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      13


 あれから一睡もしなかった。次の日の夕方だ。僕は修理した自転車で病院へと向かう道を走った。手紙を一つ、持って……

 これは、ついさっきのことだ。

 どうやら思い出が、少しずつ僕に近づいて来たみたい。もうそろそろ、終わる。何回も何回も繰り返し思い出した、君との思い出。

 病院を過ぎ。さらに坂を上がり、あの場所に着いた僕。

 ゆっくり自転車を止めると、冬美と二人で夕日を眺めた、一番先まで歩き始めた。

 眩しさに、目を細める。輝くオレンジ色へと、一歩一歩、進む……。踏み出した足に伝わる芝の感覚、この光の温かさ、最初に来たときも、こうだった。今日の足音は一つだけど、ちゃんとちゃんと、覚えているよ……

 大空の天井と海の絨毯の前で立ち止まる。この輝きは、君、そのものだ。

「見てる?」呟く。

 正面の夕日は、綺麗だ。今すぐにでも、写真に収めてしまいたい程に……。でも、その景色が霞んでいく、歪んでいく、見えなくなっていく。

 俯いた僕が瞬きをすると、雫が二つ、地面に落ちて行くのが見えた。とうに枯れたと思っていた涙だった。一度、強く目を閉じて正面を見据える。こんな僕を見せに来たわけではない。

「………」

 もう一度、最後にもう一度、思い出そうと思うんだ……。伝えるために、この気持ちを…。届けるために、僕の手紙を……


  14


 目の前に夕日が広がった。

 思い出は終わりだ。また、戻って来た。最後って決めたからそろそろ、君に、手紙を送ります。

 僕は手紙で作った紙ヒコーキを手に持った。

『冬美、元気ですか? 僕は元気です。何時間もかけたのに、こんな有り触れた言葉しか書けません。だからちゃんと読んでくれるか心配です。ううん、それでも冬美は優しいから、笑顔で読んでくれるでしょう。お父さんとはもう会えましたか? 可愛い娘が天国に来たとなると、お父さんは飛んで会いに行くと思います。二人で幸せに暮らしてください。急だけど、冬美に言いたいことがあります。コンテスト、僕の写真がなんと佳作に輝きました。冬美と見た夕日の写真です。本当にありがとう。冬美のおかげです。

 でも、本当にこの手紙で言いたいのは、そのことじゃありません。あの日、冬美と話してから、ううん、始めて冬美を見た日から、ずっと、ずっとずっと、言いたかったことがあります。

 僕は本当に最低な奴だけど。本当に本当に馬鹿な奴だけど。聞いてください。


 僕は、君が好きです。』


 紙飛行機は空を舞った。ふわり、ふわり、と夕日へ向かった。改めて思う。きっとそうだ。きっと、輝くあの場所は、天国だ。


 君に……届け……僕の手紙。



                                   ー完ー

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