第7話 6月9日(逃亡生活七日目)

 明智と会うすべを失くした信長は町外れの河原に寝そべりのんびりと過ごす。

「うーん、これからどうしたものか……」


 ウトウトとそのまま寝ること数時間。信長は顔を照らす日差しが眩しく目を覚ます。

「良く寝た! 宿に帰るか」


 信長が近くにつないでいた馬に乗ろうとしたところへ複数人の男が近寄り声を掛ける。


「おいお前、金目の物を置いていきな」


 見るからに悪人そうな男達が刀を抜き信長を威嚇する。信長の高価そうな馬に野盗が目を付けたのであった。



「ひい、ふう、みい……ろくか」

 信長は指を差しながら、野盗の数を数えた。


「早く出しな。そして、その馬を置いて去れ! そうすれば命は助けてやる」

 

「—―—―やっぱ武器は持っておくもんだね」

 不敵な笑みを浮かべながら長袋を手に持った信長はスルスルと袋の紐を解く。


「我ら六人を相手にとやると言うのか? よかろう抜くが良い」

 野盗達は構えをとった。


 信長は長袋を地面に放り構える。


「ええええええ!」

 野盗達は驚きたじろいだ。


 なんと信長が持っていたのは刀ではなく火縄銃だった。

「いやー本当に買っといて良かったよ。こういう事もあるもんだね」


 咄嗟の出来事に野盗の一人が思わず

「火縄銃とは卑怯な、お主に武士の誇りはないのか?」

と、問う。


 すると信長は「だって俺弱いんだもん!」と、あっさり答えた。



「……」


 信長の一言により一瞬だけ、場が静まり返るのだが野盗の頭領が部下達を鼓舞する。

「ええい、お前達なにを躊躇している。火縄銃は一度使えば火薬を詰めるのに時間がかかる。

臆するな、行けい!」


 信長は、にじり寄る野盗に銃を向け言い放つ。

「いいの? 確かに一発撃てば次に打つまでに時間はかかるけど、俺鉄砲は得意だから確実に誰か一人は殺しちゃうよ。言っとくけどこれ以上近付いたら打つからね。誰が犠牲になる? 君かな、んーそれとも君? いや、むしろリーダー打っちゃう?」

 信長のはったりと火縄銃でなかなか躊躇する野盗。


「もう諦めて帰ったら? 襲うならもっとお金持ち狙ってよ!」


「むう……」と、唸り声を上げ野盗達は尻込みをしている。


「お互い平和に帰ろうよ。野盗さんだって違う人狙った方が良いって! 

だって俺、蘭ちゃんにお金預けてるからコレと馬以外何も持ってないよ」



「なぬ? それは本当まことか?」


「うん」


 信長の話を聞き、何やら相談を始める野盗。頭領と他の野盗達が「うんうん」と、頷く。


「我々もここで時間を潰すのも無駄というモノ、今回はこのまま引き下がってやろう」

 野盗は刀を鞘に納め、その場を去ろうとする。



「あっ」



 

 次の瞬間「ドン」いう音と共に火縄銃が火を噴く。


 火縄銃から解き放たれた玉は野盗のリーダーの耳元をかすめていく。

「ひ……ひぃ」

 野盗のリーダーは腰を抜かし、地面にへたり込んだ。


「コイツ打ちやがった! ふざけやがって」

 野盗達は納めた刀を再び抜く。


「いや、ごめん! 本当にごめんね。ちょっと指に力入って出ちゃっただけ」

 必死に謝るが当然許してもらえる訳がなく、野盗に囲まれ逃げ場を失う信長。


「ちょっとした事故なんだって!」

 懸命に言い訳をする信長。


「やかましい、かかれお前等」

 頭領の指示により野盗達が信長に斬りかかろうとした瞬間。



「待て--い!」


 野盗が声を聞き振り返ると、黒ずくめの男が一人後方から刀を抜き走ってくる。驚いた野盗は黒ずくめの男に切りかかるが、それをひらりと身を躱した男は野盗の一人をあっさりと斬る。そして、返す刀でさらにもう一人斬り捨て信長の前に立った。


「えっと……どちら様でしょう?」

 信長は黒ずくめの男に声を掛けた。

 

 男は頭を覆う黒の頭巾を取ると

「お久しぶりです、殿!」と言い、信長に顔を見せた。



「あっ、影ちゃん!!」


 それは本能寺の変で信長が見捨てた信長の影武者であった。


「殿? おい、お前等何者だ。まさか!」

 影武者信長は、何かを言いかける野盗の頭領を瞬く間に斬り伏せた。そして野盗の残党もまた電光石火の如く斬り伏せ信長を守ったのだった。


「助かったよ、ありがとう影ちゃん」

 お礼を言う信長に影武者は一言物申す。


「私一人置いて行くなんてひどいですよ殿!」

 今にも泣き出しそうな影武者信長。


「ごめんごめん、だって影ちゃんて俺の身代わりでしょ。普通一緒についてきたらまずいじゃん!

しかも影ちゃん強いから、もしかしたら生き延びれるかなって思ってたのよ」


 信長は苦し紛れに影武者に言い訳をするが、一応理にかなっているような気もする……


「寂しかったんですからね!」

 そういう影武者はどこか子供のようだった。

「ごめんね、影ちゃん」

 信長は影武者の頭を撫でもう一度謝る。



 こうして奇跡の再開を果たした信長と影武者は成利が待つ宿へと帰って行った。





 

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