第2話・料理バトルテーマは『冬をイメージする南方スイーツ』?

 カリュードたちがアチの世界〔現世界〕から、コチの世界〔異世界〕へ通じる絵画ゲートを通って出てきた場所は。

 料理バトルが開催される、人面ヤシの樹をそのまま利用して作られた、砂浜の円形闘技場コロシアムだった。

 

 円形闘技場の中では、南方の仮面をかぶった人たちが、料理バトルの準備を進めていた。

 風紋が言った。

「ナマアゲハ王の息子の『コアゲハ』……完全に料理バトル、やる気満々ですね」

 ふっと横を見ると、カリュードがアチの世界から着てきた制服を脱いで、丁寧ていねいにヤシの葉の上にたたんで下着姿になっている。

 下着姿で立ち上がったカリュードが、戦斧を掲げて言った。

「来い! 七色レインボーアルマジロの皮鎧!」

 カリュードの声に応じて、構造色で光りを反射して虹色に輝く、等身アルマジロの皮鎧球体が飛んできて。カリュードの体に装着される。


 ちなみに、皮鎧の中にはカリュードが、異界大陸国で着ている蛮族服も入っていて。

 同時に装着されるから、最初に下着姿でも問題ない。


 蛮族料理人の姿に変身した、カリュードが言った。

「来た来た、主催者のコアゲハが」

 カリュードの視線の先に、不気味な光景が広がっていた。

 子象くらいの大きさをした、骨格が露出した動物が、四つ足でゆっくりとこちらに向かって歩いて来るのが見えた。

 ほとんど、骨だけになった動物の後方からは、獣形人の料理人たちが続く。


 わずかな肉片と、心臓が付着する骨だけになった動物の中には。上半身裸で黒いライダーパンツと、ブーツを履いた若い男が座っていた。

 目つきが鋭い、その茶髪男の体にはアチの世界のビル群がタトゥーで彫られている。

 さらに、男の体からはヒルの口のようなモノが動物の骨の裏側に付着した肉片に向かって随所から伸びて、残った肉を吸い取るように食べていた。


 ヨロヨロと歩いてきたほとんど骨だけの動物が、力尽きて倒れると肋骨の中から若い男──『コアゲハ』が外に出る。

「ここまでが限界か、よく生き続けたな……オレに内側から食べられながら」


 コアゲハを不快そうな目で眺めながら風紋が呟く。

「相変わらず、残酷なヤツだ。生かしたまま食材が骨になるまで、しゃぶり尽くすとはな」

 コアゲハが、倒れた動物の骨に残っていた、干し肉化した肉片を千切り取って食べながら、悪友の風紋に言った。

「悪魔のおまえには言われたくねぇな、オレはできるだけ長い期間、食材を生きながらさせて味わいながら、食べてやっているんだ……親父のナマアゲハ王のようにケツで食べるのは下品だ」


 コアゲハが、今回の料理勝負のテーマを告げる。

「【冬をイメージする南方スイーツ】これが今回の勝負のテーマだ……もちろん、カリュード側は誰が料理を作ってもいいが、ハンデでアチの世界の食材を二点以上使うことが条件だ……そして勝負に負けたら、代表して蛮族料理の料理人が」


 なぜか、コアゲハは少し照れながら言った。

「『負けちゃって、ごめんにゃちゃい』と言え」

 風紋が横線点目で言った。

「コアゲハ……おまえ、本当の目的はそれだろう」

「う、うるさい! こちらの料理人を紹介する……象人『メイプル・エレファント』カモン!」


 ガネーシャ神のような姿をした象の獣形人が、丸太のような両手を合わせて進み出てきた。

「頑張って勝利するゾウゥ」

「メイプル・エレファントはスイーツのパテシエだ……そちらからは誰が出る?」


 カリュードが戦斧で、一人の料理人を示す。

「サード料理人、水犬すいけん

 驚く水犬。

「えっ? ボクですか?」

「水犬は、デザートやスイーツ作りは得意だろう、だから……必要なモノは言ってもらえれば、オレの方で用意するから。思った通りのスイーツを、勝敗は考えずに自信を持って作ればいいから」 

