第二章 食の都の白き女神
第14話 歓談と作戦会議
バーガンズの近くにある街で、一番行ってみたい街は何処だと思う?
「……そりゃあ、ラフティアでしょうね。あの街は食の都として有名よ。世界からありとあらゆる食べ物がやって来るからね。世界の食べ物を味わいたいのならラフティアに向かえ――それは良くある言葉として世界的に有名だと思ったけれど?」
「ラフティアねえ。確かにあそこが一番楽しいかもしれないが……。さあ、先ずは何処に向かえば良い? 無論、私の復讐が出来なければ何も始まらないからな。そこだけは理解してもらわないと困るのだがね」
「復讐復讐……、少しはもっと違うことを考えたらどうなのかしら? ともあれ、私はそこまで何も分かってはいないから、あまり突っ込むつもりはないし実際に突っ込めないのだけど」
正義の味方面でもするつもりか?
……いや、ここでツッコミを入れる必要はない。入れなくても良いし、入れたところで何も生み出さない。
結局はどうなろうと私が悪いことにはならないのだけれど、しかしこの旅芸人風情に文句を言われる筋合いもない訳だ。
何も分からないくせに分かった風な発言をしないで欲しい。されたところでどうせ共感もされちゃいないし、特段私が変えなくてはならないところもある訳ではないのに、向こうからしてみればそれすらも意味が分からないのかもしれないな。結局、自分が理解出来ないし共感出来ない領域をこちらに放り出されたところで何も始まりやしないのだから。
「復讐をするのか私の生きている理由だ。……よってそれが出来なければ私が生きている理由にはならない。それが分からないだろうねのならば、首を突っ込まないで欲しいものだね」
「首を突っ込むとか突っ込まないとか、そういった問題ではないような気がするのよね……。つまりは助け合いの精神なのよ。お互いにメリットのないやり方じゃなければ、何の意味もなくなってしまう……。だからこちらだって四苦八苦しながら何とかやって来ているのだけれどね」
本当にこの旅芸人は喋りが長い――喋るのが好きなのかもしれないけれど、こうも長いとやる気をなくしてしまう。
今、私達は次に何処へ向かうべきか、話をしていた。とはいえ何も考えずに話をしていた訳ではなく、私の復讐相手が居る場所を最優先にしてもらう。そうでなければ、何のための旅だというのだ。
バーガンズでは宿が取れる訳もなく、近くにある旅の宿屋で宿を取った。別に街にしか宿がない訳ではなく、このように街と街の間にも宿は設けられている。
まあ、こういう宿は結構珍しい。何故なら街で宿屋を経営していれば、街からの庇護が受けられるからだ。一方、街にない宿屋はそういう庇護を受けられない代わりに税金などを支払わなくても良い。街に居れば当然税金は支払わなければならないが、その場合かなり高額になる。
だから、旅の宿屋は比較的安価に泊まれる傾向にある。税金の分を加算する必要がないからだ。まあ、それを知らない冒険者に泊まって欲しいがために敢えてそれを公表しないところもある。戦略と取るか詐取と取るかは、受け手の判断だろうな。
「ラフティアには、ソフィアの知り合い――もとい私の復讐相手は居るのか?」
「ラフティアを治めているのは、高名な医者なんだよ。知っていたかな?」
「聞いたことはあるよ。どんな病気でも彼女の手にかかれば魔法みたいにきれいさっぱりなくなってしまうとね……。本当かどうかは分からないし、あまり気にしたことはないがね」
そもそも医学というのは、本当に何でも出来てしまうオールマイティな代物なのだろうか? そこから納得が出来ないんだよな、実際、何でもかんでも救える訳ではないだろうが、しかして医学によって救える命が増えていることもまた事実だ。
「……その医者が、私の復讐相手ということか?」
「名前はエイル=ヘルグリンド。あなたの思っている通り、その人間こそが二人目のあなたの復讐相手です。……しかし、本当に宜しいのですか?」
「何がだ? まさか未だ私の復讐を止めるつもりでいるのか? だとしたらそれは大きな間違いだな、普通に考えてそれを了承するはずがないだろう。私は復讐を終わらせるために生きている。そのためならばどんな犠牲だって払っても構わない。ソフィア、あんたの目的を達成させてあげるのも……あくまでもついでだ。私の目的が最優先、その次にあんたの目的だよ。それだけは忘れて欲しくないものだね」
「……分かっています。それを了承して私は今あなたと一緒に旅をしているのですから。私が言いたいのはそれよりも……後悔しないのか、ということです」
「後悔?」
「ええ。あなたか復讐を果たすということは、それだけの人間を死に至らしめ、関係者の人間を悲しみに突き落とすことを指します。そういうことを分かっていて、尚もあなたは復讐を果たそうと?」
当たり前だろ。
私の家族は皆殺しにされたんだ。それを泣き寝入りしろって言いたいのか? だとしたら、それを認めた神様とやらが大馬鹿者じゃないか。
「……ソフィアちゃん、駄目よ。幾らこういうことを言ったって、きっと納得はしてくれないんでしょう。そりゃあ、私だって道を踏み外して欲しくないから何度だって言ってあげるのだけれど……、それが全員すんなりと受け入れてくれる程、世の中は甘くないわ。でもね、イズン? これだけは言わせてもらえるかしら」
「何だよ、ウル。ソフィアと同じ言葉ならもう聞き飽きたよ」
「違うわ。もっと大事な話。……人生は一度きりよ、だからどんなことだってやり直しは利かないの。そんな魔法は存在しないし有り得ないからね。だから、だからこそ、人世に後悔のないように選択をし続けなければならないの。人生は選択の連続だなんて、良く言った話よね。私は全くもってその通りだとは思っているのだけれど、だからこそそれをあなたにも認識しておいて欲しい訳。後悔して人生を終えるのは、誰だって嫌でしょう?」
「……後悔なんてするつもりはない」
だからこそ、私はこの道を進むと決めたんだ。
誰にだって理解されなくたって構わない。私は私の生き方を決めて、それを突き進んで、やりたいことを全て終わらせてしまえばそれで良い。
その後のことなんて、何一つも考えちゃいないけれど。
「……分かったわ。取り敢えず、今日はこれで終わりましょう。多分明日にはラフティアに着くでしょうから、そこで情報収集といったところかしらね。それじゃあ、おやすみなさい。夜更かしは美容の大敵よ?」
そう言ってウルは自分のベッドに潜り込んでしまった。
最後まで自分が突っ走っている人間だった――私はそう思ったが、取り敢えずウルの言うこともその通りだったので、私達もそれから遅れて少ししてベッドへと潜ることにするのだった。
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