第5話 目で見えるものが全てじゃない

「博士のメッセージをどう読むんだよ?」


 もう博士のメッセージの意味が解読かいどくできずに諦めていた。恐らく俺が考えなくても、オータムが答えをみちびき出すだろう。


 ふとメロンを見ると苦そうにコーヒーを飲んでいた。いつもはオレンジジュースしか飲んでいるイメージしかなかったが、めずらしい光景だった。



「メロンってコーヒー飲めたんだっけ?」

「飲めたよ! ……博士セレクトのコーヒーは、だけど」


 メロンは食品棚に置かれた金色のパッケージ袋を指さして答えた。博士はコーヒーに対するこだわりは強く、お気に入りのコーヒーしか飲まない。


 味は若干じゃっかんの酸味はあるが、優しい苦みでスモーキーな香りがあり、口あたりが優しくて飲みやすい。

「僕も飲もうかな」


 オータムもコーヒー袋を取りに向かい、コーヒーメーカーにコーヒー豆を2杯分入れた。手際てぎわよく給水タンクに水を入れ、ドリップ式のコーヒーメーカーのボタンを押した。

 ボタンを押した瞬間、すさまじい音をして、フラットカッター式のミルが動き出した。


「珍しいパッケージだよな。どこで生産されているんだろうな?」


 オータムにそういうと袋の裏面に書いてある文字を真剣に読みだした。

 博士が生きているときにはまったく気にした事がなかったが、今はなんだか興味を持ち始めていた。


 博士から「色んな事に興味を持ちなさい」と言われていたことを思い出していた。どんなことにもアンテナを張っていれば、新しいアイデアが出てくると耳が痛くなるほど言われていた。



「この僕たちがいる11区の町に工場があるらしいよ……これだ!」

 オータムは自問自答じもんじとうしているようだった。


「何が!」

 メロンは驚きながら、うれしそうにオータムに反応した。

「博士の伝えたかったメッセージは、このコーヒー工場に行けってことだよ」

「そんなものなのかよ」



 興奮気味こうふんぎみのオータムを尻目に俺は冷めていた。


「ところでメッセージに書いてあった『〇』は何を意味するんだよ」と言ったがオータムはこちらを見ずに、右手をあごにあて、うなだれていた。その答えは出てこなかった。


「なるほど! 一回、行ってみようよ、フィン! アテなんかないんだし。そういえば、あそこって警備の人がいたよね?」


 ノリ気でコーヒー工場の話を始め、俺を説得するように話を進めた。思い返せば、大きな工場地帯があったなと思っていたが、興味がなかったので気にもしていなかった。


「僕もなんであのコーヒー工場に警備がいるのか気にはなっていたんだ」

「なにか手がかりがあるかもしれないね。手がかりを持ってかえろう」


 どうやらオータムとメロンはこのコーヒー工場には心当たりがあったようだ。なんだか俺が見ていた景色と2人が見ていた景色が違ったようで悲しい気持ちになった。

「警備か! 大丈夫だ! 俺がぶっ飛ばしてやる。やってやるぜ」


 せめてもの役割はこれだと思っている。戦闘能力では2人はまず負けないし、運動神経もずば抜けている。喧嘩も俺は住んでいる地区で負けたことがない。たとえ、オズワルドのやつが来たとしても、負ける気は全くしなかった。


「人を傷つけたらだめだよ。だめ」

 メロンからはさとされたが、本気で言っていた。工場見学やアルバイトとして潜入する案も出たが、ネット募集していなく、電話で問い合わせても募集してなかった。


 つまり、急ぎで工場に入るには、忍び込むしか手段はなかった。


 工場までは車で30分ほどのところにあった。俺たちは近くまで俺の車で行き、近くの有料駐車場に車を止めた。




……………………………

お読みいただきありがとうございます。

ぜひ、いいねを押して応援して頂ければ嬉しいです。

引き続き宜しくお願いします。


黄緑

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る