第6話 閑話 月の女神の伝説

 この世界は、月に住まう一人の女神によって統べられている。


 ……いや、「わたし」は全世界の事なんてまだ知らないから、少なくともこの国ではそう言われている。


 かつて女神が地上に在ったとき、自らを信奉する者達から捧げられた5つの神器(仏の御石の鉢、蓬萊ほうらいの玉の枝、火鼠のかわごろも、龍の頸の珠、燕の子安貝)により、その力をふるい、世界を繁栄へと導いた。

 しかし、時の最高権力者「みかど」にその存在を「恨まれ」て地上から去った。


 心優しい女神は、後世のために神器を地上に遺し、今も月からわたしたちを見護っているのだという。


 遺された5つの神器は、神話に姿を顕すのみで、存在は確認されていない。また、帝なる者が何者なのかも遠い神代の話故、今世には伝わっていない。この国の最高権力者は「王」だ。


 だから、帝なるものと、この女神の話の舞台は、わたしのまだ知らない、外の国の話なのかもしれない。


 女神とその神器の姿は、わたしの住むこのフージュ王国の、そこかしこに在る神殿や王城のステンドグラスや壁画・天井画、古くから画家たちが描き遺した絵画で伝えられていると言うのに、確たる物が何も遺されていないとは皮肉な話だ。


 そして、最後にもうひとつ。

 わたしはこれととても良く似た「お伽噺」を知っている。


 そのお話は「かぐや姫」と言ったか……。


 今となってはとても朧気な、


 遠い記憶なのだけれど…………。

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