第6話 目玉ポップ
双眼鏡を手に取って窓外の景色を見やる。目の保養。初夏の濃い木々の葉、大いに羽ばたく鳥の様子など。目の保養。
保養を通り越したモンを発見。隣に住む、うら若きネーチャンの生着替え。覗くつもりはなかったが、俺、凝視。人は皆、罪悪を抱えて生きていくのですね。
凝視しまくり稼働しまくりの俺の目玉は双眼鏡を通り抜けてレンズを突き抜けて飛び出した。ポーンと。目玉ポップ! それくらいの力が隣のネーチャンの裸にはあったのよ。
飛び出た目玉は、右のほうが自宅前の道路に、左のほうが路地裏に落下した。俺の視覚はNHK。「Nanka Henna Kanji」。
困ったな。
てな事を思ってたら、右目は軽乗用車に轢かれて潰れた。ぐちゅっと厭な音がした。俺は右目の視覚を失った。つうか右目自体を失った。
悲しんでいる時間などはない。人生は短い。せめて左目は取り戻さねば。
とはいえ、左目に見えるのは路地裏に捨てられた生ゴミのたぐいなどで、しかも地面に転がって制止している目玉の視力をアテにしては身動きが取れないのである。
俺の顔の、目玉があった場所には意味なくウナギがニョロニョロ侵入してい、実に閉口。
そんなうちに、お魚くわえたドラ猫が、人間の目を賞味するのも一種の風流だよね、と言わんばかりに俺の左目を口にした。猫に目玉を食われるとは俺も落ちぶれたもおのだ。
困ったな。
俺は何も見えずに。呆然とするしかなかった。
日本には二億四千万の瞳があるという。
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