令嬢の奴隷、世界最強になる

@piyori_09

第1話 異世界ハローワーク

「えーと、平田俊介さん」


「はい」


 両者の間に緊迫した空気が広がる。



「今回も、ご縁がありませんでした・・・と。」


「なんでだよおおおおおお!!!!!」



* * *



「いい加減、条件を変えてみてはいかがですか。」


「いや、それは無理です。黒髪ロングの巨乳戦士とケモ耳のロリは外せません。そこを変えては冒険者、いや男として廃ります。」


 キリッと眉毛を吊り上げる俺に、本日何度目かのため息をこぼす女性。

 彼女の名前はロアール。きれいな金髪を持つここ天界の案内人である。現世に絶望した死者に好みの異世界を紹介する、というのが主な仕事内容だそうだ。


「天界に来れば必ずハーレム世界に転生できるって!そう聞いて道に飛び込んだのに!」


「平田さん、よく聞いてください。元来、希望通りの世界に行ける方はそう多くないんです。特にハーレム世界ともなると、相当パラメータが優秀でないと・・・。」


 気まずそうに目を伏せるロアールさん。この人との付き合いも今日で一週間となる。普通の人は一日足らずでこの世界を抜けるらしい。こんなに長いこと滞在したのは俺が初めてだそうで、ロアールさんの顔にもだんだん疲れが見え始めた頃だった。


 しばらくの沈黙の後、ロアールさんの持つ端末からピコンッと音がする。


「あ」


「なんかいいところありましたー?」


もうこちらも期待する気力もない。どうせただの業務連絡だろうけど、一応という感じで聞いてみる。


「その…、一つだけ、ないことはないんです。」


「え、俺の話ですか?」


「ええ、もちろん。黒髪ロングとケモ耳の女の子ですよね。言われてみれば、という感じですが。」


「本当ですか!?今すぐ紹介してください!いつでも行けます!」


もう条件反射だった。体全体に血が回り、脳からこれでもかというほどの興奮剤があふれ出す。この俺が、ついにハーレム異世界へ。夢にまで見た光景だ。

抑えきれない喜びに、ついロアールさんの手をつかむ。と、そこでとある異変に気が付く。


「ロアールさん?どうしてそんな顔をしているんです?」


ロアールさんが泣いているのだ。


「ぁ……て…ない」


「え?」


「あんなところにあなたを送り出すなんてできない!」


 え、と吐息のような声が漏れる。

 はたから見ればさぞ間抜けな光景だろう。手を握り合う男女がなにやら熱いセリフを叫んでいる。ラブコメでもこんなベタな展開そうそう見ない。あんなに昂っていた俺の心も、流石に落ち着きを取り戻していた。


 そうしている間にロアールさんの涙もおさまっていた。そして、静かにつぶやく。


「本当によろしいのですね」


 今までになく神妙な空気。その重さに気圧されつつ声もなく頷く。すると、何もなかったテーブルから電子音とともに小さな紙が出てくる。そこには『契約書』の文字。

 重厚な雰囲気を漂わせている割にそこには何も書いていなかった。


「え、これサインとかは……」


「転移者本人の承諾は必要ありません。中身が見えるのは私と、向こうの領主の方です。」


「は?」


そんな不条理なことあっていいんだろうか。俺に関する契約を俺の承諾なしでやるなんてどうかしている。

 そんな俺をよそにロアールさんは立ち上がり、では行きましょうか、と俺の身長の何倍もある巨大な門の前まで案内された。


「アセントフォール」


 ロアールさんの一言で巨大な門が開く。

 

 白い光に包まれ、不思議と宙に浮くような感覚がする。

 今、俺は異世界転生をしている。その事実に胸が高鳴り、口角が自然と上がっていく。


「さぁ、着きましたよ!」


 この目を開けたら、世界が広がっている。

 静かに瞼を上げていくと・・・・・・



 そこに広がっていたのは、天まで届くほどの超巨大ビル。





「ようこそ、我が社へ!社長令嬢のロアール・ファルクです」

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