2.視線は
第7話 恋の試練はいつも唐突に
「でさー。その時の谷口が本当かっこよくて!! どれだけこいつは私を殺しにかかってくるんや……って内心悶えちゃって」
「なにそれ。クソイケメンやん。陽ちゃん」
「でしょー!! それで……ってもうこんな時間だけど大丈夫? ごめん華凛。こんな時間まで聞いてもらって」
とある日の夜。私はその日の出来事を親友であり、恋愛の師でもある華凛に語っていた。時計の針はすでに23時を回っていた。
「大丈夫、大丈夫。私も聞きたくて聞いてるんやし。はぁ……惚気つつもこっちを気遣ってくれる愛美、マジ天使。尊いわ~」
「の、惚気って……別に惚気てなんてないし!」
「今の話が惚気じゃなかったらなんなんや」
コンマゼロ秒で即答される。通話なのに何故か華凛のジト目を感じる。で、でも付き合ってるわけじゃないから惚気話じゃないと思うんだ、うん!
「まさか付き合ってないから惚気じゃないとか思ってないやろな?」
「うぐ……!」
な、何故私の思ってることが分かった!? さては華凛エスパーなのでは? 私が何も言い返せずにいると、華凛のため息が聞こえる。
「図星かい。まあ、それより愛美。そろそろゴールデンウィークだけど予定は立てとるん?」
「え? 特にはないけど……あ、また一緒にどっか行く? それなら私いい所――」
「ちっがーう!!!!」
私の言葉を華凛は大声で遮る。あまりにもうるさかったので、ついスマホを耳元から遠ざける。
「ちゃうねん!! そうじゃないのよ。いや、遊びに誘ってくれるのはうれしいけど違うんや。そうじゃないんや!」
「じゃあ、何なのよ……」
もしかして予定でもあるのだろうか? それなら後日また遊びの予定を立てればいい。何も遊べるのはゴールデンウィークの時だけじゃないのだから。互いに都合のいい日に遊べばいい。それとも勉強会でもやろうとか? 中間試験はまだ少し先だけど、早めに対策するに越したことは無いし……。そんなことを考えていたのを察したのだろうか、華凛は呆れたように盛大な溜息をつき言う。
「だからー……陽ちゃんをデートに誘ったのか、ってこと」
「ひゃ、ひゃい!?」
華凛の言葉に驚き、思わず変な声を出してしまう。で、デート!? 谷口と!?
「そろそろ進展してもええやろ。ってことでゴールデンウィークに陽ちゃんを誘ってデートや!」
「で、デートって……そもそも谷口と知り合ってまだ……い、一か月くらいなんだよ? そんな男子と二人で遊びに行こうなんて……無理無理! 絶対無理! 華凛の距離感の認識どうなってんの!?」
「私からしたらそれくらいの付き合いなのにあそこまで距離感なしの関係を築けてる愛美こそどうなってるの? ってなるけどな。陽キャならともかく……陽ちゃんは普通の男子やで。なのにあそこまで親密になってるってバグってない?」
「超がつくほど陽キャでコミュ力高い華凛にだけは言われたくない」
「たしかに」
なははははは、と華凛は笑う。まったく……。私はため息を吐く。
「……そもそも最初に話しかけてきたのは谷口だし」
「うん? なんか言った?」
「ううん、なんでもない」
私はそう言って小さく溜息をついた。
「ふぅーん……? まあとにかく。陽ちゃんを誘ってゴールデンウィーク、二人でどっか行きなよ。何も告れって言ってるわけじゃないんだし」
「それはそうだけど……でもやっぱり無理だよ……」
「まあたしかにいきなり二人っきりっていうのは難しいか。陽ちゃんに性格的にも。……だったら男女混合で行く? グループでなら問題ないやろ」
「グループで……?」
「そや。武瑠……西山武瑠って男子、クラスにいるやろ? あいつ、幼馴染みだからさ。私、愛美、武瑠、陽ちゃんの四人でどこか遊びに行こ」
「ま、まあ……それなら大丈夫だけど……」
「おっけー。武瑠には私から連絡入れとくわ。陽ちゃんは……まあ、うちから連絡――」
「ダメ」
私は華凛の言葉を遮り言う。
「だ、駄目……谷口は……私から誘う……から」
私は言って恥ずかしくなり、最後の方は何を言ってるのか自分でも聞き取れないくらいごにょごにょと言う。だけど、これだけは譲れなかった。谷口を誘うなら誰でもない、自分自身で誘いたい。そんな思いを知ってか知らずか、華凛はニヤついたような声で
「ほほーん。ならここは愛美に任せるとしますか。明日、陽ちゃんを誘っといてよ~。任せたよ~?」
「……ねえ、なんかニヤついてない?」
「ええーニヤニヤなんてしてないよ~気のせいだよ~」
絶対、嘘だ。通話だから顔は見えないが、直接会話してたら顔がニヤついてるに違いない。……今からビデオ通話に切り替えてやろうか。
「まあ、とにかく明日頑張ってね」
「……うん。頑張るよ。それじゃ、そろそろ時間も時間だし……終わりにしようか」
「うん、そうだね。じゃ、明日の部活で結果報告待ってるよー。おやすみ~」
「……うん。おやすみ」
通話を切りしばらくの間、私は呆然としてた。が、次第に明日のことを思い浮かべ
「~~!! ~~~!!!? ~~~~!」
羞恥に襲われ、部屋中を歩き回り、ベッドにダイブし、枕に顔をうずめる。明日、誘うの? 谷口を? 私が?
「……落ち着け私。ただ誘うだけ。別に緊張する必要ない」
そう自分に言い聞かせるも気持ちが落ち着くことは無く、翌日私は寝不足の状態で学校に行くのであった。
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