2-1 エドナサイド

 ライム村から旅立って、もう七日間ぐらいは歩いたかな? ここまで、大変な、道のりだったんだよ。途中、村や街に訪れていないから、ずっと野宿だったんだよ。外で一夜を過ごすなんて、あたしが狩りをしに、森に出かけたら迷子になった以来なんだよ。


 それはそれとして、こんなに歩いているのに、あたしとカチュアさんは、未だに、人がたくさん集まっている、村か街には、たどり着いていないんだよ。あたしの地図の見方が間違っていたのかな?


 村長さんが言うには、あたしの視力は、普通の人よりも、いい方らしんだよ。何でも、あたしの視力は、一般人が歩いて、半日ぐらい掛かる距離まで、見える、そうなんだよ。だから、あたしは、それを活かして、歩きながら、村か街を探しているんだよ。街は村よりも建物がいっぱいあるってことでいいんだよね? だけど、辺りを見渡しても、家らしい建物一軒すら、見つからないんだよ。


 ぐぅ~~~!


 はうう。お腹が空いたんだよ。道中、狩りをしながら、狩ったお肉を食べてはいるんだよ。だけど、それでも、すぐにお腹が空いちゃうんだよ。


 早く、何か食べたいんだよ。……はう?


 お腹を空かしながら、歩いていくと、遠くではあるんだけど、見たことがない、大きな建物が見えてきたんだよ。


「う~ん……。見たことがない建物が見えてきたんだよ!」

「え~と……、どれどれ……、う~ん……」


 あたしが指で刺した方角を、カチュアさんは、目を細くして、眺めているんだよ。


「ん〜……」


 結構、長い時間、眺めているんだよ。建物は見えたのは、あたしの気のせいだったのかな?


「この位置からじゃ、視界がぼやけて見え難くいわ~。だけど、物の判別はできるわ~。……わたしが見える限り、もしかして、街かな~? 何件か建物が建っているから。……多分、きっと、そーだわ~」

「え!? あの先に見えるのが、街なんですか!? やっと着いたって、ことですか? やったんだよ!!」


 あたしは、街に向かって走り出したんだよ。


「あ~! 待って~! そこは~……」


 気のせいかな? なんだか、どんどんと、走るのが、速くなっていくんだよ。それに、なんだか、足のブレーキが効かなくなって、止まらなくなったんだよ。


 あれ? そういえば、ここって……。


「……坂道だから、走ったら危ないわよ~」


 はう! そうだったんだよ! ここは、坂道だったんだよ!


 はわわ!! 走り出したら、止まりたくっても、止まらないんだよーーー!!!


「あ!」


 勢いよく走っているため、足のバランスを崩して、転んじゃったんだよ! ただ、転んだだけでは、すまなかったんだよ!


「はわわわわわわわわわわわわわわわわ!!!」


 あたしが転んだところは下り坂だったこともあって、転んだら、そのまま、転がっていったんだよ。


「エドナちゃ~~~ん」


 カチュアさんは、転がっていった、あたしを、走って追いかけたんだよ!


 だけど、転がっている、あたしには、追いつけなれなかったんだよ!


 転がり続けて、ようやく、坂の終了地まで、転がったんだよ! だけど、転がった、勢いがありすぎて、平地でも転がり続けたんだよ!


