神来の島

第9話 酒を造る場へ

 昼になる前にミコの島に到着。うっわ。絵でこんなもんかって思ってたけど、山のてっぺんにあるのがジンジャとやらだよな? 子供にとっちゃ、キツイどころのレベルじゃねえって!


「あー旅人さん、無理に行かんでもええからな。歩いて行けるとこやないから」


 船乗り、どうして分かったんだろ。あー……山の方見てたからか。つか。普通の人でも無理なのか。あれ。あんだけ高いとそうだろうな。あれ。でもちょっと待て。管理とかどうなるんだ? 一応建物なんだよな? 術があれば問題ねえか。俺が使えないだけで。そうしておこう。


「おーい。突っ立ってねえで降りろ」


 そうだった。降りてなかったな。考え事してた。


「ああ。すみません」


「初めてここに来た奴大体そんなんだから。気にするな」


 そんな感じで船から降りて、人のいるとこまで行こう。そんで宿でも探そう。なんか……白くて屋根が灰色みたいになってる建物がやけに多い気がするんだよな。煙突っぽいのあるし。店っぽいの発見。ちょっと見ていこう。


「いらっしゃい」


 白い布、のれんとやらがあるのか。下は……木の床か。で何が置いてあるんだ。おー。瓶がいっぱい。丸いテーブルにも置いてあるし、棚にも置いてあるし。すげえなこれ。今気づいた。ラベルに酒って書いてる。筆で書いてるな。ぼとぼとみたいなのあるけど……わざとだよな。多分。


「お客さん。購入なさいますか?」


 見てたら店員に話しかけられた。赤茶色の尻尾の穏やかそうな男の人。白い布被ってるせいで、頭はさっぱり分からねえ。購入か。流石に飲み切れねえし、割れ物だしな。買えねえ。


「いえ。旅をしてる身ですので」


 あれ。何で考え込んでんだ? どっかに行っちゃった。顔だけ裏に入れてるな。誰かに聞いてるのか。戻って来た。


「時間が空いてるのなら、見学でもしませんか? 35銭払う必要はありますが」


 そー来たか。


「見学って何のですか?」


 想像は付くんだけどよ。念のために。


「お酒を造る工程を見るんですよ。ここは売る場でもありますが、造る場でもあるので」


 本当にそういうとこだったのか。ここ。あ。今気づいた。奥に数人固まってる。あっちからお邪魔する形になるのか。酒を造るとこ、見たことねえし、参加しとこう。その前に払わねえと。えーっと。これでいいのか?


「大丈夫ですよ」


 良かった。ここの通貨、よくわからねえからな。慣れてないだけだと思うけど。カツンカツン音が近づいてきてる。額に角がある黒髪を切りそろえてる男の人。服白いな。この人が案内してくれるのか。


「どうぞこちらへ。始めますので」


 俺が最後だったのか、見学会が始まった。木のドア開けると……すげえな。出来上がった酒がたくさんある。木の樽に入れて保管してるのか。運べるぐらいの大きさが10もある。瓶に入れてるのもあるな。保管庫って感じか。


「ちょっと外に出ますよ。製造場は別の建物にありますから」


 眩しい。昼近くだもんな。当たり前か。本当にちょっとだけだ。そんなに歩かねえで製造場とやらに入ったしな。ガラガラ鳴る戸を引いてくれて、中に入った途端に……この風は何だ!?


「泥とか汚いもんをここで落とすとこです」


 大事な商品に余計なものは入れさせないってとこか。それ言ってから風吹いて欲しかった。タイミング的に無理っぽいけど。2重のドアだよな。外と中と。


「草履とかはここで脱いでください。専用のものに履き替えてください」


 すげえ徹底的だ。情熱があるから……なのか?


