第41話 寒い魔獣狩り

 シロヤマの島の森も雪が降り積もっている。寒い。魔道具があってもここまで寒いとは思わなかった。ヒューロ以上に厳しい冬らしいな。てか。何で旅人かつ他所者の俺が狩りの手伝いをしてるんだ?


「何で俺もこちらに?」


 毛皮で出来たコートを纏う、猟師のおじさんがにっこり笑った。


「ちと人手不足でな。若い奴らが動けないんだ。ありとあらゆる精霊の加護があるお前の話を聞いて、おしかけた!」

「ここまで強引にやる人、初めて見ましたよ」


 拒否権なんてなかった。相手が王様とかじゃないから断る気だったのに、その暇さえ与えなかった。卑怯じゃね。というか何を狩るのかすら知らねえんだよな。聞いとかねえと。


「ところで何を狩るんです?」

「ちょいとデカい鳥の魔獣だよ」


 飛ぶのかよ。援助程度しか出来なさそう。


「なあに。小屋で術師と合流する予定だ。それでどうにかなる」


 と猟師が答えていたけど、だいぶ適当な感じするんだよな。大丈夫か。魔獣って油断したら、こっちが死ぬなんてこともあり得るし。


「心配することないさ。俺も死ぬつもりはねえからよ」


 普通に読まれてた。顔に出てたっぽいな。俺。


「ふう。着いたぜ」


 ちょっと歩いたら小屋に到着。木で出来た小屋だな。あの大きさだと長期間の滞在を前提にしてなさそうだ。窓から湯気が出てるってことは人がいるな。間違いなく。


「よお。ニヒ。イダテン。調子はどうだ」


 猟師が普通に小屋に入って話しかけている。俺も急いで中に。暖かい。術で何かやってるっぽい?


「ああ。ぼちぼちってとこだ。てか。誰だよ。そいつ」


 ぶっきらぼう。そんで指してる。年齢は多分この猟師と変わらなさそうだな。札。杖。水晶。術師なのは間違いないか。


「初めまして。術師。エリアルと申します」

「ああ。助っ人か。術師のニヒだ。よろしく頼むわ。えりー」


 もう慣れた。何も言わないで握手。


「此奴がイダテン。いつもは農家をやっとるんだが、この冬だから参加してるって感じだ」


 角を生やした無口な男が頭を下げたな。


「で。漁師のヤーサンよ。此奴使えるのか?」


 何も知らないからな。ニヒさんの言葉はごもっともだ。ヤーサンが楽しそうに笑ってる。


「ああ。良い武器を持ってることだしな」


 クロスボウ。ヴァスティラで貰った、とんでもない武器。星天諸島で使うとは思わなかった。


「とんでもない魔武器だな。つまり此奴は何かのコネを」


 ニヒさんが何か狙っているような感じだ。あわよくば自分も接触して仕事に繋げて金を得る気だろ。


「職業病抑えろ抑えろ。奴は来たか?」


 ヤーサンが抑えて、イダテンさんは何も言わない。これでいいんだろうな。いつものことっぽいし。


「来てる。そろそろ行くべきだ」

「よし。行こうか」


 そんなわけでちょっと歩いて戦いやすいところに移動。周りに木。山。上には羽ばたく魔の鳥。足がデカい。翼もデカい。鷲に似た何かって感じだな。魔獣の部類はここに来てから初めて見たけど……邪悪さとかは一切ない。定期的に狩って、自然を調整していく感じなんだろうな。


「足場。作った」


 ニヒさんが術で足場を作った。数秒で地面から出してるってことは地面操作か。


「そらよ!」


 ヤーサンが持ってるのは斧だな。イダテンさんは鎖が付いた鎌だけど、どう使うのかは分からねえ。見たことねえし。鎖の先っぽに付いてるのは分銅って奴か。それを投げたな。魔道具のひとつなのか、結構な威力だな。鳥が悲鳴をあげてるし。


「魔獣は強い。だから大体は動きを止めて、大きい技で仕留める。専用の毒を用いるわけだが」


 ご丁寧に解説してくれるニヒさんの視線は俺のクロスボウに。あーそういうことか。


「俺がやるってことですか。仕留める役目を」

「そういうことだ。頼む。どれぐらいで放てる」

「数秒あったら十分です」


 久しぶりだからちょっと不安なんだよな。魔道具使用経験、下手したらガチ戦闘勢の将軍様より劣るだろうし。


「それでいい」


 何かパパっと両手が動いている。……今は撃つことに専念しよう。矢の先に雷が纏い始めている。少し黒くなったら、いつでも撃てる。暫くは使っていなかったから溜まってて、短時間で撃てる感じにはなってるんだよな。


「二人とも、奴から離れてくれ」


 鳥が止まった。ニヒさんの指示で、イダテンさんとヤーサンが飛び降りた。数秒でこっちに来た。狙いを定めて、矢を放つ。よし。首に当たった。丸焦げにならないことを祈ろう。火力がとんでもないからな。マジで。どんどん落ちてるし、勢いがどんどん増してるし。あ。地面に衝突した。雪しかないから、煙とかはないけど。


「解体はいつものところでやろうか。紐寄越せ」


 イダテンさんとヤーサンが黙々と持ち帰る作業に専念。またニヒさんから視線がある。


「だいぶ楽にやれた。魔道具の作成も悪くはないかもな。専門に頼るか」


 俺のクロスボウに興味深々。相手が強いから丸焦げとかにはならないけど、威力が凄いから調整必須なんだよな。そこら辺は理解……してるはず。


「戻るぞ!」


 ヤーサンの後に付いて行く。多分そこまで時間はかかっていない。けれど疲れた。宿に戻ったらゆっくり休もう。

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