2-2 ルナサイド

 本来、魔術研究員であるルナは、コルネリア帝国にある帝都で、魔術の研究をしていたんです。だけど、ルナは訳があって、アヴァルの街に、ある宿屋を拠点に魔術研究を行っています。


 え!? 研究員にしては、幼く見えるですって? 確かに、ルナは見た目通りまだ十三歳です。けれども、これでも、魔術研究員なんですよ。幼い頃から、苦労して、魔術の勉強した結果、ルナは最年少で魔術研究員になれたんです。


 あっ! ルナっていうのは、ルナのことです。ルナは名前です。……って、誰に言っているんでしょうか? 何か、ルナって、誰? と言う声が聞こえたから、説明しましたが、その声自体、気のせいだったかな?


 そんな、ルナですが、現在、全く素性の知らない、お二方を、思わず、助けてしまったんです。助けたっと、いうよりかは、宿まで案内をしているだけです。お二方の腕を引っ張っりながら、引きずってはいますけど。


 これは、もうルナの癖みたいなものなんです。というよりかは、病気かな? こう、いかにも困っていそうな、人を見ると、ほっと置けないのです。


 でも、この二人からは、困ったような顔をしていないんです。悩みが、なさそうな、のほほーんとした顔なら、しているのです。だから、心配なんです。なんか、今にでも、人に騙されやすそうな感じがします。特に、この国の貴族達は、悪質な方々が多いですから、本当にそういう人達に目を付けられたら大変です。


 それにしても、よく見て見れば、二人共、体と服がかなり汚れています。もう、何日も体を洗っていないことが一目見ればわかります。普通に考えれば、旅の道中で、避難したのでは、ないかと思います。普通なら。


 ルナが引っ張って連れて行っている二人の内、一人は、あの伝説の女将軍のような容姿をした、蒼い髪と瞳をした女性。


 もう一人は頭にスカーフを巻いていて、そこから、出ている、長い髪を三つ編みで纏めた、小柄な少女。


 この二人を見ていたら、思わず、ため息を付きました。


 だって、このお二人さん、とてもデカいんですよ! 胸が! なんで、こんなに胸がデカいんですか? 帝都でも、こんなに大きい人いないですよ。全くいないわけではないですが。


 お胸については置いておきましょう。ルナがつい助けて、しまいましたが、もしかして、厄介事に巻き込まれていないよね?


 改めて、考えると、この二人。なんか、妙な感じがします。


 一人の女性は改めて見ると、胸がデカ……じゃなくって。すごく美人さんです。蒼い髪に蒼い瞳といった、まるで伝説の女将軍のような見た目の人なんて、いるんですね。髪と瞳のどっちかが、蒼色の人はいます。だけど、この人の蒼色は綺麗な蒼色をしている。男の人じゃなくっても、思わず見とれてしまいます。


 ……あ! 憧れるって意味だよ。


 容姿は置いといて。ルナが気になることは、その、伝説の女将軍のような女性は、魔道具を装備していないのに、魔力を感じるんです。勇能力の持ち主かな? でも、魔力の流れは、この人自身から感じるわけではないんです。


 興味深い。……研究者としての好奇心よ。さっきから、誰に向かって、訴えているんでしょうか?


 そして、もう一人の小柄な少女……若干ですけど、身長はルナが勝っています。勝ってはいるんですけど、この子は、胸が大きいんです!! 背はルナよりも、低いのに、なんでこんなに胸が大きいのよ! 背を犠牲に胸が育ったんですか? 


 ……じゃなかった。この子の、身に着けている腕輪型の魔道具に付いている魔石からでも、とても強い魔力を感じるんです。だけど、この子自身から、かなり強い魔力が漏れているんです。この子も、勇能力の持ち主? だったら、魔道具を装備する必要なんてないはずです。


 本当、考えれば、考えるほど、謎ですね。このお二人さんは。


 それに加えて二人の汚れた格好……いや! 今は考えるのは、やめておきましょう。今は宿屋に急ぎましょう。




 そして、ようやく、目的地の宿屋に辿り着きました。


「着きましたよ」

「ここは?」

「宿屋ですよ。宿屋としては、大きいほうですよ。さあ、中に入りましょう」


 ルナ達は宿屋に入っていきます。


「いらっしゃいませ!」


宿屋を経営するモニカさん。とても、優しいお姉さん。そう言えば、モニカさんもお胸はデカい方ですね……。いや、そうじゃなくって!


「あれ? ルナちゃん! どうしたんですか!? そんな怖い目して」

「これは生まれつきです」

「いや、そうじゃなくって……。私なんかしちゃった?」


 もしかして、モニカさんのお胸を睨みつけたかな? 


