第39話  20区

「あ! 海がみえますよ!」

 俺の後ろに座っているアンコが窓を開けて指さした。話すとアンコも初めて自分の目で海を見たようだ。初めて見る海に興奮を隠せず、運転席側の窓を開けた。テレビで聞いていた潮風とはこういうものなのだな。定期的に聞こえる波の音もすごく気持ちがよかった。


「ちょっと寄り道してみようよ」

 メロンも大きなあくびをしながら言った。ちょうど釣り場、食事処しょくじどころと書かれた看板が見えた。恐らく食事処の看板に目がいったのだろう。


「仕方がないぜ」と言いながら、俺はまんざらでもない。


 看板の方角に車のハンドルを切った。そこにいる人に図書館までの道のりを聞きたいなと考えていた。それに海を触ってみたいし、波打ち際で波の音を聞いて、色も見たい。できたら海に入りたい。色んな気持ちが渋滞じゅうたいしていた。


「なんで海は青いのか知っているかい?」

 オータムは得意気とくいげに聞いてきた。


 メロンから「空を反射しているんでしょ?」と回答はあったが、それを聞きながら俺は違うなとは思った。だが他に答えが見つからない。正解がでなかったからか、オータムは語り出した。太陽光から出ている7色の光の内、青色の光が1番よく海の水の中を進んでいく。他色の光は、海の水に吸収されてしまうのだという。


 つまり、青色の光だけが海の水にすい取られないで、色々な方向に散らばり、その光が目に入ってきて海は青く見えるんだ。

 クイズは好きなのだが、オータムが出す問題は嫌いだ。なぜなら、正解が分からなかったら、オータムお得意の長い語りが問題の正解と一緒に出てくるからだ。


 店の駐車場は長方形型に長く、車を20台ほど収容できるスペースがあった。車を止めようにも下に白線を書いてなった。ただ、駐車している車はほとんどなかった。店の中では食事ができ、外では釣り堀用のスペースが設けられていた。


 店の看板には船の碇のマークがあったが、これはフィガロとは関係がないだろうと少し笑った。

 最近、色んなことがあったので、考えすぎてしまっている。


 

 話し合いの末、まずご飯を食べることにした。メニュー表には今日の魚と書かれており、今朝釣れた魚が並べられていた。俺たちは等価交換用の米を持ち出して、食事を準備してくれた。



 俺たちが住んでいた11区では山菜は多く採れるが、魚介類は冷凍食品もしくは調理済みの焼き魚などしかほとんど食べた事がなかった。魚を生で食べられるのは新鮮だった。料理はカニ、ハモの湯引き、カニのお味噌汁、カニの炊き込みご飯がセットになっていた。店の人が言うには、この辺りではカニはよく料理に出てくるそうだ。見ているだけで、よだれが出てくる。


 特にハモの湯引きがおいしかった。つけだれとして梅干しソースもしくは、からしの両方とも同じ皿に並べられて、それとカニの炊き込みご飯を交互に食べる。


 ご飯おかわり無料ということもあり、何杯でも食べられた。


「料理の写真撮る!」  

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