第29話 マーヒー②

アンコが道端みちばたで酒を飲んでいた奴らにちょっかいを出されたらしく、メロンがそいつらにすごい勢いで怒っていた。


「まずいぞ!」


 オータムがなにかを察知さっちしたらしい。この町の入り口でアンコに注意された「騒ぎを起こさないでくださいね」という言葉が頭の中に浮かんできた。


 間違いなく、これから騒ぎが起きるだろうと。アンコがきっかけで。メロンに怒られた体の大きな男が逆上ぎゃくじょうして、こちらに近づいてきた。先手必勝せんてひっしょう。こういう時は、体が一番大きな奴をぶっ飛ばすのが得策だ。俺は直感的にそう考えた。


 そいつは怒ったメロンに対してではなく、俺に突進してきた。

 そいつが一直線に俺の間合いに入ってきて、右足が地面に着いた瞬間。


 俺はかわしながら、強烈な右の拳を相手のあごに放った。利き手、利き足が右の場合、相手は右足を踏み込んだ時に、拳を入れれば、左足でバランスをとれず、崩れる。


 今までの喧嘩で経験していた。バランスを崩した男はそのまま直進方向にあった店まで吹っ飛んでいった。その店は野菜を置いており、激しい衝撃音しょうげきおんと共に野菜たちが宙に浮いた。


「よし! これでいいだろう」と思い、後ろを振り返ると、オータムが2人を連れて遠くまで逃げていた。賢明けんめいな判断。



 周りの奴らはそいつを心配して「大丈夫か?」と声をかけていた。


 そのすきに全速力で逃げた。一対一だったら勝てる自信はあるが、複数人は厳しい。知らない町を全速力で走った為、自分がどこにいるのか完全に分からなくなり、1人で迷子になってしまった。


「こんなことになるんだったら、集合場所をきめときゃよかったぜ」


 携帯もメロンにあずけており、どうしようもなかった。町を歩いているとどこか探検しているような気持ちになっていた。すると、先程の大男よりも一回り小さい男がこちらを見て、手を振っていた。



「え、フィドロ!」


「お前たち遅かったな? どこか観光していたのか」

 フィドロがお前たちと言ったので、後ろを振り返ったら、オータムたちがいた。

「……まあね。駆け足で観光していたよ」


 この町につく道中で道に迷ったこと、途中で絡まれて時間を使ったことによりおおよそ予定より倍近く時間がかかったことは伏せておいた。


「来いよ!酒場さかばを経営しているんだ。飯でも食っていけよ!」

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