称する少女

怜《れい》

第一話 薄鈍色

 僕がここでは非凡な存在だと自覚するのにさほど時間は必要なかった。高校に入学してしばらく経ってなお僕の人生は薄鈍色のつまらないもののまま。何かが劇的に変わることを漠然と期待していたけど、所詮はただの願望に過ぎなかった。

 四月からの三ヶ月間、ようやく高校の新しい環境にも慣れてきたような気がする。僕が通う高校は県内では一番生徒数の多いマンモス高で、巨大な敷地の中に多数の校舎。建て替えや増築を繰り返し複雑な構造をしている。

 そのおかげか自由な好風で、いくつも面白い特色がある。これだけ人が多いと様々な生徒がいるわけで、各々がやりたいことを好きにやるために部活が数えきれない程ある。大袈裟に思うかもしれないが、よくある部活創設に必要な人数制限というものが存在しておらず、驚くべきことに学校ホームページの部活動の欄にも「およそ」という接頭辞がつく。生徒達の間では学校も正しい数を把握してないのではないかという噂まである。

 そんな高校の中で、大してやりたいと思えることも無い僕は貴重な帰宅部として学校が終わると即座に家に帰るという活動を毎日欠かさず続けている。まあ要は殆どが異常な程に活動に熱心な学校において、何もしていない僕こそが異常なのだ。

 太陽の光で緑が透き通る初夏の日、僕はこの短い人生で初めて先生に呼び出されるという経験をした。今まで本当に無かったからそれなりに緊張はしていたが、帰って読みたい本があるから早いところ要件を聞いて帰りたい。

「職員室ってここからどうやったら辿り着けるんだ、わからん。一回教室まで戻ってから行くか。」

この学校に入学した生徒が一番最初に苦労するのは友達作りでもテストでもなく、道を覚えることである。科学や家庭科、情報などの特別教室を使う授業の時は廊下に出ている先輩に片っ端から声をかけて向かう道のりを教えてもらうというのが毎年見られる光景らしい。たいていその過程で情報交換をするから、友達も自然とできる。まあそんなことが必要になるほど複雑だから殆ど行ったことがない職員室にたどり着くのは骨が折れる。ちなみに僕は人に声をかけるのが苦手だから新しい経路を開拓せずわかるところまで戻るなんていうまどろっこしいことをしている。ずっとこのままだと後々不便かもしれないが今困っているわけでもないからまあいいということにしておく。

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