外れスキル《服飾》は役立たず、無能だからと幼馴染に捨てられたが、実は装備品に能力を無限に付与できる最強スキルだったので美人商人が離してくれない

剃り残し@コミカライズ連載開始

第1話 服飾

 世界各地にある八十八個の大星石。目の前で青白く光るそれは見上げる程に大きい。


 何千年も前に天から降ってきたとも、神が置いたとも、ある日突然現れたとも言われる大星石は人にある影響をもたらした。


 それは『スキル』と呼ばれる特殊能力を人間に発現させた事。


 齢十五を迎えた人間は大星石の前に跪くと、人智を超えた力によってスキルを与えられる。そして、そのスキルと死ぬまで共に歩む。成長はすれど、全く別物に変化する事は無い。


 スキルの中身如何によってその人の人生はガラッと変わる。


 貴族に生まれた人が落ちていくことは滅多にないが、平民にとっては這い上がる絶好のチャンスだ。それが誰にも平等に与えられる。努力したところでどうしようもないので、クジみたいなもの。


 目の前で鈍い点滅を繰り返す大星石パヴォ。その横に立つ役人がそんな説明をつらつらをしてくれた。


 これまでの人生で何度も聞いた退屈な説明だったので何度か意識が飛びかけていた。


 既に何人もの同い年の人がスキルを授かったようだ。


「うぉおお! 《弓術》だ!」


 そう叫んだのは近隣の村の人だろう。見慣れない顔の人が喜び勇んでいる。


「すげえぞ! あいつ、いずれは王国軍にスカウトされるかもな。バンシィ、俺達ツイてんな。今年は当たり年だぞ! ずっと戦闘系のスキルが出てる!」


 幼馴染のサルヴァが頭をかきながらそう言う。小さい頃からの興奮している時の彼の癖だ。


「やっぱり戦闘系が欲しいな。あんな村で一生を終えたくないもんなぁ」


「そうだよなぁ。バンシィ、二人であの村から抜け出そう。約束だぞ」


「当たり前だろ? 折角だし、他にも仲間候補を探しておいたほうがいいよな」


 次から次に呼ばれてはスキルを授かる同年代の人たち。口々に自分が授かった戦闘系のスキルの名前を叫ぶ。


 戦闘系のスキルが出たら冒険者になっても良いし、王国軍に志願しても良い。どんな道を経るにしても寂れた村からはおさらばできる。


 非戦闘系のスキルが出たら、村から出ることは一気に難しくなる。よしんば都市に出られたとしても、仕事を得られるかはスキル次第だ。


 とにかく、俺達はあの村を出たい。その一心だ。


「サルヴァ・ライトン!」


 サルヴァが呼ばれた。


「じゃ、先にいいやつ貰ってくるわ!」


 サルヴァはそう言って大星石に駆け寄っていく。


 大星石の前に跪くと、大星石から飛び出した光がサルヴァの体に吸い込まれていく。


「おぉ……ソードマスターだ! やった! やったぞ!」


 名前からして剣術系のスキルでも上位のものなのだろう。一斉に会場がどよめく。


「バンシィ・ヴァーグマン!」


 俺の名前が呼ばれる。


 これまでの流れからしても戦闘系のスキルが出る確率は高い。


「今年は豊作ですねぇ。期待していますよ」


 名前も知らない役人がメガネに大星石の光を反射させながらニヤつく。


 だがニヤけるだけの事はあるだろう。本当に戦闘系のスキルしか出ていないのだから。


 サルヴァの足手まといにはなりたくない。


 その一心で跪き、祈りを捧げる。


 目を瞑っているのに辺りが徐々に明るくなり、やがて眩しいとすら思うようになってきた。


 眩い光の中に一行の文字がぼんやりと浮かび上がる。


《服飾》


 それが俺に与えられたスキルらしい。


 目を開けると、大星石は鈍い点滅を繰り返していた。


 名前からして、戦闘系ではないのだろう。背中を冷や汗が伝う。


 失敗した。


 これで俺の人生はあのさびれた村と共に在ることが確定したのだから。


「バンシィさん。どうでしたか?」


「あ……その……」


