遺思
@pochi1n
第1話出発
「ちょっとコンビニ行ってくる…」
そう家族に声を掛けて私は家を出ました。
妻も娘も返事もせず、ドラマに、スマホに夢中なようで…手持ちは僅かばかりのお小遣いが入った財布と6本しか入っていない赤マルだけです。
あぁ、勿論ライターも持ってますよ。私の父がね使っていたジッポなんですが、なかなかいい音が鳴るんです。これが。まぁ、私の両親は10年ほど前に他界してしまいましたが…
47歳会社員、田中一郎
これでもそこそこ大きな会社の管理職をやっているのですが、現場は上手く回せど家庭の方は上手に回せなかった様で…
しかし、情け無い話し、最近は仕事でも若い力に押されて肩身が狭くなってきまして…職場でも、家でも、なんて言いましょうか…胸がドキドキと…ね。
娘は反抗期なんでしょうか、高校2年生になるのですが、既に3年程まともに口を聞いてくれません。
最後に話したのはいつだったか…
「消えろクソ親父」なんて…どこでそんな言葉を覚えてきたのでしょうか…
妻は妻でここ数年「気持ち悪い」と指一本触らせてもくれませんよ…ハハハッw
笑っちゃうしかないですよね。
でね、ある日見ちゃったんです…妻のスマホを。
私の甲斐性がなかったんですかね………
今日、家に帰ると無かったんですよ。私の分の晩御飯…心が折れちゃいまして…
それで、「ちょっとコンビニ行ってくる」って財布とタバコだけ持って家出てきちゃったんですよね。
私はハッとした。汽車の窓に映る私自身にブツブツと語りかけ続けていたのだ…
気をしっかり持たなくては…私は辿り着かなければならない。
かつて家族で行ったあの場所に…
きっとそこへ行けばこの疲れも心のモヤモヤも胸の痛みも精算してくれる筈だ。
おや?もう、乗り継ぎの駅まで来た様だ。
私はここで降りなければならない。目的の場所へ着くために重い腰をあげ、震える足で汽車を降りた。
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