「はわわ!!! も~~~! とめてーーー!!!」




 ようやく止まったんだよ。でも、目が回るんだよ……。それに。


「はううぅぅぅぅ~~~!!! ぎ~もぢ、わるい~んだよ~~~」


 気分が悪くなったから、横になって休んでいる間に、カチュアさんが、ようやく、あたしに追いついたんだよ。


「やっと、追いついたわ~。エドナちゃん、だいじょぶ?」

「うん、なんとか~。でも、まだ、目が……」

「ほんとうに、だいじょぶ?」

「しばらく、休めば大丈夫だよ。……それよりも、ここは?」

「ん? ん~~~と~~~……。街の入り口だよ、エドナちゃん」

「え?」


 顔を見上げると大きな建物が見えたんだよ。あたしの村にあった家よりも大きんだよ。


「すごーーーいんだよ!! やっぱり、近くで見ると大きいんだよ!! やっと、たどり着いたんだよ!!」


 再び、下の方を見ると、街の入り口に、板が刺さっていたんだよ。


「あれ? なんだろ~? この板は?」

「看板ね~。何か書いてあるわ~。え~と~……」

「なんて書いて書いてあるんですか?」

「……」


 あれ? カチュアさんが、看板に書いてある文字を、読んでいるんだんだけど、そのままの体制で止まっちゃったんだよ。


「……『アヴァルへようこそ』って書いてあるわね~」

「アヴァルって、街の名前だよね? ……あれ? あたし達の目的地はそんな名前だっけ?」


 確か、あたしたちの目的地はアウルだったような……、地図を見て見ると、アウルは載っていたんだけど、アヴァルって言う街は、載っていなかったんだよ。


 あれれ? もしかして、あたし達は、地図を見ながら歩いていたにも関わらず、実際は迷っていたってことかな?


「もしかしたら、あたし達、地図載っていない、ところまで来ちゃった見たいなんだよ?」

「あら~? そーなの~? ……でも、これで、いいじゃないかな~? 結果的には、街に着いたんだし~」

「そうですね。……そうなんだよ! うん! 七日間も掛けて、ようやく、街に着いたんだから、多分、これでいいんだよね?」


 あ! そう言えば!


「ん~~~」

「エドナちゃん? どーしたの?」

「これから、どうしようか、考えていたんだよ。村に出る時は、とにかく人がいる街にたどり着くことだけ考えていたんだよ。でも、街には、着いたんだし、その後、どうしようかなぁと思ったんだよ」

「あら? それもそーよね~。……うーん〜、どーしましょ~?」

「どうしようかなぁ?」


 二人揃って悩んでいると。


「どうしようって! 何も考えていないんかい!?」


  いきなりカチュアさんが、怒ったような、大きな声を出したんだよ。


「カチュアさん!? どうしたんですか!? いきなり怒ったような喋り方をして! 驚いたんだよ!」


 カチュアさんって、こんな喋り方だっけ? もっと、優しくって、のんびりしたような喋り方だったような気がしたんだよ……。それに瞳の色が赤くなっているんだよ。カチュアさんの瞳の色は蒼色だったよね? なんで、瞳の色が変わっているの?


「え? 喋ったのは、わたしじゃないよ~。それよりも……」


 あ! 口調が戻ったんだよ! そして、瞳の色も、蒼い瞳に戻っているんだよ。あれは、カチュアさんの特技かな?


 あれ? カチュアさんは、両耳を両手で、抑えているんだよ。


「カチュア、耳を押さえていますけど、どうしたんですか?」

「うーん……、何だか、耳がキーンとするよ~。ナギちゃんが、いきなり、しゃべってきたのよ~」


 カチュアさんが、まばたきをした後、カチュアさんの瞳が、また、蒼色から赤色になっていたんだよ。


「あー、喋ったのは私だ」

「え? カチュアさんですよね? 目に色どうしたんですか」


 さっきの、カチュアさんの喋り方になったんだよ。


「え? 目の色が、変わっているの?」

「うん! 赤色になっているんだよ」

「それはよかったわね。一応、見分けが付けられたみたいね」


 あたしは、カチュアさんの、瞳の色が赤になったのが、心配になったんだよ。


「でも、大丈夫なんですか? どうしよう! 目薬がないんだよ!」

「いや! 充血しているんじゃないから! ……多分」


 なんだか、いつものカチュアとの会話じゃないんだよ。


「あんたは、エドナだったよね? ナギという名に聞き覚えないかしら?」


 ナギ? 聞き覚えあるんだよ。確か……。


「ナギさんって、確か……、カチュアさんの中にいる人でしたっけ?」

「まあ、そういうことになるね」

「そうなんですね。初めましてなんだよ」

「全く疑わないんだね。……まあ、いいわ。話はゆっくりしたところでしたいわ。宿屋とかが、いいかな」


 宿屋? 村長さんから聞いたことがあるんだよ。


「宿屋って、寝泊りする、ところですか?」

「まあ、確か……、そういうところね。記憶は曖昧だけど、多分合っている」


 合っていたみたいなんだよ。


「じゃあ、そこへ、行くんだよ!」


 あたしは走って、街の中に入っていく。


「ちょっと、どこにあるか、わかるの?」

「え?」


 一瞬、後ろを振り向いたのが、いけなかったのかな?


