男の子って、こういうのが好きなんでしょ?

暮影司(ぐれえいじ)

男子高校生の欲望を満たすお姉さん

 僕にはずっと憧れている女性がいる。

 近所に住んでいる二歳年上のお姉さんで、長らく面倒を見てもらっているという感じだったが、僕ももう高校生になった。

 そろそろ男としてみてもらえるんじゃないかという気持ちと、早くしないと彼氏ができちゃうんじゃないかという気持ち。

 そんな感じでヤキモキしているのだが……。


「高校入学おめでとう! お祝いするね!」


 そう言われて、久しぶりに彼女……みみ姉の家に。

 勝手知ったる家ではあるが、緊張する……!

 子供の頃は押したことのないインターホンを押し、裸足が当たり前だった廊下をスリッパを履いて歩いた。

 しかし「中に入ってー」とだけ言われて出迎えてくれなかったのは、ちょっと寂しいな……と思っていた矢先。


「じゃーん!」

「ぶーっ!? み、みみみ、みみ姉!?」


 現れたのは、なんとバニーガール姿のみみ姉だった。なんでバニーガール!?


「どう?」

「どうって……」


 正直、小さな頃はやんちゃで男の子みたいだったみみ姉が、ここまで女性らしい体つきになってるとは……。

 はじめて生で見たけれど、バニーガールの服というのはすごい。

 一七歳のみみ姉は、全体的に柔らかそうでグラマーで、少年漫画雑誌のグラビアみたいな、健康的なボディだ。ごくり……。


「おっ、早くも我慢出来ない感じかな~?」


 ぷぷぷ……と手で口を抑える仕草。

 つばを飲み込むところを見られて、からかわれているんだろうか。


「わかってる。わかってるよ~。ちゃんと」


 ポンポンと頭を撫でられる。

 子供扱いされているようで、ちょっとムカつく……けど笑顔のバニーガールに頭を撫でてもらう嬉しさの方が上です。くやしい。


「しょーくんも、男の子だもんね」


 !?

 これは……そういうことなのか!?

 僕が、僕がもう男子高校生だから。だからバニーガール姿で……?


「男の子が好きなもの、わかってるから……」


 わ、わかっちゃってるんですか……!

 いや、そういうことは、ちゃんと僕の方から告白をして、それから……。

 そう思いつつも、剥き出しの肩、腕、そして胸の谷間から目が離せない。


「たっぷりサービスしてあげる」


 ごくり……。

 まつげの長さがわかるほど、顔を近づけたみみ姉は、それはもうキレイで。そしていい匂いが……ん?


「いい匂いすぎるのでは?」


 これは女の子の匂いとかそういうレベルじゃない。

 男の欲望を掻き立てる、この匂いは……。


「ふふっ。もう我慢出来ないって顔してる」


 確かに、もはやヨダレが出始めていた。

 脳にガツンとくる、本能に直接訴えかけてくるような……!


「焦らないで、ちゃ~んと用意してあるから」


 そう言うと、お尻に付いている白いポンポンをフリフリさせながらキッチンへ。

 ごくり……。

 もう我慢できないよ……!


「おまたせ! じゃじゃーん!」

「う、うおおおお!」


 圧倒的肉感!

 ものすごいボリューム!

 おっきすぎて、あふれちゃってる……!


「男の子って、こういうのが好きなんでしょ?」

「す、好きです!」


 好きに決まってる。

 これを嫌いな男子高校生がいるわけがない!

 僕はもう、目が離せない……みみ姉の、その豊かなバストの……上のトレイに乗ったものから。

 恥も外聞もなく、かぶりつくように顔を近づける。

 男なら、男子高校生なら、こんなの我慢できないよ!


「もうお昼だからね、健康な男子ならもうお腹ペコペコでしょ」

「こ、これは、これは……?」


 大きなどんぶりの、ほかほかご飯の上に、肉だけが三種類。茶色い三色丼だ!

 どんぶりから肉がはみ出しちゃってるくらい、ボリューム満点。

 なんだこれ、こんなの見たことない!


「名付けて、男の子ってこういうのが好きなんでしょ丼だよ!」

「な、なるほど」


 納得です!

 確かに男の子はこういうのが好きなんだよ。

 女子がお弁当の彩りがどうのこうの言ってるの意味分かんないからな。ここにミニトマトだのブロッコリーだのが乗ってたら台無しって感じ。インスタ映えすると男子は萎える。シンプルイズベスト。肉オンザライスが正義だ。


「さ、食べて食べて」

「うん!」


 どこから食べていいものかちょっとだけ悩むけど、とりあえずこれだ!

 僕は左上のエリアにいる肉をつまむ。


「んー! うまい!」

「それは牛カルビだよ」


 甘辛いタレに脂の乗った肉。もちろん白米との相性は抜群だ!

 やっぱりカルビは最高だぜ。

 焼肉屋に行ったって、カルビしか食べないもんな。大人は牛タンだの、レバーだの頼んでるけど。やっぱりカルビですよ。

 サンチュだのなんだのは全く不要。カルビのタレはご飯のために。

 ちょっと厚めの肉は歯ごたえもあって、噛むと肉汁が溢れ出す。

 肉を咀嚼しながらタレのついたご飯を口に放り込んだり、ご飯をカルビで巻いて食べたり。箸も口も止まらない。

 このまま永遠に食べられそうだけど、他の肉も気になるからね。

 次は……右上のこれだ!


