「山城五判は動きまくる ー打ち切り坂ー 前編」

※この作品に登場する人物、及び、作品、場所など、すべて架空のものです。



「五判先生。『恋するサイコキラーちゃん』の打ち切りが決まったんで、あと3話で話をまとめて下さい」


 漫画雑誌『週刊少年ダンプ』の編集者であり、山城五判やましろ ごはんの担当者でもある弘前浩二ひろさき こうじは、山城五判の作業部屋に入り、開口一番にそう言った。

 それを聞いた漫画家であり、『恋するサイコキラーちゃん』の作者である山城五判は漫画を描く手を止めた。


「……すまん。よく聞こえなかったんだが、今、なんて言った?」


 山城五判は、弘前に顔を向けた。


「『恋するサイコキラーちゃん』の打ち切りが決まったんで、あと3話で話をまとめて下さい」


 弘前は淡々と言った。


 ドギャアアーーーン!!!


 山城五判は作業机に頭を強打した。

 真っ白だった原稿用紙はインクの黒ではなく、山城五判の血で赤く染まった。




 ……。


 頭に包帯を巻いた山城五判は、しかめっ面で作業部屋にある大きなソファーに座る。

 一方、弘前は救急箱を持ったまま、その場に立っていた。


「……」

「……」


 二人の間に重い空気が流れる。

 しばらくして、弘前の口が開く。


「とりあえず、『恋するサイコキラーちゃん』は打ち切りですから。あと3話でまとめ……」

「やかましいわ!資本主義のブタァ!!」


 山城五判はソファーから立ち上がり、


「なんで、僕の漫画が、いきなり打ち切りなんだよ!!雑誌内でも人気上位!単行本の売れ行きも好調!冬には、アニメ化もした!年内には劇場アニメ化も予定されている!!なのに、なんで打ち切りなんだよ!!」


と、唾を飛ばしながら叫んだ。

 飛んできた唾をハンカチで拭く弘前。


「落ち着いてください、五判先生。あと、劇場アニメの話は没になりましたから」

「ふざけるなぁああああーーーー!!!」


 包帯が巻かれた山城五判の額から、血がスプレーのように噴き出した。


「うわ!落ち着いて下さい、五判先生!また額から血が出てますよ!!」

「うるさい!落ち着けるか、資本主義のブタ!!まだまだ描きたいことが山ほどあるって言うのに、なんで急に打ち切りなんだよ!!それに伏線が山ほどあるっていうのに、あと3話で話がまとまるかァ!!」

「いいから、落ち着いて下さい!五判先生!!僕だって、一生懸命なんとかしようと頑張ったんですから!!」


 そう言う弘前の表情は真剣だった。

 そんな弘前の顔を見て、五判は荒れるのをやめた。

 いつもの弘前とは様子が違う……。

 山城五判は、そう感じ取った。


「……と、とりあえずだな……。なんで、打ち切りになったのか、話を聞かせろよ……」


 落ち着きを取り戻した山城五判は、再びソファーに座る。


「はい……。実は、期待の新人漫画家が居まして、以前、読み切りで彼の漫画を掲載したところ、読者の評判が良かったんです」

「……。もしかして、アレか?『ズッコケ!おもち丸くん!!~血の惨劇~』って、漫画か?確か、作者は持田望夫もちだ もちおって名だったな?」

「はい、そうです。その持田望夫先生の新連載が決まったんです。それで、持田先生の漫画をダンプで連載するために……」

「……僕の漫画が打ち切りになったと……。そういうことだろ……。確かに面白かったもんな、彼の漫画は……」


 冷静な態度を保つ山城五判ではあったが、彼の表情には悔しさが滲み出ていた。

 自分の漫画が打ち切りになったのは、新人漫画家のためという理由だからだ。


 週刊少年ダンプは、週刊少年漫画雑誌の中でも特にシビアな漫画雑誌である。

 人気のない(または、人気がなくなった)漫画は容赦なく切り捨て、人気のある漫画はアニメ化、グッズ化など、とことん優遇する……まさに『弱肉強食』という言葉をそのまま体現したような漫画雑誌だ。


 そんな週刊少年ダンプだから、山城五判の漫画『恋するサイコキラーちゃん』は打ち切りになったのだ。


「はい、そういうことです。新人の持田先生の連載枠確保のため、五判先生の漫画は打ち切りになりました」


 ハッキリ言う弘前に山城五判は苛立ったが、まだ打ち切りになった詳しい経緯を聞いていないので、余計なリアクションは控えることにした。


「……だが、解せないな……」

「なにがです?」

「……自分で言うのもなんだが、僕の漫画は人気上位なんだろ?」

「はい」

「……他の漫画家さんたちに失礼だが、僕のサイコキラーちゃんより人気のない漫画なんていっぱいあるじゃあないか……。なのに、なんで僕の漫画が新人くんの犠牲になるんだ?」

「……んー。まあ、そうですね。正直、五判先生の漫画より人気のない漫画は結構あります。特に疑心暗鬼先生(ペンネーム)の『有機栽培王ゆうきさいばいおう』はアンケートでも毎週最下位で、読者からの評判も良くないんで、いつ打ち切りなってもおかしくない状態ですねー」


 それを聞いた山城五判は怪訝な表情をした。


「オイ!ちょっと、待て!疑心先生の『有機栽培王』は、いつ打ち切りになってもおかしくない状態だと!?それじゃあ、なんで、『有機栽培王』を打ち切りしない!?疑心先生には悪いが、僕のサイコキラーちゃんじゃなく『有機栽培王』を打ち切りにして新人くんの連載枠を確保すればいいじゃあないか!!」


 山城五判のその言葉を聞き、弘前は困惑した。


「……実は言うと、編集部でも『有機栽培王』を打ち切りにして、持田先生の連載枠を確保するって話になっていたんですよ……」

「なんだってぇー!!?」


 山城五判は思わず、ソファーから立ち上がった。


「『有機栽培王』は、打ち切りが決まっていたというのか!?なのに、なんで、僕のサイコキラーちゃんが打ち切りって話になったんだよ!?」

「……」


 弘前は沈痛な面持ちで黙り込んだ。


「オイ!どういうことだ!!一体、なにがあって『有機栽培王』じゃなく、僕の『恋するサイコキラーちゃん』が打ち切りになったんだ!!?」

「……」


 山城五判は弘前に詰め寄った。

 だが、弘前は口を開こうとしない。


「一体、どういうことなんだ!?説明しろ!!!」


 唾を飛ばしながら、山城五判が迫っても弘前は黙ったままだった。


「オイ!なんとか言えよ!!オイ!!」


 弘前は沈黙し続ける……。



 何故ならば、今、弘前が喋れば字数が多くなるのと、現時点で2,500文字というキリの良い字数になっていた。

 なので、弘前はこのまま話を次回へと繋げるため、あえて黙っているのだ。




続く

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