「いいえ! 何でもないですよ! ほんと! 何でもないです!」

「あら? そうなの? ……ルナちゃん。その二人は?」


 ルナが連れてきた二人のことね。……そう言えば、名前はまだ聞いていませんでした。でも、その前に。


「この二人に、お部屋を。ついでにお風呂を」

「え!? 凄い汚れているわね。今、用意するね。取り敢えず、お代はいいから」

「いいえ、今払います。一応、商売だし、特別扱いしてしまうと、それに漬け込む人がいますから」

「も〜! ルナちゃんは相変わらず、真面目さんね〜」


 ルナがお金を取り出そうとすると。


 ドーーーン! ちゃらーーーん!


 何事なの? ルナが左側の真下を見ると。小柄な少女が、顔面から、思いっきり床にぶつかっていました。


 でも、何で、そんなことに?


 ……!


 そう言えば、ルナが急ぐあまりに、この小柄な少女が、転んでいるにも関わらず、転んだまま引きずっていました。ルナが突然手を離したから、手を繋ぎっぱなしだった小柄な少女が、さらに転けてしまいました。反対側にいた蒼髪の女性は立っていましたけど。


「あーー!! ごめんなさい!? 大丈夫ですか!?」

「大丈夫なんだよ。よく、お顔をぶつけるんだよ!」

「それは、それで、大丈夫ですか?」


 リンゴを踏んで転んだように、この子は、よく転ぶらしいです。


 あれ? なんか、さっき、「ちゃらーーん」と音がしたような。


 周りを見渡すと、金色の小さな円盤が、三枚落ちていました。


「あ! それはあたしのです」


 一枚拾った。見てみると。うん、思った通りです。でも、さっきは、持っていないと言っていたから、もしかして。


「あ~、もしかして。あなたは、これがお金だってことは、知らなかったのですか?」

「これがお金!? 村長さんから旅に出る時に必要だからって、貰ったものなんだよ。そっか! これがお金なんだ」


 お金を見たことないって、どんだけ、世間知らずですか? この人は?


 そんなことよりも。


「そこに行けば、浴場だから、体を綺麗にしてらっしゃい!」

「はーい」「は~い」


 ルナが指をさした方向に、二人は走っていきました。


「聞きそびれちゃったけど、あの二人は?」


 そう言えば。


「名前は聞いていなかったです」

「ボロボロだったけど何かあったのかしら?」

「以前なら旅途中で遭難なんだけどね。以前なら」

「それって、ヴァルダンの襲撃のこと?」

「あの二人に聞きたいことあるから、浴場から出てきたらルナに教えてください」

「わかったわ」


 ルナの兄、アルヴスはコルネリア帝国の八騎将の一人、シグマ様の右腕。ルナと同じ魔術関連を研究する魔術研究員でもあります。そんな兄から数日前に、ライム村に向かった、兄様の部下から伝書鳥を使った報告書が届いきました。


 今現在、ヴァルダンの襲撃。現在、ヴァルダンがコルネリア帝国に侵入し村を襲っている。


 ライム村。隠れ里と言われるぐらい、深い森にある村。この村もヴァルダンの襲撃の被害にあったのです。討伐隊が到着した頃に、殆どの村人が殺されていました。


 だけど、おかしなことがあったんです。


 村には、多くの墓が立っていて、ご丁寧に「ヴァルダン兵」と書かれて墓もあったようなんでせ。罰当たりだが、掘り返してみると、確かにヴァルダン兵だったそうです。


 ルナの感が当たっていれば……、いいえ、あれは正規兵でも、苦戦を敷いていました。現に、勇能力を持っていても、苦戦したと報告はあったらしいんです。


 それに墓には「怪物になったヴァルダン兵」と書かれた墓があったようなんです。掘り返しみたら、魔物死骸だったと報告がありました。もし墓に書かれていたことが本当なら、ヴァルダン兵の誰かが、魔物化したことになる。というか、それを倒した人がいるってことですよね?


 これはルナの憶測ですが、ヴァルダン兵を倒したのは、あの二人の可能性が高いのです。

 

 ライム村から、このアヴァルの街まで、歩いて五日間は掛かります。今のところ、襲撃の当事者として、当てはまるのは、彼女達です。


 これはチャンスです。彼女たち自身、話してくれるかは、わからないですけど、うまく情報を聞き出せられるかもしれません。


 ここで、ルナが頑張らないと! 兄様が今以上に無理をさせないため。


 父様の死に関わった、奴らに繋がる手がかりを。

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