小さき島その1

第7話 玉兎の島

 そろそろ別の島、1番近くて結構大きいミコの島に行こうって感じで、出ることを決めた。実は着いてからちょこっとずつ調べてて……いや違うのか、ゴロゴロと寝っ転がりながら、畳みとやらの床の上で本読んでただけだし。うん。まあとにかく、予定を決めて、夜にカオルさんに言って寝た。太陽が出始めた時間帯に起きて、静かに宿から出発だ。


「今までお世話になりました」


「おう。また来な」


 カオルさんに今まで世話になった分の金を渡して、干潮で盛り上がってる幅広い砂の道を歩いて……すげえよな。普段ならここの道、海の下なんだよな。

 

 こうして、俺が寝泊まりしてたとこにある海蛇の島から川蛇の島に移動。そう言えば、商売人、しばらく宿に帰って来てねえんだよな。どうしてんだろ。カオルさんから出たって話は聞いてねえし、まだどっちかの島にいるはずなんだけど。えーっと地図だとあっちか。


「すみません。ミコの島行きはどちらに」


「ミコの島行きの船はこっちだよ」


 迷わずに行けて良かった。北にある川蛇の島の港に着けた。暑い時間に歩くのは正直キツイ。小さい額の2つの角が生えてるおじさんが案内してくれるのはありがてえ。


「その赤毛。その異国の服。昨日活躍してた旅人だね。なんだ。ここから出るのかい」


 あー交流会というか食事会に参加してた人か。あの球技のチームに入ってなかったはずだしな。


「ええ。色々と回って行こうかと思ってます」


「ミコの島はえーよ。飯が美味い」


 そう断言しちまう辺り、相当なんだろうな。期待しとこ。


「さっさと船に乗っちまいなよ!」


 シュンガンから海蛇の島までの船とはだいぶ小さいな。見上げるほどじゃねえし、ジャンプして乗れるぐらいの高さでしかねえし。そこまで時間かからないってことか?


「はい!」


 ちょっと時間が経ったら、船が動き始めた。俺以外にも何人か乗ってる。ぱっと見、20人ぐらいか。1番早い出発時間らしいけど……家族連れが多い気が。


「うさぎちゃんと遊べる!」


 ミコの島にそんなとこあるのか。神様が集まるとかそんな感じらしいから……想像つかねえ。シュンガンみてえにド派手な赤色の塔がある感じなんだよな。絵を見てる限りは。ぱっと見、小さい子が遊べるようなとこ……あるとは思えねえんだよな。メモを見て確認しとくか。あ。旅用のメモ盗られた。


「こら。何しとんねん! 物を盗ったらあかんで」


 ウサギのたれ耳みてえな感じの小さい子が興味津々に取ってた。見るのは別にいいけどよ。俺の出身国ヒューロの文字なんだよな。その子のお母さんっぽい人、叱ってる。


「ごめんなさい」


 謝りながら傾げちゃってるし。やっぱり読めねえよな。俺のメモ。


「旅人の方、カンニンナ」


 多分ごめんなさいと同じでいいんだよな。場面的に。


「いえ。気にしないでください」


 戻って来たから気にしてはねえしな。えーっとまとめた奴あったし、確認っと。カオルさんのとこにあった本だと、本当に小さい子が遊べるとこねえんだよな。まあ子供って道具と場所さえありゃ、遊びをするもんだし、関係ねえのかも……しれねえけど。俺もおもちゃなくても遊んでたし。


「ギョクトの島に着くぞ。ちょいとひと休みじゃ」


 あれ。立ち寄るんだ。見た感じ、船乗り1人だけっぽいし、休むのも納得。メモとか背負いの鞄に入れておこう。手早く船を動かないようにやったな。一部の人達、降りてる。何でだ。


