かくれんぼ、ホラー版

みゆたろ

第1話 引っ越し


「ーーうわぁぁぁぁ」


 大きな悲鳴と共に、僕は階段から転げ落ちた。


「いってててて」


 思いっきり、ぶつけたお尻に手を添えながら、僕は痛みを口にする。


 どうしてこうなったのか、と言うと、僕(山本京一郎)10才。僕は今日、引っ越しをした。

 引っ越したばっかりの家は、何もかもが新鮮で落ち着かず、家の中をチョロチョロと遊び回っていた結果、僕は派手に階段から転げ落ちたのだった。


 これまでの学校からも転校する事になるだろう。

 引っ越し屋さんとお母さんが最後の確認をしているうちに、僕は家の中に入り込んだ。


「今日からは二階が京一郎のお部屋なのよ!ちゃんとキレイにしなさいね」

 

 お母さんが、僕と目線を合わせて言った。


「はい」


 これから、この家での新しい毎日が始まる。

 でも、しばらくは引っ越しの片付けの為に休む事になるとお母さんが言っていた。


 ーー新しい学校はどんなところだろう?


 期待と不安が入り交じったまま、気持ちを新たにして、僕は心に誓った。


 ーー僕は前の学校の時以上に、沢山の友達を作るんだ!!


 ※


 荷物がある程度、片付くまでは学校を休んで、お母さんの手伝いをしなくちゃいけない。


「京一郎、これ向こうに持っていって!」


「はーい」


「京一郎、それ持ってきて」


 お母さんに頼まれるままに僕は働いた。その甲斐もあってか、随分、早くに片付いてきた。


 ーー引っ越しはとても大変だ。


 子供ながらに僕はそう思った。

 お母さんのオデコをキラリと光る汗が流れる。


「はぁ…だいたい片付いた」


 お母さんは、オデコの汗を拭いてから、携帯を抱える。

 これから僕が行くはずの学校に電話しているようだった。


「もしもし!お世話になります。山本京一郎の母ですが、京一郎を明日学校に、連れて行こうと思いますのでご連絡させて頂きました」


 明日、学校へ連れて行く。

 そう言っているお母さんの言葉で、その電話の相手が学校だと僕にも分かった。


 今はまだ僕には友達がいない。

 引っ越したばっかりで、学校に行けていないから。


 ーー明日は学校へ行く。


 翌朝、僕は学校に行くのが、すごく楽しみだった。


 ※


 その夜。

 地震のようなすごい揺れと、薄気味の悪い音なのか?声のようにも聞こえるもので、僕は目を覚ました。


「ーー起きて」


「ーーねぇ、起きて」


 地の底を這うような低い音が、そら耳だろうか?僕には誰かが「起きて」とそう言っている様に聞こえる。


 当たりを見渡す。


 僕の事を見ているのだろうか。

 こちらを睨んでいるようにも思える、幼い子供の顔が見える。

 彼は5才くらいだろうか?

 ハッキリと大きな目をしている。


「君は?」


 寝ぼけてボンヤリとした頭で僕は聞いた。


「お前には関係ないーーココは俺の家だ。出て行け!」

 

 恐らく僕よりも年下だろう子供が、生意気にもそう言った。


「君は誰なの?」


 僕はもう一度同じ質問をする。

 子供は何も答えず、こちらを睨み続けている。


 見覚えのないその顔を見ながら、僕はまだ夢を見ているのかも知れない。


 ーー夢か。


 寝ぼけているせいもあり、僕は深く考えずにそう納得して、もう一度、夢の中に入っていく。


 「ーーココは俺の家だ。出て行け!!」


 先程の名前を名乗らなかった子供だろう。

 彼はその言葉だけを朝まで繰り返していた。


 ーーふぁぁぁ。


 思いっきり背伸びをしても眠い。


「寝不足だぁ」


「京一郎、何をぼんやりしてるの?遅刻するわよ!」


 お母さんが階段の下から僕を呼んでいる。

 

「はーい。今行くー」


 元気よく、返事をして急いで階段を下りたその時。


「うわぁぁぁぁ」


 ものすごい音を立てながら、僕は階段を転げ落ちた。


「いったたた」


 引っ越してきたばかりで、こんなの二回目だ。

 こんなに階段から落ちる家なんてあるだろうか?


「おはよう。ねぇ、お母さん、昨日ね……」


 僕はそこまで言いかけて、黙ってしまった。


「京一郎、どうしたの?」


「昨日ね!僕、怖い夢を見たんだ」


「夢?どんな?」


「夢の中で不気味な音、ってゆーか声が聞こえてきてね。僕に起きてって言うの。僕にはその声の主の顔が見えたんだけど、僕より少し年下っぽかった。

その子が僕に言うんだ。ーー出て行け、ここは俺の家だ。って……」


 僕は昨日の夜の夢の話しをお母さんにしてみた。


「京一郎、何を言ってるの。そんな事、あるわけないでしょ?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る