第4話 ちょっとした観光
サシミ食って寝たけど……うん。良かった。何ともなかった。今日は気になってるとこに行ってみるか。昨日のおつかいで歩いた時に見かけたデカい建物。全然情報ねえから、カオルさん達に聞いてからにしとくか。
「カオルさん。すみません」
「お。なんだ。聞きてえことあるのか」
「はい。昨日見かけた大きい建物のところに行きたいのですが」
「おお。ここじゃ有名なとこだよ。後で地図渡しとくから待っとけ」
で。その地図を見ながら、デカい建物があるとこまで歩いた。きつかった。いやカレンの山道に比べりゃ楽だったけど。暑い中で歩くのとは別だからな。やたらと人が多いな。有名なとこだっての理解した。売れるの分かってるのか、建物の前にある平たい道のとこで、露店なんて出してる。日差しが強いから布で日陰作ってやってるな。あとは木陰を陣取ってのとこもあるし。
「キンキンに冷やした炭酸水はどうだね!」
「土産に買っとけ!」
「歩きながら食べなよ!」
水筒に飲むもの入れてるし、今回はスルーでいいか。にしてもデカい門だな。オレンジ色の板を重ねた屋根とか赤い柱とか。馬車が通っても、歩けるってすげえ。板に筆で書いたっぽい文字があるけど、何て読むのかさっぱりだな。原型崩れてねえかあれ。
「観光案内が始まるまであと少しだよー」
観光案内か。門をくぐって右の方にいる耳の尖った……多分エルフか? その黒髪の女性がのんびりとした声で言ってるな。きちんと帯で結んでるし、清楚な感じが伝わって来る。有名なとこだからか? ま。1人でぐるぐる回るのは効率が悪いし、参加出来るかどうかを確認しねえと。
「すみません」
「君も参加するんだね。いーよー」
俺……何も言ってねえんだけど。それでいいのかよ。まあいいか。
「兄ちゃん。デッケエ。どこから来たの?」
小さい子に質問された。腰辺りの背丈だな。ぼさぼさの黒髪黒目。宿の近くにいる子と肌の色がだいぶ違うよな。あれか。日焼けしてるかしてないかの違いだな。
「こら! 失礼なことを言わない!」
「はーい」
「すみません。うちの子がとんだご無礼を」
お母さんっぽい人が叱ったな。俺はそこまで気にしてねえんだけどな。
「いえ。大丈夫ですよ。気にしないでください」
これで通じるよな。多分。あ。ホッとしてる。
「兄ちゃんまたねー」
小さい子は懲りずに声かけてきたな。強いな。ある意味。
「えーっとそろそろ観光案内始めまーす。この箱にお金を入れてください」
最初に金払う奴だったか。でっかい文字が目立つな。あの木の箱。丸い銅の板を4つか。
「はーい。それじゃ私についてくださいねー」
全員払い終わったの確認してからスタートするのか。建物がいくつかあるけど、全部赤いな。シュンガンで見かけた感じのが多い気がする。流石に高さはねえけど。
「ここの海蛇の島周辺にカツテ王国があったと言われておりまして―」
カツテ王国? いや違うな。かつて、王国があったか。学んだりとかはしたけど、実際に人と話すと聞き取れなかったり、分からねえとこ、出て来るな。
「ここはそのお城だったというわけでーす」
赤い城って結構目立つよな。何でだろ。主が派手好きだったとかか?
「ここにあった王国は大陸の国と交流がありましてー」
あ。やっぱグスター大陸の国と関わりあったのか。
「その影響でこうなったと考えられてまーす」
こののんびりとした感じの、妙に緊張感が抜けちまうな。こんな暑いとこじゃなかったら、眠くなりそう。赤い建物にどんどん近付いてってるな。入るのか。玄関みてえなとこに厳ついライオンっぽい像が2つ。どっちも赤いな。
「この赤いシシは守り神みたいなもんですね。ええ。入りますよ。土足で大丈夫でーす」
あ。靴脱ぐ必要ねえのか。やっぱ日が当たらないと涼しく感じるな。ツルツルとした黒い床。上はー……緑色か。黄色の線で模様書いてる。花とか葉っぱとか蔓とか。
「名称とかは不明ですが、ここの文化のものだと言われてますね。付いてきてくださいよー」
置いてかれるわけにはいかねえ。行こう。壁とかねえから普通に外見えるし、暑い風が来るよな。あと、こっから見て気づいた。あのデカい尖った岩、浮いてるよな。どっかの芸術家が置いたって感じしねえし。
「赤毛の兄さん。どうしましたか」
案内人の人に声かけられた。楽しそうに聞いてるのは気のせいか?
