第13話 可愛い弟でいてくれた方が、お姉さまは嬉しいよ‥‥。
ちらりと時計を見る。
「分かっているんですか?お姉さま」
ため息混じりの声に、思わずシャッキリ背筋を伸ばしてベッドの上で正座する。
「あなたはやること成すこと色々‥‥えぇ、どこから触れたら良いのか解らないくらい規格外の事をなさり、少し前までは僕も、素晴らしい才気溢れるお姉さまを、誇らしくも思い、その背中をただただ追いかけてきました。その事に関しては僕自身を磨くことにもなりましたし、感謝しております」
ヘリオス・バンブリア13歳。今は、眉間に深い縦皺を寄せた気難しい表情をしているが、わたしと良く似た顔立ちの、ひとつ年下の弟‥‥のはずなんだけど。
「けれど、解りますか?学園へ入り、はじめて同年代の令息令嬢と机を並べて僕が受けたショックが!大多数の、いえ、ごく一般的なご令嬢は魔力を纏って闘う
そんなこと言われても、出来る様になったんだもんなー。前世には『魔法使い』『アクションヒーロー』みたいな空想力を刺激するものがたくさんあって、この世界では魔力を使えば実現できることがたくさんあるって気付いちゃったんだもん。
「しかもお姉さまが王立貴族学園入学に推挙されたのは、武力ではなく、知識を評価されてのことなのです。それは、武力が弱いとかそう言うことではなくて、只人の理解の範疇外にありすぎて目に入りもしていなかっただけのこと。お姉さまはそう言う常識と良識を凌駕したレベルにあるというご自覚がおありですか?そのお姉さまがケガをする事態とは、一体何が起こったと云うのですか!?」
魔力を纏っての動きは、女の子だし、余程のことがない限り人前ではやってないよー。
俯いて反省の態度をとってたら見逃してくれないかなぁー。ふんすっと鼻息荒く捲し立てるヘリオスをチラリと上目遣いで見る。と、しっかり目が合った。
「ちゃんと話してくださるまで、僕の話を聞いていただきますからね?」
「ぅえぇーっ」
うちの弟が、父よりも厳しい件について、誰に愚痴れば良いだろう。んじゃぁ、取り敢えず話しておきますか。
「だって、大したことしてないんだよ。ちょっと跳ねて、着地ーってなった時に、急に邪魔されちゃって、こうコロンって‥‥。んで、グキッて」
「お姉さま、あなた分かっていないんでしょうけど」
ふぅ、やれやれ‥‥と、溜め息をつくヘリオス。
なんだかほんとに大人びてしまって、ただ可愛かった頃が懐かしい。
「やましいことを隠そうとすると、お姉さまのお話は、急に知能レベルが下がるんですよ?」
笑顔で額に青筋を浮かべるヘリオスの圧に、とうとう屈したわたしは、出来るだけ簡素に、けど、誤魔化さずに、話すことにした。
「ごめんなさい。
最後は、反省点までつけた。これで完璧。
「は?」
口をパクパクさせるヘリオスの、瑪瑙色の瞳がこぼれ落ちそうになっている。
「いえいえ、ご謙遜を。
すかさずオルフェンズが修飾詞たっぷりの賛辞を繰り出す。
そう、この暗殺者はなぜかわたしの側に居座っている。部屋の隅にそっと控える従者的な立ち位置で。なんでよ。
「吟遊詩人殿、あなたは見られたのですか?」
ギギギと、ぎこちない動きでヘリオスが賞賛の主へこわばった顔を向ける。すると、オルフェンズは両手を胸元に当て、恍惚とした表情で宙に視線を向け更に口を開く。
「やはり
従者じゃなかった、なんだか信者っぽいことになってる。
うん、安定の薄ら寒さだ。背筋を冷え冷えしたものが這い上がる感じだ。
他者の感想も知りたくてヘリオスを見たら、苦いものを噛んだ様な顔になっていた。
「いえ、許していただけなくても、今まで通りひっそりと桜を愛でて行こうとは思っていますが」
「つまり、お姉さまに不利益になることはしないと云うことで良いのでしょうか?吟遊詩人殿。今回の規格外の立ち回りについて口を噤んでくださるということで」
立ち直り早っ!しかも何だか内容理解してるし。さすが時期当主!だけどもう少し可愛い弟でいてくれた方が、お姉さまは嬉しいよ。
「話す必要はないでしょう?奇跡の様な
「あ、あぁ、なんだかとても信用できるよ」
ヘリオスが遠い目をして口元だけぎこちなく笑ってみせた。
わたしに物騒な、信者ができました。
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