第18話 白い御使いの兄妹
ジンドリガッセンは2日後らしい。観戦は無理だし、ジッキョウとやらで把握するしかなさそうだ。とりあえずやることねえからブラブラと。坂が多くてびっくりだ。足腰が鍛えられるんじゃねえかな。木の塔に看板がある。誰でも入っていいらしい。お邪魔してみるか。
「……」
メッチャ静かだった。当たり前か。本を読みとこっぽいし。しかし参ったな。ちょっとしか文字読めねえんだよな。小さい子が読むぐらいなら何とか。あった。桃の絵だよな。鳥と犬と猿。あっちで読むか。椅子あるし。
ここにいると別世界にいるんじゃねえかって感じる。すげえ静かだし、騒がしいものが入って来ねえし。この本読み終わったし、別の本を取って読むか。ここに戻すとして。
「届かへん。んー!」
白い女の子が懸命に伸ばして高いところにある本を取ろうとしていた。全部が真っ白。獣の耳も尻尾も髪も肌も服も。金色の瞳って珍しいよな。困ってるみたいだし、手助けしておこう。
「どうぞ」
「お。おおきに。助かったわ」
分厚い黒の本を抱えて、俺の周りをグルグル。顔近い。
「うーん。大陸の格好やけど、顔は明らかに西の方やな。しかもこの気配、明らかに弄った感じがしとる。ああ。あんた。話に聞いとった精霊王の器やな」
この女の子、ただ者じゃねえ。距離を取っておかねえと。
「うっわその反応、傷付くわー」
傷付くとか言いながら、顔に出てねえんだよな。棒読みだし。
「誰だって警戒すると思うのですが」
ほとんどの奴が俺のことを知らない。あそこまで細かく知ってるとなると、何かあると考えてもいいだろ。
「まあ。それもそうやな。せや。マーリンって知っとるか」
これ知り合いの名前出して、油断させようとかそんな感じじゃねえだろうな?
「ええ。知ってますが」
「やっぱり。付いてき。ちょっと頼みたいことがあるねん」
頼み事か。何だろうな。本棚がたくさんあるこの塔から出る事は確定だと思うんだけど。出る気配ねえな。どんどん奥に行っちゃってるし、術解除して床下の入り口が出てきたし。階段下って地下に入って。狭い廊下を歩いて。ひょっとして、この塔の主はこの人か?
「ほんまに警戒しとるんやな。そこまでやらんでええで。本気でやり合ったら、うちらが勝つんやからな」
周囲の警戒してたのバレてた。本気でやり合ったら確実に勝てる。そもそも極東のこの地で俺のことを把握してて、マーリンを知ってるとなると、かなりヤバイ。どれだけ必死にやったところで勝ち目はねえってことか。ここで行き止まり。ノックしたな。
「お兄さま。例の男を連れてまいりました」
この子の言葉遣いが変わった。兄に対しては敬語になるのか。
「ああ。入ってやー」
男がいるな。ノリが軽いというか、胡散臭いというか、そういった感じのが。女の人、引き戸を開けた。木の部屋なのは変わりねえ。本がたくさんあるのも。その中で浮いている水晶が異様に目立ってるな。真ん中にらせん状の椅子みたいなのあるし。
「お。やっと来たか。邪神を倒した英雄様が」
その椅子に座っている男が下りた。此奴も真っ白だな。糸目の獣人族、多分この女の人と血縁関係ありそう。そんでやっぱ俺のこと知ってた。
「遠いとこからよく来た。エリアル・アンバー。神の御使いとして歓迎を。そして世界を救ったお礼をせねば」
雰囲気がガラリと変わった。神の御使い。こんな身近にいるわけねえと思うんだけどな。でも本物だよな。
「おっと。こういう堅苦しいのは苦手か。さてと。自己紹介といこか。アマタノカンタや。君の隣にいる子が僕の妹の」
「コンコや。よろしゅう」
カンタとコンコ。兄妹ということもあって、真っ白だもんな。獣人族とは思えない神秘的な何かもあるし。
「さて。僕達はかなり昔から住んどってな。色々と知っておるんや。何か気になることでもあるんとちゃう?」
カンタがゆさゆさと揺らしてるな。期待されても困るんだけど。
「ほら。何か、あるやろ?」
顔近づくな!
「お兄様、そうやって圧をかけるのも如何かと思うのですが」
「おっと。これは失礼」
妹がいて助かった。カンタって奴、グイグイ来るから困るんだよな。
「さあ。ほら。ほら」
両手でパンパン叩いてる。カンタの絡みがうぜえ。聞きたいことはあるにはある。でも全部真面目系でガッカリしそう……なんだよな。勘だけど。
「あの……お兄様、いちから説明した方が早いのでは。国としてこうなってるんだぐらいで終わりますよ。今の彼は旅人ですし」
本当に妹がいて良かった。カンタと俺2人きりだったら、ぜってえ会話成立してなかった。
「まあ。それもそうやな。あんば」
おい待てこら。発音出来るのにわざと「あんば」っつったよな!? これ以上突っかかっても無駄だし、反応とかは止めておこう。やるだけ疲れる。
「聞きたい事があるんやけど」
「はい」
カンタはニタリと笑って聞いてきた。
「会ったことあるか。生まれが極東の島国だと偽る子に」
と。
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