「わかりました、どこまでできるかわかりませんが、やってみます」


 そして四日後──料理勝負の日がやって来た。

 料理コロシアムの中央に出てきた、南方仮面をかぶった進行役の少女が、竹の筒をマイクに見立てて、しゃべりまくる。

「おまぇらぁ、待ちくたびれたかぁ! 毎度恒例の料理バトルの開催だぁぁ、目ん玉見開いて。世紀の料理人バトルをその目に焼きつけやがれぇぇ!」

 仮面を少し上にズリ上げて、覗いた愛らしい少女顔の進行役が審査員の紹介をする。


「最初の審査員は、その舌を侮るな! 神の舌を持った美食家の料理評論家さんだぁぁ!」

 紹介された、乳飲み子を胸に抱いた若い女性が一礼する。


「辛口評価は愛ある証し……骨董品から料理まで、なんでも鑑定してジャッジする、辛口エルフ審査員」

 和装姿のエルフ男性が軽く頭を下げる。


「元々は単なる動き回る食肉植物……美食に目覚め、好きが高じて。今では異世界でラーメン屋の店主をやっている、希有けうな植物審査員!」

 等身の食肉植物が、蔓の腕を振る。

「彼らが審査をしまぁぁすぅ……先手、コアゲハ側の獣形人メイプル・エレファント……カモ~ン! 出てこいやぁ」


 メイプル・エレファントが用意したのは、クリスマスツリーのような全体が菓子食材の【シュガーツリー】だった。

 幹はスポンジケーキ、クッキーの枝にチョコレートやココアの樹皮と年輪、ナッツ類が実った樹にはスノーシュガーが雪のように降りかかっているシュガー・ツリーを一本担いで登場した。

 メイプル・エレファントは、コロシアムに伐ってきたシュガー・ツリーを立てて言った。

「これから、この場で調理してお菓子を作るゾウゥ……トウゥゥッ!」


 空高く跳躍したメイプル・エレファントは、シュガー・ツリーのてっぺんから一気にゾウの丸太腕で下に向かってプレスしていく。

 ドッドッドッドッ!

 プレスされて圧縮されたシュガー・ツリーは、マンホールくらいの大きさの、円形ケーキに変わり切り分けられる。

「『シュガー・ツリーケーキ』完成だゾウ、食べてみるゾウ」

 仮面少女がノリノリで言った。

「実食だぜぇ!」

 三人の審査員が、切り分けられたシュガー・ツリーのケーキを口にする。


 メイプル・エレファントのケーキを口にした赤ん坊が、不機嫌な表情で「ペッ」と、ケーキを吐き出して言った。

「固い、マズい、木目くさい」


 辛口エルフが、茶で口中を洗い流しながら言った。

「さすがにこれは、料理では無いでしょう」

 食肉植物のラーメン店主人が、首を横に振る。

「ガガガッ……第一これは、押し潰しただけで……料理じゃない……審査評価外ガガガッ」

「ガァァァァン……だ、ゾウ」


 次に後手の水犬が、スイーツを審査員の前に出して説明する。

 涼しげな盛り容器に、顔がついた特殊なゼリー容器で固めた、青っぽいゼリー菓子がプルンと乗っていた。

 ゼリー菓子の顔は、怒った【オッ火山島】のオカンの顔をしていた。 

 ゼリーの山頂部分には、白い粒々が雪のように浮かんでいた。

 そして、ゼリー山の下部周囲には、白と黒の波模様クリームがデコレーションされていた。

「タイトルは、『南方のオッ火山に積もる白い雪』別名『オッカーンの喜び白ゼリー』ですワン」


 山頂の白い雪は、おぼろ豆腐。

 青い寒天ゼリー。

 ホワイトクリームとブラックチョコレートの、波型クリーム。

 スライスした、異界のナッツ類、アラアラアーモンドがクリームに添えられていた。


「ガガガッ、この別容器に入っている赤いモノは?」

「ラズベリーソースだワン、お好みでゼリーに掛けて、食べてみて欲しいだワン」

 ゼリーを実食する審査員。

「ばぶぅ……清涼感が口の中に広がる、これはミントか? 山頂の豆腐も美味い、ごちそうさまばぶぅ」

「普段は辛口評価のわたしだが、ここは素直に心に浮かんだ言葉を伝えよう……懐かしい味だ、オッカサーン!」

「ガガガっ……ラズベリーソースをかけてみたら、火山が噴火したような……これは、視角も楽しませてくれるガガガッ」

 審査員の評価は全員一致だった。


「勝者! 蛮族料理人側の『南方のオッ火山に積もる白い雪』」

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