「あ。いえ。向こうにあるあの岩、何だろうなと思っただけです。以上です」
うっわ。ニタリと笑ってるんだけど。怖い。何が起きるんだ。これ。
「ええ。違和感があるなと思う人、何人かいると思いますし、お答えします。昔落ちてきたインセキとやらだと言われてましてですね。まあここの城にも数十も来たとかでボロボロになったとお聞きしてます」
他の国から攻められたとかそういう感じじゃねえな。聞いた限りはだけど。
「ですので今の建物は古くからあるというわけではないんですよ」
どんどん進んで行ってるな。外の様子見えなくなったし。
「建て直しするしかなかったと書かれてまして……相当酷かったんじゃないでしょうかね」
文字通りボロボロになってる奴か。いつインセキとやらが落ちてきたかはさっぱりだけど、数十年前とかそんなんだろうな。新築そのものって感じしねえし。結構奥まで行ったな。カオルさんが言ってた紙とか布とかで出来てる引き戸、襖って奴だっけ。開けたな。狭い部屋だ。
「ここが王の仕事場だったらしいですよ。流石にここにあるものは、最近の家具ですけど」
黒いぴかぴかの低いテーブルの上に筆とかそういうの置いてるな。細い板に書き込む感じか。あっちにあるのは腕置きか。確かに最近のだ。すっげえ綺麗だしな。埃かぶってねえし。
「隣の方に行くと」
本当に案内人がさっと開けたな。寝室っぽいよな。どう見ても。でもとんでもなく低いベッドだな。あと固そう。眠れるかこれ。
「あちらが寝室です。暗殺されないように、術を施していたとか護衛が常にいたらしいですよー」
やっぱいつの時代も暗殺されちゃう可能性ってあったんだな。遠いここも。
「それじゃ付いてきてください。応接の間や歓迎の間も案内しないといけませんから」
案内する女性に付いてかねえとな。トコトコって歩く音しかしねえ。1人も喋っちゃいねえ。ちびっこぐらいだよな。「何あれ」ってだけで。星天諸島のどこかから来たって人が多いけど、そういう人でも珍しいって思うんだろうな。これも大陸の文化の影響って奴か? 知らねえけど。
「はーい。こちら応接の間ですよ」
思ったよりも狭い。でも……机に金の飾り付けてるし、壁に金色の何かがあるし、やたらと豪華だな。ピンクの塊みてえなのって珊瑚だよな。真珠付けちゃってるし。
「因みにあそこの珊瑚とか真珠とかは偽物ですよ」
えー!? あれ偽物かよ!? マジか!
「嘘だろ。あれ本物じゃないんですか」
角が生えてる尻尾持ちの黒髪の男、びっくりしちゃってる。
「そりゃそうじゃないですか。泥棒対策だってする必要あるんですからね。維持運営委員会として、当然の務めですよ」
当たり前だと言わんばかりの返答だな。まあ確かに対策は必要だよな。アニヌゥスだって、泥棒対策でデカい魔獣使ってるわけだし、古い知恵で罠仕掛けたりもしてるわけだしな。
「歓迎の間に行きまーす」
で。歓迎の間は宴会やる感じの部屋。低いテーブルがずらーって並んでてるけど、ど真ん中を開けてる。囲んでるのか。
「真ん中で踊りとかを披露したらしいですよ。そろそろ外に出ましょうか」
何か誰かと連絡取っていた気がする。こういったのやる人が何人もいるってことか。歩いたら、本当に外に出て来れた。向こうに大きい門があるってことは本当に戻って来たな。
「セキコンの城の案内はこれにて終了です。えーっと宣伝しておきます。ボキンしたいという方はこちらに行ってくださーい」
茶色の紙は地図だな。うわ。丁寧に行き方書いてある。所々読めねえけど。
「チョッキュウな宣伝だな!?」
あれ? ただこちらに行けって話じゃねえのか。
「結構カッツカツなんですよー。敷地が広大ですしー嵐で壊れたとこの修理で出費しちゃいましたしー?」
あ。金銭的なあれだったのか。お金くれって言ってたのか。そりゃ1人でっかい声で叫ぶよな。納得した。
「他にも色々と見るところはありますので、どうぞご覧ください。ですが、暑いので、お体にお気を付けてー」
解散ってことでいいのか。バラバラになってるし。あ。そうだ。さっきの案内人の女性に聞いてみよう。
「あのすみません」
「お金ですか!?」
何でそうなるんだ。何で嬉しそうに言ってるんだ。ああ。そっか。維持とかで金の管理がキツイんだったな。でも残念だが、知りたいことはそうじゃねえんだよな。
「いえ。お金ではないです。聞きたい事があります」
「はーい」
「ご飯、食べるとこありますか」
「ありますけど……辛いの、大丈夫ですか」
あ。そういう奴か。旅して色々と辛いの食べてたからある程度は平気になって来たん だよな。多分平気……なはず。
「はい」
「すぐ近くですよー。案内しまーす」
坂道下って、その近くにあるとこだった。木陰がある小さい店って感じ。案内人の女性が城の方に戻って、腹を満たせるものを頼んでおいた。マジで唐辛子使った奴だった。冷たい赤い汁の中に甘い挽肉と細く刻まれたっぽい黄色の何かと白いご飯がある感じ。ガツガツ食ったよ。腹減ってたしな。
「ごちそうさまでした」
さあて。食ったし、宿に帰るとするか。……何だ。白い霧みてえなの。人の形になった。エルフの爺さん?
「お前よそから来たろ。明日に川蛇の島にある儂の屋敷に来い」
勝手に喋って消えやがった。何で俺が他の星天諸島から来てるわけじゃねえの、知ってんだ。店の人は笑ってるな。
「あれが語り部の爺さんの術だよ。ま。どっかから見ておったんだろ」
「はあ……」
まあ。とりあえず明日は川蛇の島のとこに行ってみよう。
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