ホールドアップ
「どういうこと? シーナさんを追いかけてきたって?」
メロがよくわからない、という顔でコーとレンの顔を代わる代わる見つめる。どう説明したものか、と一瞬迷っているうちに、ダイニングから出てきたシーナが説明を始めた。
「私がとある理由で眠らされて、誘拐されかけたことがあるの。その時にこのジーシェ号で運ばれてたんだけど、正体不明の空賊の船がジーシェを追いかけて攻撃してきたのさ。随分前のことだし、すっかり忘れてたんだが、確かに色といい形といい、あの時の船にそっくりだ」
「同じ船ってこと?じゃあこの船も狙われるんじゃ……」
不安そうに口にしたメロを遮って、コーが口を開いた。
「いや、その時の船はシーナが信号弾で撃ち落とした。だから全く同じではないだろう。ただ少なくともこれだけはっきり同型の船ってことは、トラーフド社が運用している船だったんだろうな、あれも」
「ねえ、どうするの?どっちにしてもこのまま見つかるとまずいんじゃない」
「だがここまで来ちまったらコースを変えるわけにもいかん。急に上昇したりすれば他の船に衝突するぞ。ともかく発着場に入るしかない。その上でできるだけさっさと立ち去ろう」
渋い顔をしながらコーが指示を出した。
他の三人も緊張を顔に貼り付けたまま、固唾を飲んで成行きを見守る。ジーシェ号は乗組員たちの不安を余所に、レンの操縦に従って滑るように船の間を抜け、発着場へと入っていった。
係留索を地上で待っている係員に投げおろすと、船は少しずつ高度を下げていき、やがて地上数十センチのところでしっかりと固定された。
窓から外の様子を窺う。トラーフド社のダブルデッカーは少し遠いところに係留されているらしく、付近に傭兵の姿はなかった。
コーたちは相談の末、コーとシーナが補給と買い出しに行き、レンはメロと二人で船に残ることに決めた。
ウィスキーの荷降ろしは今は難しい。だが少なくとも燃料や水、さらに食糧といったものが不足している。勿論メロを連れて行き危険に晒すわけにはいかなかった。
「シーナさんはもしかするとオーミネ市で顔見られてるかも。大丈夫かな」
心配そうにするメロを、レンは大丈夫さ、と努めて明るい声で励ました。
コーとシーナが出て行ってからもう2時間ほどになるだろうか。レンとメロはダイニングに座って、ただ何事もないことを祈りながらお茶をすすっていた。
「オーミネ市の時は僕やシーナが見られたのは一瞬だったし、そもそもここに来てる傭兵がオーミネにいたのと同じ奴じゃないでしょ。だったら大丈夫」
「だといいけど。ごめんなさい、迷惑かけて」
ダイニングの椅子の上で膝を抱えながら、メロは幾分落ち込んだ声で言った。
気丈に振る舞っていてもやはり不安は大きいのだろう。レンとて不安がないわけではなかったが、コーがいるんだからきっと大丈夫だ、と自分に言い聞かせて何とかそれを振り払おうとしていた。
ふと、船の外で足音が聞こえた。
土を踏む靴の音が二人分。やっと帰ってきたかな――。
そう思ってレンが立ち上がり、窓から外を確認した。そしてその瞬間、レンの身体に緊張が走った。
違う、こいつら、トラーフド社の――!
「メロ、隠れ――」
そこまで言った時、外を歩いていた二人の傭兵が、ガラス越しにこちらに視線を送り、そして目を見開いた。
しまった、メロを見られた。
次の瞬間にはもう、ジーシェ号の扉が乱暴に蹴り開けられ、二人の傭兵は銃を構えながら中へと勝手に入り込んできていた。
「よう、見つけたぜお嬢ちゃん。こんなところまでよく逃げてきたもんだ」
両手で銃を構えた男がメロに狙いを定める。メロは悔しそうに両手をあげ、その場に跪いた。こいつらは間違いなく容赦なく撃つだろう。今は命令に従うしかない。
レンも仕方なくメロに従って両手を挙げた。
「さて、こっちのボウズは? おい、お前が手引きしやがったな?」
「待って、違うの! その子は関係ないわ! あたしが今この船に逃げ込んだってだけで、何も知らない――」
そこまで言った瞬間、突然もう一人の男がつかつかとメロに近づいたかと思うと、その頬を思い切り殴り飛ばした。
「嘘ついてんじゃねえよこのアマ! 突然逃げ込んできてゆっくりお茶飲んでましたってか? バカも休み休み言え!」
「おいおい、あんまりやり過ぎるなよ。取り調べは本社でやるんだろ?」
「けっ、構いやしねえよ一発や二発! 誰のせいでこんな遠くまで駆り出されてると思ってるんだ」
男たちは乱暴な言葉で罵りあいながらも、レンとメロを並んで立たせると、背中に銃を押し当てた。
「さあ、さっさと歩け! 俺たちの船が向こうに停めてある。それに乗り換えだぜ」
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