「ここにしかいねえウサギがいるからな。珍しいもの目的で見に行くって奴は結構いるぜ。ま。俺は船の上でぐーたらするけどな」


 ごろごろ寝っ転がってる俺とそこまで変わらない歳の男の人が教えてくれた。ちょっと見に行こう。


「タツノコクになるまでに戻ってくれよな」


 船乗りがそう言ってるけど……未だにこういう独特なの、分からねえんだよな。9時までに戻っておけばいいのか? とりあえず様子を見ながらか。


「何だこれ」


 で。住んでるとこの中心に人が集まってるとこあると思ってよ。そっちに行ったら、凄いの見ちゃった。木で出来た器から白くて伸びてる何かがあって、薄い紫色のウサギが柄の長い木のハンマーみてえなのを持って、器っぽいのに叩いてる。もう一匹のウサギは台みてえのに乗って、足というか手というかそういうので白いのをぺしペしやってる。


「信じられないだろ。分かる。本の世界まんまだからね」


 子の付き添いで来たっぽいお父さんの言う本の世界ってどういうことだ。


「本の世界とは」


「ああ。お前さん、旅人か。月に住むウサギは餅をつくと言われていてね。色々な物語でそういうとこ、書かれてるんだ」


 月に住むウサギかー……まあ流石に直接こっちに来るわけじゃねえし、たまたまそうなったってだけなんだろ。魔獣の1種だと考えれば。


「理由はさっぱりだが、魔獣の進化でこうなったらしい」


 やっぱ魔獣なのか。5歳ぐらいの男の子が来たな。小皿に出来立ての餅が積んでる。よく走ってて落とさなかったな。すげえ。


「お父さん、貰って来た!」


「おう。ありがとな」


「お兄ちゃんも」


 俺もか。いただきまーす。大陸にいた時って甘かったけど、何もない状態だとこういう感じか。甘いの苦手だからきっつーなんて思ったことあったけど、無かったら無かったでうん……欲しくなるもんだな。


「喉乾いてる人はどーぞ! 12銭いただくけど!」


 やっぱどこに行っても、商売人って、売れると思ったタイミングで動くよな。喉乾くし、買うけど。


「マイドー!」


 飲み終わったし、ちょっとブラブラしてこう。緑の原っぱを通って、ちょっと登って、高いとこに。何だこの木の塔は。看板はあるけど。うーん。読めねえ。これ以上行けそうにねえし、時間のこともあるし、船にもど……ウサギいた。お前どうやって付いてきた。途中からガチでやったから、付いて行けそうにねえと思うんだけど。よし。細かいの考えるのは止めておこう。ぜってえキリがねえ。


「無理するなよ」


 通じてるかさっぱりだけど、とりあえず言っておこう。流石に今度は付いてこないはず。


「えー……」


 そう思ってたよ! 普通に付いてくるか普通は! そりゃ魔獣っつっても……大きさは普通のウサギと同じだし、俺ある程度鍛えてるはずなんだけどな。どうなってんだろ。てか。この拍手は何だよ。先に戻って来てる人達、パチパチ手で拍手送ってるんだけど。あ。船乗りの人、起き上がって、人参あげはじめた。当たり前だけど、ウサギはぼりぼり食い始めたな。


「いやーおもしろいもん見れたわ」


 そんで俺に生の人参を差し出すか。いらねーよ!


「ご遠慮します」


「冗談やて」


 俺が最後ってわけじゃなさそうだな。ちょっと待っておけば……船乗りのおっさんが小さい鈴を鳴らし……え……鳴らした?


「うわっと!?」


「きゃ!?」


 船の上にカップルっぽいのが空から落ちてきた。あの鈴、魔道具だったのか。いきなり転移して、落っこちてきて……驚いて……ねえな!?


「たく。イチャイチャすんのは構わねえけど、時間を守れ。時間を」


「すみませーん」


 慣れてるな。あの2人。


「そんじゃ出発すんぞ」


 船が動き始めたな。うわ。俺を追っかけてたウサギ、見送ってる。魔獣にしちゃ……人間臭い気がするけど……うーん?

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