白銀の天使、戦闘の映像を世界中に配信される
「う、うそですわ……」
街の人々の様子を見て、カレンはその場で立ち尽くす。
一方、アイリスの父は爆発した場所を見ているだけだった。娘の死のショックで言葉が出ないのだろう。固まっている一人と一匹に気付いた魔王軍四天王のアイチは声を掛けた。
「さっきの金髪と……おや久しいな……元魔王様」
「……お前だったか。アイチ」
「くくっ、領主になって楽しんでたぜ。人間の女はいいな。性処理の道具としては最高だ」
「クズが……」
「それよりも、あんたの娘……殺したぞ。とんでもない洗脳スキルを持っていたが……俺には効かなかったな」
多弁なアイチに対して元魔王様は押し黙る。
「おい、何か言えよ。……あぁ、そうか。娘が死んで何も言えないのか」
「娘が死んだ? 何を言っているんだ?」
「「え?」」
カレンは驚愕し、アイチは気でも狂ったのかと、そう思った。
「よく見てみろ」
爆発により舞い上がった煙でよく見えなかったが、それが収まってくると、そこには白銀の天使――アイリスの姿があった。
「アイリス!!」
カレンはアイリスに思いっきり抱きついた。
「無事で良かったですわ……!」
「ごめん心配かけちゃったね……」
「アイリスちゃん……本当に良かった……」
「「うぉぉおおおお!!! 天使様が生きてたぁあああ!!」」
無傷のアイリスに姉弟や街の人々も大喜びであった。
一方、魔王軍四天王のアイチはアイリスが無傷なことに驚愕していた。
「ば、馬鹿な!? あの魔法をまともに受けて……無傷だと!?」
「よく分からないけど……このルビーのおかげ……なのかな?」
「ルビーとはなんだ……?」
アイチの問いに、アイリスは無視して攻撃の構えに入る。
「あの魔法……強力だった。あたしも使うね」
アイリスはアイチが使っていた魔法を唱えようとする。
「はぁ!?」
高度な魔法なのに、即興で魔法を唱えているから驚いているとアイリスは思ったが、アイチは別のことで驚いていた。それは――アイリスの背中に白い羽根が生えていたからだ。
(なんだその羽根は!? まるで本物の天――)
「後悔してくたばれ!
アイリスが受けた魔法よりも高威力な火の爆発がアイチへ炸裂した。
「ぐぎゃぁあああ!!!」
アイチは痛みで泣き叫ぶ。
「ぐぅ、ごほっ……四天王最強の俺が敗北するなんて……そんな馬鹿な……」
そう言って魔王軍四天王の一人、アイチは塵となって消滅した。
◆◆◆◆
「うぉぉおおおおお!!! 白銀の天使様の勝利だ!!」
「魔法軍四天王が白銀の天使様に倒されたぞ!!」
「これは大スクープよ」
「今日の動画内容はこれだ!」
「お祭りだぁああ!!」
魔王軍四天王の一人が倒されたことにより、街はお祭り状態であった。
「……騒がしいな。一旦ここから離れるぞ」
アイリスの父の提案により、アイリス達はその場から離れて自宅へ戻ることにした。
もちろん追いかけてくる人々もいたが、それはアイリスの魅了で制止する。戻る道中、カレンは魔王軍四天王のアイチと対峙していたアイリスの姿を思い出した。今のアイリスに白い羽根はない。そのことが気になったカレンはアイリスに尋ねる。
「アイリス、背中の羽根はどうしました?」
「羽根?」
どうやら、アイリスは気付いていないようだ。
「お義父様、アイリスの背中に白い羽が生えてませんでした?」
「……いや、見てないな」
「うーん……わたくしの気のせいだったようですわね……」
カレンはとりあえず白い羽根について、頭の片隅に置いておいた。
◆◆◆◆
翌朝、カレンの声でアイリスの親子は目覚めた。
「おはよう、カレン」
「朝早く大声を出してどうした?」
「これをご覧くださいませ」
「お、ドロフォンか。 カレンちゃんも持っていたんだな」
「いいなー」
ドロフォン――片手で持てる四角い形の特殊な石板。使用者が魔力を注ぐと、世界中の様々な動画をその石板に映してくれる。そして動画を観るだけではなく、自分の思ったことを魔力に乗せて石板に触れると、動画に自分の思いが文字で流れる。この文字は世界中の人々も見ることができる。逆も同じく、自分も様々な人の文字を見ることができるようだ。また動画の配信も魔力があれば可能だ。
アイリス達は、カレンのドロフォンに映された動画を観る。
画面には女性がいた。マオ、という世界で起きた事件を最速で取り上げる人物らしい。カレンによると、かなり人気があるようだ。新聞記者も一目置いているらしい。
そして動画が始まった。最初は帝国の話で、どうやら国宝が盗まれたという内容だった。盗まれた国宝の詳細については伏せられたが、かなり貴重らしい。内容はそれだけで、こうして帝国の話は終わり、次へ変わる。その内容を観て、アイリス達は吃驚仰天する。
それは――先日起きた魔王軍四天王とアイリスの戦いの映像であった。
マオの動画によって、アイリスは北の街の人々だけではなく、他所でも白銀の天使と呼ばれるようになり、「勇者より強くね?」と世界中の人々から期待を集めることとなった。
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