タレントorエフォート

@koyo0727

第1話 入学式

満開の桜。何度見ても綺麗なものだ。毎年のように見ているはずなのについ魅入ってしまう。


 今日は4月8日。オレがこれから通うこととなる高校の入学式だ。入学式といえば桜。満開なのは運が良かったといえるだろう。


 高校の名前は「国立秀劣しゅうれつ高等学校」。なんかよく分からない名前だ。国立というだけあってこの高校は国が管理している。国立の高校自体は全国に何校も存在する。しかしながら、この高校はその中でも異質だ。


 異質と認識されるのもしょうがない。どういうわけか分からないが入学当初250人いたはずの生徒が卒業する頃には50人にまで減っているのだから。卒業できなかった200人は中卒扱いになってしまうわけだ。わざわざ国立の高校に行ったのにも関わらずこのような仕打ちを受けるのは中々に酷というものだ。


 だが、それでも志願者は毎年1000人を上回り、しっかり250人が新入生となる。

その1人がオレというわけだが……


 時計を見ると8時25分だった。8時25分!?

まずい、あと5分で入学式が始まってしまう。急がなければ!


 8時30分になり、講堂で入学式が始まる。司会の男が式を始める。

とりあえず間に合って良かった。最初から遅刻するのはまずいからな。


 とはいえ入学式というある種のセレモニーなのにも関わらず、新入生と教師陣しかいないのは気になるな。普通の入学式には家族や2,3年生の先輩方がいるものじゃないか?

まあ、うちの両親が来ることはないだろうが……


 オレが色々と眺めたり考えたりしているうちにいつの間にか来賓のくだらない話は終わり、この学校の理事長が壇上にいた。


「みなさん、おはようございます。そしてご入学おめでとうございます。国立秀劣高等学校の理事長を務めております、柿沼優子《かきぬまゆうこ》と申します。ではいきなりで申し訳ないのですが、大事なことなので言わせていただきます。」

 するといきなり柿沼の顔つきが変わる。


「退学しないように気を付けるんだな、ガキ供!」


 は?どうしたんだこの女は。入学式という場でこんな発言をして問題にならないわけが……

なるほどそういうことか。だから、受付で電子機器を回収したのか。万が一撮られていて流出でもしたら世間からバッシングの嵐なのは目に見えているからな。


 案の定、新入生たちはざわざわし始める。それもしょうがないだろう。なんせ、理事長ともあろう者があんなことを言ったのだから。


「黙りなさい! 今は私が話しているのです。静かになさい」

 普通に考えたら理不尽な話だ。なにせ生徒達がざわざわしているのは彼女の発言が原因なのだから。でもそんなことは関係ない。何故なら今は彼女が話しているから。

柿沼、お前もこっちか。


「お前達も知っているだろうが、今いる250人は卒業時には50人になる。安心しろ、死ぬわけじゃない。退学するだけだ」

 柿沼はもうこのキャラで通していくらしい。オレは口調の荒い女性は嫌いだ。

でも何故か柿沼には不快感を抱かなかった。


「お前達の中には三種類の人間がいるだろう。才派、非才派、そしてどちらでもない人間、つまりは無所属が」

 この言葉で生徒達の表情はいきなり変わる。先ほどまでの困惑した表情は消え、真剣な顔つきになる。


 才派、非才派、そして無所属。現代の日本では全国民がこの3つのどこかに存在する。派といっても団体というわけではない。同じ思想を抱く者たちを派閥として分けているだけである。その派閥の中でもピンからキリまでいる。もちろんかなり危ない思想の者もいる。


才派とは簡単にいえば「人間の価値は才能によって決まり、人生も生まれた瞬間に決まった才能によって切り開かれる」という思想を持った者たちの派閥だ。


非才派とは、才派の考えを否定する思想を持った者たちの派閥。彼らは「人間は努力することに意味があり、決して才能によって価値は決まらない」というように考えている。


そして無所属は最も平和な考え方を持った者たちの派閥だと言われている。「人間の価値は皆一緒である」という思想を持っている。


「才派と非才派が非常に仲が悪いことは皆知っているだろう。そこにどちらでもない無所属の人間を入れる。面白いとは思わないか?学校という場で異なる思想を持つ生徒たちが争うという構図を!」

柿沼は変態らしい。別に面白いとは思わないだろう。何故か興奮しているように見えるのはオレだけだろうか。


「才派、非才派、無所属、私たち教師陣もお前達も誰がどこの派閥かは知らない。そんな状況の中で行うことはただ1つ!」

柿沼は大きく息を吸って叫んだ。


「蹴落としあいだ!」


マイクが変な音を出す。この音は昔から苦手なんだ。背筋がゾクゾクとして気持ち悪い。


「ルールや今後のことについては各クラスの担任から聞け。以上で私の話を終える」


 やっと終わったか。そういえばオレは自分がどこのクラスなのか知らないな。急いで講堂まで来たせいで正門近くに貼ってあるクラス表をまだ見ていない。入学式が終わったら見るとしよう。


「柿沼理事長ありがとうございました。以上で今年度の入学式を終了とします。各々解散してください」


司会のこの言葉で入学式が終わったことは確認できた。

クラス表を見に行くとしよう。


なんにせよ楽しみだ。普通の学校ではないことくらいは分かっていたがこうも面白そうだとはな。きっと個性豊かなメンバーで溢れていることだろう。


オレはオレの価値を示すために行動するだけだ。

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