 役人は有無を言わせない態度で、俺のスキルを確認するため眉間に人差し指を当ててくる。


 眉間に指をあてる事でその人が持つスキルの情報が相手に流れる。


 さっきから、戦闘系の当たりスキルを引いた人は興奮して叫んでいるのだから、こんな事をしなくても叫んでいない時点で外れを引いたのは分かり切っている事だ。


「フッ。成程……《服飾》ですか。では、大星石の加護があらんことを」


 鼻で笑い役人は次の人を呼び込む。


 自分の授かったスキル名を反芻するたび、足が重たくななっていく。


 元居た場所に戻っていると、サルヴァがウキウキした様子で近づいてきた。サルヴァの両隣には男が一人と女が二人。


「バンシィ! どうだった? 早く教えてくれよ! もうパーティメンバーも見つけといたぞ! このイケメンがキヤで、この美人双子姉妹がザーラとベルシュだ!」


「よろしくお願いしますね。バンシィさんは前衛ですか? 後衛ですか?」


 ザーラと紹介された女の子もワクワクを隠せないらしい。


 一刻も早くここから逃げ出したいのに、四方を四人に囲まれてしまい逃げ出せなくなってしまった。


「あ……いや……」


「おいおい隠すなって。見せてみろよ!」


 後ろからサルヴァが俺を羽交い絞めにする。その隙にザーラが俺の眉間に人差し指を当てた。


「これは……《服飾》……聞いたことはありませんが、非戦闘系でしょうね」


「なぁんだ。使えないじゃん。ザーラ、キヤ、サルヴァ、あっちいこ。早くしないと有能な人取られちゃうよ? こんなのに構ってる暇ないって」


 ベルシュは一瞬で俺への興味が失せたようで、ゴミでも見るような目で俺を一瞥すると同じ目をしているキヤの手を引いてさっさと立ち去る。


「あ……あはは。すみません、失礼します。また、どこかで」


 ザーラも苦笑いをして去って行った。


 残されたのは幼馴染のサルヴァのみ。サルヴァは何が起こったのか分かっていないようで呆然と立ち尽くしている。


「バンシィ……すまん! こんな事がしたかった訳じゃないんだ。今年は皆戦闘系だったから、お前もてっきりそうだと思ってたんだよ」


 サルヴァが腰を直角に曲げて謝ってくる。


 ザーラと同じタイミングで去らなかっただけ偉いと思う。


 だが、それでもこんな辱めを受けたことは許せない。三人が俺のスキルが《服飾》だと知った時のあの表情は屈辱的だった。


 非戦闘系スキルを引いてしまった事で、八つ当たりをしたいという気持ちも多分にあるのだろう。


「ふざけないでくれ! どうせ俺の事を笑いものにしたかったんだろ!? 良かったな! 精々、イキって死なないでくれよな、ソードマスターさん」


「バンシィ……」


「もう良いだろ? 俺はあの寂れた村で一生服を作って生きていくんだろうさ。俺の作った服に袖を通すことがあったら思い出してくれよ。これ以上……惨めな思いをさせないでくれ」


 サルヴァは何も言わずに立ち去る。去っていく様子を見ていられず、下を向く。


 幼馴染だって言っても所詮はこの程度だ。スキルが役に立たなければ簡単に見捨てられる。これがこの世の理、常識なのだと痛感する。


 それでも一言だけ、お世辞で良いから言って欲しかった。


「バンシィ、スキルなんて関係ない。一緒に冒険しよう」と。


 そして俺は「どうせ戦えないから遠慮しておくよ」と返す。


 でも、サルヴァは俺を無理矢理冒険に連れ出してくれる。あの同調圧力と相互監視が蔓延る腐った村から。


 もしかすると、サルヴァの事だから、俺を驚かせるために一度離れたふりをしているだけなのかもしれない。


 そんな淡い希望を持って顔を上げる。


 だが、サルヴァは俺の目の前にはおらず、遠く離れたところで意気投合した四人と円になり、楽しそうに話していた。

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