第17話⁂人身取引!⁂


 時代は1960年代の事。

 その頃子供達に絶大な人気を誇った、ウルトラマンの着ぐるみを被った謎の男が、麗子を車から奪い去り、トラックに乗せて一目散に逃げた。


 美少女麗子は、余りの衝撃に軽い脳震盪は起こしているが、あいにく負傷はしておらず不幸中の幸い。


 この謎の男ウルトラマンの着ぐるみを被った謎の男に、連れられ車はひたすら関東に向かっている。


 実は、このウルトラマンの着ぐるみを被った謎の男で、高校の1学年上の先輩山田君は、玩具屋の息子なのだ。

 その為ウルトラマンの着ぐるみを、容易く手に入れることが出来ていたのである。


 この山田君は、あのドジで間抜けなぽっちゃり坊や武丸と深い繋がりが有る。

 そして…密かにこの美しい麗子に、以前から好意を抱いていた。


 だから容姿に自信のない山田君は、今自分が出来る最大限の格好良さ、ウルトラマンの格好で麗子を誘拐しようと考えた。


 いつも太郎と遊ぶ為に遊びに行っているマリア愛児園が、こんな胡散臭い所だとは全く知らない山田君

「女の子を無理矢理誘拐して来い」と言われた時は、正直逃げ出したい気持ちだった。


 だが、相手が麗子ちゃんと聞いて。

{ああああ!いつも遠巻きに眺めているだけの憧れの麗子ちゃんと、やっと2人きりになれる。もう良いも悪いも関係無い。こんな僕でも麗子ちゃんと一緒に居られる瞬間が持てるなんて、な~んて僕は幸せ者なんだ!}


 こうして誘拐を快諾した山田くんは、家に有る着ぐるみの中でも最上級のウルトラマンの着ぐるみで麗子ちゃんをさらったのだ。


 目がピカ———ッ!と金色に光ったのも、頭を撫でてくれた手が冷たかったのも、より精密にロボットの様に作られた着ぐるみだったので、目も光るように細工されていて、手も頑丈に作られているので冷たかったのだ。


 でもそんなゴワゴワした着ぐるみでよく誘拐できたね?と疑問を感じるかも知れないが、実は山田君は巨漢なのである。

 だから少々着心地が悪くても、スリムな麗子など軽々にさらえるのだ。



 こうして埼玉県の、とある倉庫の牢屋に入れられてしまったが、あいにく山田君の隣の牢屋に隔離された麗子。

 すると……誰も居なくなった途端に山田君が、麗子に話しかけて来た。


「僕はこの鍵を開ける事が出来る。君の鍵も開けてやれるけど条件交換しよう。開けてあげるから僕を暫く匿ってくれる事は出来る?」


「出来ない事もないけど?」

 本当は心当たりなど無いのだけれど、一刻も早く逃げ出したかった麗子は、咄嗟に出まかせを言ってしまった。


 こうして開けて貰い早速拓郎に電話をかけた。

 すると…こんな夜中だと言うのに、取るものも取り敢えず慌てた様子で拓郎は、わざわざ迎えに来てくれた。


「家まで送るけど、お家はどこだい?」


「マリア愛児園という養護施設なの!知っている?」


「イヤ~知らないよ?でも住所教えてくれたら行けると思うよ?」


「それが?その~?チョットヤバイ施設だから逃げ出して来たのよ。もう少しで売り飛ばされる所だったのよ!」


 すると山田君が申し訳なさそうに。

「ゴメン僕何も知らなくてとんでもない事しちゃって」


「君だったのかい?麗子ちゃんを連れ去ったのは?名前は何て言うんだい?」


 すると麗子が助け舟を出した。

「ああ!この人山田君と言って同じ高校の1学年先輩なのよ。私を誘拐しないと、チンピラに暴力振るわれるらしいのよ」


「そう言ってもだな~やる事が酷過ぎじゃないか?もし放って置いたら麗子ちゃんがどんな目に合っていたか?取り敢えず麗子ちゃんは、僕の家で今日は泊れるように両親に頼んでみるよ。山田君は、今日は家まで送るけど両親に全て話した方がいいと思うよ?」

 すると……その時、間髪入れずに麗子が頼み込んだ。


「拓郎さん重ね重ね悪いのだけれども、この山田君も暫くかくまって欲しいんだけれど、お願い!お願い!お願い!」


「もう、仕方ないな~両親に頼んでみるけど?」


◇◇◇◇◇◇◇◇


 数日後山田君の両親が、息子がチンピラからいわれのない暴力を受けていると、警察に被害届を出してくれ、そして…息子を引き取りに菱本酒造に赴いた。


 こうして山田君もチンピラ達とは、何とか縁が切れたかに思われたのだが…………。


 実は日本は人身取引大国。

 日本では日夜、水面下で密かに人身取引が行われている。

 マリア愛児園は、暴力団と結託して、養護施設と銘打って人身売買に手を染める闇組織。

 人身取引に基づいて行われる犯罪には、強制労働、強制結婚、性的搾取、臓器売買などがある。


 暴力団側としてみれば————

「両親も亡くなり天涯孤独の身の上だから、あのような胡散臭い養護施設に身を置いている小娘だ。あれだけの美人これからどれだけでも稼げる。あんな上玉滅多と現れない。逃がして堪る者か!」

 血眼になり麗子の後を付け狙っている。


 それに気付いた麗子が拓郎に怖さのあまり話した。


「私恐い!いつも誰かに付けられ、追い回されている気がするの」


 拓郎は『これでは麗子が、いつどんな目に合うかもしれない』と思い警察に全てを話してしまった。


 こうしてとうとう、マリア愛児園にも捜査のメスが入り、焦る施設長と田淵組長。


「許せねえ!アイツよくもバラしやがったな。組織の事を知っている山田が危険だ。いつ足をすくわれるか分からない。生かして置けない!殺せ——————ッ!」

これに憤慨した指定暴力団田渕組幹部が、山田君を闇に葬ろうと付け狙っている。


 山田君に命の危機が迫っている。








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