ける暇はない。何故なら、背後から近付く成木トレントの立てる地響きが随分大きくなっているから。
『ギャビイィィィギュォオォォォォォォ―――――ォォオオオ!』
「うわぁー。トレント母さんが怒ってるぅ」
「性別なんてあるんですか?」
「さぁ?」
この危機感溢れるはずの場面で、気の抜ける会話を繰り返すわたしとハディス。けど、足と手はしっかり動かし続けるし、注意だって怠らない。
ボゴンッ
突然傍の地面が盛り上がり、地面から
慌てて飛びのくと、伸びた茶色い物体はシュルシュルと地中に戻ってゆく。が、すぐに移動した先の地面からまた茶色い鞭が生えてくる。よくよく目を凝らすとそれは植物の根や茎の様だ。ついに怒れる成木トレント母さんの攻撃範囲に入ったみたいだ。
「トレントって、上から来るかと思ったら、まさかの地中攻撃ですか!?」
かと思えば、上から青々とした葉のついた枝がしなりながらこちらを狙って振り下ろされる。そして、トレント母さんの登場に呼応したかのように幼木トレントたちも小さな枝を振り回して応戦してくる。大した殺傷力は無いけど、幼木群生地だけあってあちこちからバチバチ、チクチク小枝が当たって痛い。そろそろ潮時だろう。
「撤退します!無理だったら拾ったトレントは離して、安全第一で――――あ!」
2人を探して視線を巡らせた瞬間、成木トレントにさっきの空飛ぶ大ネズミが近くの木の上から飛び掛かったのが見えた。ハディスは小さく舌打ちすると、左腕にトレントの枝、右手に
ぶわりとハディスが濃い朱色の魔力に包まれる。
成木トレントの大きな枝が大ネズミに向かって振り下ろされる。
「待って!こっちの方が早いです!」
言いながらスライムが入って重りの様になった網を大きく1周回して勢いをつけ、片端を握ったまま振り下ろされようとする枝めがけて
スライム網は枝に当たるとグルグル巻き付き、握った側を引き寄せるとトレントの攻撃は大ネズミから逸れて地表を叩く。そこに地面を蹴って一気に距離を詰め、逆の手に持った鎌で網の絡まった枝を切り落とす。
イメージは前世記憶にある『忍者の
大ネズミが森の中へ逃れるのが見える。
「わたしたちも今度こそ離脱です!」
未だ大小トレントの荒れ狂う丘を背に、魔力も纏って全速力で駆け出す。
赤と白銀は当然の様にわたしのすぐ背後を走っている。今度は短剣の妨害が無いのでとても走りやすい。
「ふふっ、やはり桜の君は興味深い」
笑みを象った唇に短剣を握ったままの右手を寄せて、目元まで綻ばせ、低く笑い続けるオルフェンズに、ハディスとわたしは思わず顔を見合わせる。
なんだろう、この笑顔なのに背筋が寒くなる感じは。この地雷男の更なる興味を煽ってしまったと云うことなのかな!?
「もしかして、今のはハディス様のおっしゃっていた『深入り』に該当するんでしょうか?」
「僕にも彼の心の琴線がどこにあるかまでは判らないけどー、該当しちゃったんじゃない?」
「ですよねー……」
クツクツと笑い続ける暗殺者。気付けば街中はもちろん、館内や、こんな森にまであっさりと側に現れてしまうこの男を遠ざけるには、自ら興味を失ってもらう他無いだろうけど、まだまだわたしへの関心は途切れないらしい。ほんと、困るんだけど考えても仕方ない。
目標のお昼までの時間も少ないことだし、このまま先を急ぐことにきーめたっ!
それに今日の狩りはスライムもトレント大小の枝もたっぷり収穫出来たし、秘密主義のハディスが
そして願わくば、どうかヘリオスのお説教が短時間で終わりますように。
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