第14話 謎の首輪

 1階に降りると、俺は男子トイレ、メロンとオータムは女子トイレの近くで身を潜めた。女子トイレの方が出入口に近い為、逃げやすいだろう。男子トイレは出入り口の奥に位置する為、窓を開けて脱出ルートを確保した。


 オータムの予想では便べんようすのが比較的早い男を警備し、その後に女子トイレに訪れるだろうとの事。これも正解。


 白い防護服が数名男子トイレに入っていった。遅れて監視員がきた。後はオータムから依頼を受けたこちらに注意を引き寄せるだけだ。落ちていた小石をトイレの出入り口で立っていた監視員の背中側に投げようとした。


 だがこの時、小石を掴んだつもりでいたが、間違って火をつけていない爆竹ばくちくを投げていた。


「あ……。やべ!」


 転がってきた爆竹に驚いた監視員は過敏までに反応した。作業室の中にいる人を呼びに作業をしていた部屋の中に向かっていた。



【緊急事態発生! 緊急事態発生!】

 建物内に大音量のサイレンが流れた。


 俺は素早く窓から外に脱出した。どうせなら爆竹に火をつければよかったと後悔しながら。


 外に出てからは全速力ぜんそくりょくで美術館に走った。あいつらは上手く作戦を実行できただろうかと思いをめぐらせていた。造幣局の壁を飛び越えるときに、後ろを振り向いたが誰も追ってきている様子はなかった。


 一方、女子トイレ側にいたオータムとメロンが防護服を着た小さな人とすでに壁を登っていた。作戦は成功していたようだ。


 防護服は頭の部分だけ脱がされており、メロンがその頭の部分を持っていた。メロンの勘通かんどおり女の子だった。


「なんですか! あなたたち。どうやって」

彼女の目には涙が浮かんでいた。興奮こうふんおさまらず。


「この首輪を外さないとバレて殺さ――」

「大丈夫。大体こういうものは、本人以外なら外せる。それにこのくらいの大きさの首輪なら機能としてあるのは、せいぜい発信機や盗聴器が限界だ。とても人は殺せないよ」

 オータムは慎重に首輪を外し、工場に向かって投げた。


「あ。ほんとです! 私、戻らないと……」

「人間は特に監禁かんきんされたときには自己防衛のためにストックホルム症候群しょうこうぐんおちいりやすい。それは仕方がないことだ」


 ごめんねと言いながら、何か液体がしみ込んだハンドタオルを嗅がせると彼女の力抜けてしまった。


  メロンは先に壁を乗り越えており、俺は壁の頂上にいた為、オータムから彼女を受け取り、何とか壁の外に出すことに成功した。


「よし。やってやったぜ!」


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