「はわわわわわわわわわわわ!!!」


 何かに躓いてもいないのに、転んでしまったんだよ。


「いたたた……、痛いんだよ!」

「だいじょじょじょじょじょじょじょじょじょ!!!」


 はうう? ナギさんがおかしくなっているんだよ。どうしたのかな?


「ナギさん?」

「あれ~、聞こえなくなっちゃった~」


 いつもの、カチュアさんの、のんびりした喋り方に戻っているんだよ。それに……。


「カチュアさん目の色が戻っています」


 カチュアさんの、瞳の色が蒼色に戻ったんだよ。


「おかしかったかしら~?」

「充血したかと思ったんだよ」

「ん~~~……。だいじょぶだよ。特に、目は痛くないから~」

「それなら良かったんだよ」

「それよりも、街の中へ入りましょ~」

「分かったんだよ!」




 あたし達は街の中に入っていったんだよ。しばらく、歩いているんだけど、宿屋らしき建物は、まだ、見つかっていないんだよ。


「気のせいかしら~」

「どうしたんですか、カチュアさん?」

「視線が気になるのよ~」


 そう言えば、さっきから、気になったことがあるんだよ。それは、通りすがった、街の人達が、あたし達のことを、熱い視線で、見てくるんだよ。特に下の方を見ている気がするんだよ。


 あたし達に視線を向けてくる人の中には……主に男の人の人かな? その人達が、変な顔をしているんだよ。それに、なんだか、息が荒くしているんだよ。あたし達が、見慣れないから、街の皆さんは、あたし達を見ているのかな?


