異界大陸国の南方料理はとても、ワイルドでデンジャラス!
楠本恵士
第1話・その挑戦!受けてやろうじゃないか!
アチの世界〔現世界〕──少しおしゃれな、洋風の外装をした料理店。
【
『毒森メニューがない無愛想な創作料理店』の店内に。
学校の制服を着て巨大な戦斧を持った小柄な女子生徒が、ちょこんと椅子に座って説教を受けていた。
「まったく、どうするんですか……このまま成績が下降を続けると、留年ですよ。
ただでさえ、コチの世界〔異界大陸国レザリムス〕で食材調達で飛び回っていて出席日数もギリギリなんですから」
腰に黒いエプロンを巻いて、腕組みをして立つ。美形のファースト料理人『風紋』が、他人事のような感じで頬に貼られている絆創膏をいじくり、剥がそうとしているのを見て風紋は語尾を強める。
「人が話している時に絆創膏を剥がして遊ばない! 本当にわかっているんですかチーフ」
蛮族料理のチーフ料理人少女『カリュード』は、スカート姿で胡座をかいて。
「わかっている。わかってる……勉強もちゃんとやるから」
と、適当な返事を風紋に返す。
ちなみに店名の『毒森』というのは、この店の、無愛想な初代店主の名字だった。
風紋が、タメ息を漏らす。
「どう見ても、その態度は承知して反省している態度じゃないですよね」
愛用の戦斧を布で磨きながら、カリュードが言った。
「だってオレ、絵画に異世界の料理人だぜ……現世界の学校へ通って、勉強する必要なんてあるのか? 野山を駆け巡って、本職の食材集めをしていた方が楽しいし」
「アチの世界の学校で、そんな言い訳通用しませんよ……まったく」
セカンド料理人で、カリュードと同じ学校に通う。紅い髪の女子高校生『炎樹』が見かねて横から口を挟む。
首にチョーカーを巻いて、無意味な位置にファスナーがついた革のオープンフィンガー手袋をした、炎樹の手の中に炎が噴き出す。
「勉強なら、あたいがチーフに教えてやるよ……こう見えても成績はそこそこイイ」
サード料理人で、同じ学校に通う少し気弱そうな男子生徒『
「ダメですよ、炎樹さん……勉強はチーフ自身が、本気でやらないと身につきませんよ。炎樹さんだと、すぐにチーフと一緒に長時間ゲームして勉強そっちのけで終ちゃうでしょう」
「バレたか」
風紋が言った。
「とにかく、試験まで……チーフにはアチの世界で、みっちりと試験勉強を……試験が終わるまでゲーム禁止」
「えーっ、ゲームやらないと死んじゃう」
「やらなくても死にません!」
そんなやり取りを料理人たちがしていると、壁に掛けられているアサルトライフル銃を持った迷彩服エルフの絵画から、絵と同じ姿のエルフのオーナーが抜け出してきた。
エルフオーナーが異世界で調達してきた、マンドラゴラ亜種の【しゃべる黒いニンニク】を、水犬に渡して言った。
「これ、いつものように壁に吊るして乾燥させておいて……あっ、そうそうた。南方のナマアゲハ王の息子の『コアゲハ』と、ばったり会っちゃってね。カリュードに伝言を」
すかさず、言葉を遮る風紋。
「お断りします! チーフには試験勉強がありますから」
「まだ、何も言ってない」
「言わなくてもわかります……また、料理バトルの挑戦状でしょう。南の厄災トンパ・トンパだけでも大変だって言うのに……あの男は、面倒な料理バトルを挑んできて……当然、チーフ料理人のカリュードは、その挑戦は」
風紋が断りを入れる前に、立ち上がったカリュードが戦斧を構えて言った。
「……受けて立つ! 相手にとって不足なし! コアゲハの送り込んでくる獣形料理人が強ければ強いほど。
蛮族料理人カリュードは燃え上がる……で、勝負はいつ?」
「準備期間を含めて四日後……今からアチの世界〔異界大陸国レザリムス【南方地域】〕に移動しないと、準備間に合わないわよ」
「オーナーあんたは、まったく、いつもいつもギリギリに……はぁ、ここは民主的に多数決で決めましょう……この料理バトルの挑戦状、辞退した方がいいと思う人」
風紋一人が挙手する。
「じゃあ、挑戦を受けてもいいと思う人」
カリュード、炎樹、水犬、エルフオーナーまでもが挙手する。
「オーナーまで、なんですか。こうなると、もう止まらないですね」
風紋は、しかたがないといった顔で、本来の姿にもどる。
風と稲妻の渦に包まれた風紋の姿が、人間と悪魔のハーフデーモン姿に変わる。
左右非対称の片方の角はレイヨウ類〔アンテロープ〕のように、太く捻れくねった上へ伸びるコルクの栓抜き状に巻いた角、もう片方の角はヤギ類〔アイベックス〕の角のように後方へ伸びる角。
黒いコウモリの羽と悪魔の尻尾を生やした、ハーフデーモン風紋が出現する。
炎樹の体が炎に包まれると、腰に交差させた剣を装着した紅い髪の女剣士へと変わり。
水犬は、水柱の中で調理器具が組合わさった。
ヌイグルミ体型の犬型器物獣へと変貌した。
制服姿で戦斧を担いだカリュードが言った。
「それじゃあ、お先にコチの世界へ」
そう言うと、表面が水面のようなエルフオーナーの絵画の中に飛び込み消える。
カリュードの後を追う風紋。
「チーフ、せめて着替えてから、異世界に行ってください」
風紋に続いて、炎樹と水犬も、異界大陸国レザリムスに繋がっている絵画の中に飛び込み消えた。
異界の料理人たちを見送った、迷彩服姿のエルフオーナーは。
「みんな、頑張ってね♪」
と言って笑顔で、自画像の絵画に向かって手を振った。
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