第12話 早過ぎる再会①
「成る程。ならばあまりそこまで考える人は出てこないな……。しかし、だとしてもいつかは訪れるはずの終焉を考えて対策を取ることも出来るのでは?」
「無理でしょうねえ。為政者を含め、街の上層部が殆どは耄碌している存在です。あと十年生きるかどうかも定かではない。そんな存在が、本当に他人のことを考えて話を進められるでしょうか? 答えは否だと私は思いますけれどね」
手痛い話だね、全く。
私は為政者でもなければそんな縁もない人間ではあるが、確かにその通りだろうな。
実際、他人のことを慮って生きていく人間なんて世の中にどれぐらい居るだろう? 国を管理していくために働く為政者ならば猶更だろう。為政者は、支持してくれた人間に忠誠を尽くす。当然だ、票田がなくなってしまえば意味がないし、それ以上に金銭が途絶えたら自分が生活出来ない。
「……人間の世界というのは、とかく生きづらいことだと思うよ。しかしながら、その歪みを受け入れていかなければ何も始まらない。私はそう思うがね」
分岐路には必ずどちらに光虫が居る。それが当たり前なのかもしれなかったが、仮に居なければどうしていれば良いのだろうか――取り敢えず、そういう場面に面してからで良いかもしれないが。
「分岐路に光虫が居ない場合はどうすれば良いんだ?」
「運ですね」
ばっさり切り捨てたなあ、オイ。
それで失敗したらどうするつもりなんだよ。
「ご安心ください。確信は掴めていないですけれど、そんな分岐路はありませんよ。少なくとも正解のルートには、という但し書きですけれどね。不正解のルートを気づかないうちに進んでいたならば、光虫は当然存在しません。光虫は出口に近ければ近いほど多く生息していますから」
「光が有毒であると分かっているのに?」
「そういう特性なんでしょうね。詳しい話は分かりませんけれど」
分からないのかよ。
だったら分からないと即答してそのまま話を切り上げて欲しかった。変なところまで話を延長するから何だか面倒臭い話に発展するのであって。
「別に面倒臭い話にするつもりはありませんよ。結局、光虫が居るか居ないかだけなんですから。……ほら、光虫がどんどん増えてきているじゃないですか。ということは出口が近づいている、ということなんですよ。安心して私の言うことを聞いていれば良いんです」
未だ出会って少しだというのに、幾ら何でも買いかぶり過ぎやしないだろうか?
もう少し世界を回っていけば、このソフィアとの付き合い方も変わっていくのかもしれないが、今のところはそんな長期戦に持って行くつもりはない。
何故なら、復讐相手が五人と分かっているからだ。だったらその居場所をさっさと教えてもらい、復讐を達成すれば良い。世界を救って欲しいのならば、それば致し方ない。私の復讐自体が出来なくなってしまうこと――それは問題だからだ。
しかし、復讐が終わるのならば、私はこの身体を捧げても構わない。
きっと、家族はそうは思わないだろう。私にこの世界で生き続けて欲しいと願うだろう。
しかし、家族の居ない世界など――私にとって長居は不要だ。
復讐を終えたら、私はこの世界からさっさと退場してやろうとも思っていた。
だから、無意味な感情など抱く必要もない。
「……何か神妙な面持ちになっていたけれど、考え事でもしていたのかな?」
気がつくと、ソフィアが立ち止まっていた。
「考え事ぐらいするだろう。そうだ、この先のことについてとか」
「でも、もうここから出る予定で居たんでしょう?」
「そりゃ、そうだ。復讐を果たしたら長居するつもりはなかった。尤も、まさかこんな結末になるとは思いもしなかったがな」
「……嫌でした?」
「何が?」
「私と一緒に、世界を救う旅に出ることが」
「……どうだろうな」
きっとそれは今結論を出せることでもないだろうよ。
旅をしていくうちにどんどんお互いの良いところ嫌なところが出てくるのだと思う。そうしてお互いに譲歩しつつ生きていくのが旅の醍醐味とも言える。――今のお前と何処までそれが出来るのかは、今の私には確定出来ない。
「まあ、私は楽しい旅にしようと思っていますよ。何故なら、世界の終焉を実感しているのは私だけです。庶民は世界が終わってしまうなんて、誰一人思っていないでしょうね? 寧ろ、日々の生活に一苦労でそこまで考える余裕もないでしょう。特にバーガンズの人々はそうです。守ってくれるからこそ、そうやって余裕がなくても何とかなるのですけれど」
「……ソフィアが居なくなっても、バーガンズは無事に回っていくのか?」
「どうでしょうねえ。恐らく、セバスチャンが代行で回してくれるでしょう。前もそうだったんですから、影武者のやり方は得意なはずです。問題は、それが長続きするとは限らないことですよ。バーガンズはそれなりに他国との交易も行っています。そのタイミングで領主が出てこないのは何かと問題が起きるでしょうね」
確かに、仮に領主がやって来たとしてもそこで対応出来ないとするならば――相手の領主にとってみれば、私はその程度の存在なのかと酷く傷つくかもしれない。
領主一人のメンタルだけで終われば良いかもしれないが、国と国の関係はそれで終わる程甘くない。きっと国同士の信頼関係の問題に発展し、もしかしたら戦争へと発展するかもしれない。
「バーガンズはお世辞にも資源が腐る程ある訳でも、兵力が大量にある訳でもありません。ですから、仮に戦争に持ち込まれたらお終いでしょう。きっとセバスチャンはそうしないように画策するでしょうが、だとしても限界は訪れますね。私が帰ってくる頃には、国そのものがなくなっていたりして」
「……仮にそうなっても気にしない、ということか?」
「どうせ私は政治なんて向いていませんし。それに……全てを捨てる覚悟でこの旅に臨まなければ、何も始まりませんから」
覚悟、か。
まあ、確かにそれぐらい覚悟を持って臨まないといけないかもしれないな。
世界を救うなんて突飛な目的で旅を続けていくんだ。最終的に生死をかける戦いになっても何らおかしくはない。そして自分の家に戻れるかどうかも分からないならば、全てを捨ててしまえば良い――と。
「あ、出口ですよ!」
……何度分岐路を通ったか覚えていない。
しかし、出口には確実に近づいていたようだった。
穴の向こうには、夜空が見える。ちょうど月がこちらを照らしてくれている。まるでこちらにやってこいと指図しているかのように。
「……いやはや、しかし長かったな。これで脱出出来る……、待て」
私は立ち止まる。
ソフィアは首を傾げて、
「どうかしましたか?」
気がつかないのか。
出口の穴に、僅かながら出っ張っている影が見えるだろう。
恐らく、誰かが寄り掛かっているのだろう。
しかし――誰だ? ここに居て、待ち構えているというのならそれは私達がやって来ることを知っていた人間ということになる――ならば、敵か。
私はいつでも剣を引き抜く準備をして、一歩近づく。
「……あらあ、奇遇ね」
そこに居たのは、旅芸人のウルだった。
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