「ところで~、エドナちゃん」

「どうしたんですか? カチュアさん」


 宿宿を探して歩いている途中で、カチュアさんが話しかけてきたんだよ。


「エドナちゃんは、これから、どーするの? わたしは一休みしたら、また、旅に出るつもりだわ~」

「あのー。カチュアさん。あたしと一緒では、迷惑ですか?」

「え? ううん、そーじゃないわ~」

「それなら、カチュアさんと一緒に、いさせてください。あたしは、帰れるところはないんだよ。それに、旅に出ることは、あたしのやりたいこと、なんだよ」

「わかったわ~。じゃあ~、今後もよろしくね~」

「うん。よろしくなんだよ」


 歩きながら話していたんだけど、カチュアさんは急に止まった。五分ぐらい経った頃に。


「あ! 思い出したわ~」


 急にカチュアさんが声を上げたんだよ。


「どうしたんですか?」

「エドナちゃんはお金持っているかしら〜?」

「お金って、確か、街で、物とか交換する時に、使うのですよね? それっぽい、ものは、もっていないんだよ」

「わたしも、持っていないのよ~。困ったわね~」

「どうしてですか?」

「これじゃ、宿に泊まれないわ~」


 そう言えば、村長さんから、聞いたことがあるんだよ。街では、欲しい物があったら、そのお金というのが、必要だって、何千回も聞かせれたんだよ。


 あれ? だとしたら、そのお金がないと……。


「そんなー! どうしたらいいんですか?」

「ん〜……。こうなったら〜。野宿しかないわ~」

「えー!! せっかく、街にいるのに!!」


 はうう。これが街の厳しさなんだね。


 これから、どうするかをカチュアさんと考えていると。


「兄様! やはり、ルナも付いて行きます!」

「ルナ、危険だから、ルナは留守番だ」


 男女二人の、大きな声が、耳に入ったんだよ。


 声がする方へ向いてみると、ピンク色の髪を、左右に結んでいる女の子と、その女の子よりも、身長がずっと高い、黒の入った赤髪の男の人が揉めているみたいなんだよ。


「ルナだって、子供じゃないですよ!」

「いや、子供じゃないと、言う子ほど、危なっかしいんだよな」

「なんでよ!?」

「そんなに怖い目をするなよ」

「目つきが、悪いのは、生まれつきです」

「とにかく、俺が帰ってくるまで、この街で、お前は留守番だ。いいな?」

「もう! 兄様、たら!」


 『兄様』と呼ばれた、男の人は、女の子を、置いてどっかに行ってしまったんだよ。


 あたしは、その光景を見ながら足を一歩、動かしたら。


 ゴローーーーーン!!!


「はわわわわわわわわ!!!」


 なんかを踏んじゃった、ようで、滑る様に。


 ドーーーーーン!!!


「エドナちゃん、だいじょぶ?」

「いたた……! なんとか……」


 また、派手に転んじゃったんだよ。


「大丈夫ですか?」


 この声はカチュアさんでは、ないみたいなんだよ。顔を上げると、さっき揉めていた、女の子だったんだよ。


「はうう~。大丈夫です。よく、転びますので……」

「『よく』って……、そのうち、お顔が、別人に変わるみたいに、変形しますよ」


 あたしが立ち上がると、太ったおじさんが訪ねてきたんだよ。


「すまねえな、嬢ちゃん! 俺の落としてしまった、リンゴのせいで」


 あたしはリンゴを踏んで転んだみたいなんだよ。


「あたしは、大丈夫なんだよ」

「本当にすまない! お詫びに、そこの木箱に入っている、店のリンゴをやろう」


 そこには、木箱の中に一杯の、リンゴが入っていたんだよ。これで、一日分の食糧を確保したんだよ。


「あの~。そんなに、あげても、持ち運べないのでは?」


 カチュアさんは木箱を片手で持ち上げたんだよ。


「どーしたの?」

「いえ、なんでも」

「悪かったな」


 謝罪したおじさんは、お店に戻ったんだよ。


 まだ、その場にいた女の子が、あたし達のことをじーと、見つめているんだよ。


「あれ? あなた達! おっぱ……、じゃなかった……!」


 『おっぱ』って、その先は、何て、言おうとしたんだろう?


 それにしても……。


「あの……、どうして、そんなに睨みつけるんですか?」


 女の子の猫ちゃんのような細めの目で、あたしを睨みつけていたんだよ。


「失礼しました。この目は生まれつきです。別に睨みつけている、わけではないでは、ないです」

「あ! そうなんだ!」

「そんなことよりも、あなた達、よく見たら……、かなり汚れていますよ!? どうしたんですか!? 」


 そういえば、あたしたちの服が、かなり汚れていたんだよ。街に着くまで、服の洗濯とかはしていなかったんだよ。


「もう、村から出て七日の間、お風呂すら、入ってなかったんだよ……」

「それは大変だったですね! 宿屋に行けば、桶風呂がありますよ。ルナが案内します」

「よかった。ちょうど、宿屋を探していたのよ〜」


 宿屋に案内してくれるのは良かったんだけど……。


「でも、あたし達、お金がないんだよ」


 あたし達、宿屋に泊まるための、お金がないんだよ!


「ルナが立て替えときます! 後で、仕事でもして、お金を返せばいいですから」

「ほんと!? ありが……」


 お礼を言おうとしたところ、女の子はあたしとカチュアさんの腕を掴んだんだよ。


「さあ、行きますよ! こっちです」


 女の子は、あたしとカチュアさんの腕を掴みながら、歩き出したんだよ。


「はわわわわわわわわわ!! 自分で歩けるんだよーーー!!」


 途中で、あたしは転んでしまったんだよ! それでも、お構いなく、女の子はあたし達の腕を引っ張って行くんだよ! お尻が引きずられるんだよ!


 カチュアさんは、あたしと違って引っ張られても、転ばないで、普通に歩きながら、引っ張られているんだよ。はうう……、転ばないなんて、カチュアさんが羨ましいんだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る