「どうぞこちらへ」


 酒って発酵とやらをして絞って作るんだよな。元になるものをどっかに置くとか、足で踏むとか? 想像つかねー。


「こちらが酒の製造の全体図です」


 木の板に書いてあるのは分かる。筆で豪快に書いてるのも分かる。矢印のおかげで順番も分かる。ただ問題は俺の知識じゃ読めねえってことだよな。習ってねえのばっかなんだけど。素養どうこうじゃねえこれ。


「全部見て回りたいとこですが、時間がかかりますので、コウジの部屋からです」


 どこまで飛ばしたのかさっぱりなんだけど。俺以外読めてるよな。周辺に住んでるっぽい人だらけだし。聞いた方が良いんだろうけど……やりづれえ。


「こちらがコウジの部屋です」


 ちょっと歩いてコウジの部屋とやらに到着。白い板に太い筆で「麹ノ部屋」って書いてある。おーなんかやってるな。遠目から見てるから動かしてるぐらいしか分からねえ。


「その名の通り、蒸した米を麹に変える部屋です」


 途中で米、蒸してるのか。てか。材料、米だったのか。初めて知った。


「大陸から来てるお客様もいますので……追加で説明を」


 それはありがたいです。本当に。


「ご存じの通り、ここの酒は米で作られています」


 ごめん。それさっき初めて知ったことなんだよな。


「ただし、米は米でも食べる用ではなく、酒専用のものを使います。その米を洗い、綺麗にし、蒸していきます。それぞれに合わせて、温度の調整をしていきます」


 酒専用の米ってあるんだ!? へー……。


「今は術を使い、簡単に調整しております」


 魔術って便利だな。温度の調整も出来ちゃうし。


「その蒸した米をここの部屋に持っていき、半年に一度貰える大事なものを使って、麹にしていきます。とっても重要な儀式として扱われています。神様もいただくものでもありますし、美味しいものを作って欲しいという気持ちもあるのでしょう」


 どこの神様も酒、好きなんだな。ヒューロにいる恵みの神様を感謝するためにワイン出したりするし。


「運が良かったらと思ったのですが、次のところに行きましょうか」


 え。運が良かったら何が見れたんだろ。うっわーすげえ気になる。でもダメっぽいし、諦めるしかねえか。デカい木の引き戸の向こう側、木のタンクみたいなのずらーっと並んでる! でけえ!?


「ここで、もろみ造りを行います」


 空中に数字とか文字とかが浮いている。ここ全体に術式が組み込まれているのか? 高い土台で作業してる。棒でかき混ぜたりとか、術使って何かしたりとか。


「ゆっくりと発酵していくことが大事です。全部を入れるのではなく、少しずつ、少しずつ」


 面倒だから全部入れちゃえってなっちまうけど、酒造りはそういうのダメなのか。


「発酵したものはこちらに持っていきます」


 あれだけあると圧巻だな。でかいし多いしで。流石に次の部屋は小さかった。押し潰すのか。やっぱ潰すのあるんだな。


「ここで絞っていきます」


 袋に発酵したものを入れて、木の箱に詰め込んで、上から押すのか。これも術で組み込まれてるっぽいな。魔法陣っぽいの下にあるし。蓋っぽい金属の上にデカい岩置いてあるけどあれ……意味なくね? あとちっちゃい子がやった落書きのような。目……動いてるんだけど。


「そうそう。シキガミが見てくれるんです。正式名称エンザンシキノカミ、通称エンシキ。ここ以外にも配置されており、微調整を行ってくれる優秀な助手です」


 ただの落書きされた岩だと思ったら使い魔っぽい奴!? つか。高度な技術だよな!? 明らかに!


「あとはろ過と加熱をして、貯蔵して終わりです。酒はとても大事なものです。どうか神に感謝をしながら、楽しんでください。もちろん。飲み過ぎには注意を」


 いやー貴重な機会だった。酒を造るとこの見学。初めて知るようなことばかりだった。問題はあれだな。どうやってヒューロの言葉にするかだよな。本にする時の一番の山場かもしれねえ。

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