「あー! これもうまい!」

「それは豚スタミナだよ。豚バラと玉ねぎを炒めたやつ。にんにくと生姜たっぷり効かせてます」


 これもご飯が進みまくりの味!

 牛もいいけど豚もいいなあ!

 玉ねぎの甘みと、豚バラの脂! そこににんにくと生姜がガツンとくる!

 さっきから漂っていたいい匂いの正体はこれか。一番食欲をそそる匂いってこれかもしんない。

 玉ねぎはくたっとしていつつも、ちょっとだけシャキッとしてて、丁度いい歯ごたえ。薄くスライスされてる豚バラは、脂たっぷりで甘いけど、少しもキツくない。

 醤油と砂糖がメインのカルビと違って、こっちは複雑な香りと味わいかも。ただ、どっちもうまいことに変わりはない。

 残るエリアはひとつだ。一番手前なんだけど。


「それで……これはなんだろう」

「うふふ」


 僕が食べる前には説明をしないみたい。

 食べるのを楽しみにしてくれているっぽい。これだけなんだか全然わからないんだよな……。

 ちょっとかじってみる。

 前歯には、さくっとしたクリスピーな歯ざわりのあと、柔らかい肉の感触。そしてじゅわじゅわと舌に流れるジューシーな肉汁。


「ん! ん~!」


 甘酸っぱい!

 これもわかりやすい味だ! 思わず白米をかきこむ。

 初めて食べたけど、これはいったいなんだろう?


「それはね、チキン南蛮。揚げた鳥のもも肉に甘酢あんとタルタルソースよん」

「チキン南蛮! これも美味しいよ!」


 鶏肉は好きだけど、ご飯との相性では牛や豚には勝てないと思ってた。だけど、これはすごい!

 ジューシーで柔らかくて、甘くて酸っぱくて、とにかくご飯に合うよ!

 エビフライなんかだと、タルタルソースだとご飯に合わないと思ってとんかつソースで食べる僕だが、これは完全にタルタルがあったほうが飯がうまい。

 甘酢あんとタルタルがマッチしてるんだろう。テリヤキバーガーのマヨネーズみたいに。

 ちょっと大きめにかじりついて、奥歯で噛みしめる。ぷりんぷりんの肉の歯ごたえと、甘さ、辛さ、酸っぱさ……単純なようで複雑な気もするが、口の中がもう大騒ぎだ。なんともいえない旨味のハリケーン。

 こんな美味しいものをなんで今まで知らなかったのか。チキン南蛮の無かった人生を後悔するほどに、俺はもうこの食べ物の虜だ。


「ふー。んまい……」


 とりあえず三つの味を堪能し、改めてこの食べ物を見てみる。

 なるほど、このどんぶりは牛肉と豚肉と鶏肉、3つの肉を乗せてるんだ。

 こりゃあ贅沢だ! 牛、豚、鶏と順番に食べていくから飽きないし! なのにずっと肉と米! 最高!

 味付けもわっかりやすい味なのに、それぞれ違う魅力がある。

 とはいえ、食ってるだけだとちょっとつらい。味噌汁とかないのかな……。

 そう思ってみみ姉の顔を見ると、わかってるとばかりににっこり。


「ドリンクはね……これ」

「え! これって!?」

「サイダー」

「サイダー!」


 おっきめのグラスにごろごろした氷、そこにシュワシュワのサイダー。これでご飯食べちゃっていいの!?

 僕の家ではご飯のときにコーラとかジュースとか飲むの禁止なんだけど。

 汗をかいたグラスは、キンキンに冷たそう。それを見ていたら、肉々してる口が……我慢できない!


「くあーっ!」

「いい飲みっぷりぃ~」


 た、たまんねえ~!

 なんだよ、ご飯と炭酸ってこんなにマッチするのかよ~。

 もちろん、これが鮭の塩焼きとかだったら味噌汁のほうがいいんだろうけど。

 サイダーでご飯を食べているということが、特別感を増しているんだと思う。こんなごちそうは生まれて初めてだ!


「さ、おかわりもあるからね~」

「うん、ありがとう」


 肉、ご飯、肉、ご飯、サイダー。

 肉、ご飯、肉、ご飯、サイダー。

 こんなことしちゃっていいの? 背徳感すらあるよ、この食事は……!


「美味しそうに食べてくれるなあ~」

「そりゃ美味しいもん!」


 基本的に味が濃いめで、それが大量のご飯とベストマッチ。さらにサイダーがぶ飲みで、口内は爽やかにリセット。

 これこれ、こういうのがいいんだよ。

 男心をがっちり掴んで離さない、最強メニューだよ!


「はー。美味しかった……」


 お腹いっぱいだ……。

 もはや恍惚としてしまうほどに、幸福に包まれている。

 そんな俺をじっと笑顔で見ているバニーガールの女子高生……よく考えたらとんでもない状況だ。


「ど、どうして、これ作ってくれたの?」


 僕の知る限り、みみ姉は料理が趣味とかではない。

 バレンタインデーに手作りのチョコをくれたこともないし。


「実はママに相談したんだ。好きな男の子がいるって」

「えっ!?」


 みみ姉に好きな男の子が!?

 もう手遅れだったのか!?


「そうしたら、男は胃袋を掴めって。だからだよ」


 ……え? それって、え? 

 そういうことなのか?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

男の子って、こういうのが好きなんでしょ? 暮影司(ぐれえいじ) @grayage14

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