古都の島

第16話 桜が咲き乱れる島

 コトの島行きの船は立ち止まることはあっても、他の乗客が降りたり乗ったりする程度で、俺自身が降りるなんてことはなかった。交代制をきっちりやってるからだとかそんな感じらしい。そのお陰で思ったより早く着きそう。


「花びら?」

 上陸する前にピンク色の花びらが見えた。この感じは桜だよな。前の方を見ると、ピンク色のところがいくつもあった。綺麗だなって思うんだけどよ。ひとつ……突っ込みてえ。桜って確か……春に咲くはずなんだよな? あと一部の木の葉っぱが赤くなるはず。


「おーおー。大陸育ちの兄ちゃんの口が開かんとはこのことやろな」

「おもろいわ」

「いやどっちか教えろや!」


 後ろにいる男3人が教えてくれるっぽい。てか、後ろ振り向いたら教えてくれた。


「コトの島にある桜は特殊で年がら年中咲いとるんよ。他の島にも桜はあるけど、普通に春に咲くで」


 俺が持ってる知識は間違ってるわけじゃなかったというのを知って、ホッとしたよ。焦ったし。


「何故ずっと咲いとるかは不明。一説にな。とある物騒なものがあるねん」

「物騒ですか?」


 ずっと咲いてられるのにカラクリがあるっぽいけど……すっげえヤな感じ。


「そう。話にも出て来る有名なあれ。と言っても知らんやろうし、教えてあげるわ。とある昔。戦がたくさんある国があったらしいで。火の術を使っておった時代もあったとか」


 そういうのこっちにもあったのか。国が違くても、やってることは同じと。


「草木は無事にすまされないはずやのに、不自然に元気なのがあったんやて。ピンク色の先が割れとる花びらがずーっと咲いとる。太い幹の桜だったんよ。流石にずっと戦ばかりやないし、色々と手を結んで、国が平和になって数年後。信じられないことが起きたんや」


火があっても無事な桜の木か。魔術師が守ってくれましたとかそんな感じじゃねえよな。糸目の男が言う信じられないことって何だろ。


「なんとな。火があっても元気やった桜の木がな。枯れてしもうたんよ!」

「はあ!?」


 枯れた!? 何で!?


「災害が起きたわけでもない。誰かが傷つけたわけでもない。なんでやろってみんなで傾げてそれでしまいになっとる」


 やべえのは分かったけど、どの辺りが物騒なのかさっぱりなんだよな。うわ。にやーって笑ってる。


「話自体は終わりやけど、賢い奴はこう考えとるんやで。あの桜は死体の血を吸うんやないかって。だから戦が終わって数年後、枯れたんちゃうのって」


 こっわ! 血が水代わり!?


「まあないやろけどな。そんなもの。だって血なんて限定的過ぎるし」

「せやな。もっとええ方法で生きてるのかもしれんって感じで」


 俺に理解できないような話がボンボン出てきた。物騒じゃないだけマシか。血とか死体とかそういうの出てねえし。


「おーい。降りてええで」


 船乗りのおじさんがそう言ってくれた。知らない間に到着してたのか。桜にまつわる話を聞いてたからな。気付かなかった。


「いやーあっという間やった。話に付き合ってくれておおきに」

「いえ。こちらこそ。ありがとうございました」


 おっさんたち降りたし、俺も船から降りよう。風吹いてるな。山の方から桜の花びらが来てる。さあて。どこに行こう。とりあえず人がいるとこに行くか。


「すげえな。この賑わい」


 適当に町入って後悔した。多すぎる。いくらなんでもやべえって! ジンドリガッセンとやらがあるからだろうな。きっと。疲れてるから、静かで人があまりいないところでゆっくりしてえ。良いとこ、ねえかな。木の看板に茶屋って書いてる。しかもこの門の先、誰もいねえ。よし。ここでひと休みしとこう。


「すっげ」


 金払って、中に入ったら、凄かった。ピンクの花びらぶわってなってた。ここまでピンクだらけな庭、生まれて初めてだ。肝心の店は……あった。あそこだ。木の小屋みてえなの。


「いらっしゃい」


 誰もいなかった。静かだ。適当に茶と菓子頼んで、のんびりとしておこうっと。そんで宿探しはのんびりとやっておこう。



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