3-7 ナギサイド

 カチュア達は、ユミルという鳥人族を見つけ出し、アレル村へと戻ってきた。まあ、余計な仕事してきちゃったんだけど。何ていうか、殺意が芽生える出来ことだった。そう大きく熟した二つの実に。


「ユミル様! 心配しました。勝手にどこかへ行かないでください」

「ごめんなさい。皆様に、ご迷惑を掛けてしまいましたわ」

「すいません。姫様を探してくださいまして」

「後半は……エドナさん探しになっていましたけど……」


 ルナは大きなため息をついた。

 

 まあ、確かに、どちらかと言うと、森に入っていてしたったユミルを探すよりも、探しにいったのに、逆に迷子になったエドナを探す方が大変だった気がしてきた。


「ところで、なんで、一人だけ、ボロボロの姿に?なっているんですか?」


 ソフィアとかいう人は、不思議そうにエドナの服を見つめる。まあ、エドナだけしか転んでいないから、一人だけ汚れた姿になっちゃうんだよな。


「それよりも、ユミル様! ここにも危険です! 速く移動しましょう!」

「わかりました」


 ソフィアとユミル話をしていると、突然、カチュアは鞘に納めていた大剣を抜いた。


「気を付けて〜、何が来る〜」


 大剣を構えたカチュアの目の前には狼? が現れた。あれ? 狼でいいんだよね。顔の形はまさに狼そのまま。だけど、普通の狼と違うところは二本足で立っているところだ。顔は狼なんだけど、体は……あれは、まさにゴリラね。凄い筋肉だ。


「あれは……狼さん?」

「あれは、恐らく、マナーガルムという、狼型の人狼魔物です……」

「狼さんって〜、二本足で立てるのね〜」

「呑気に何言っているんですか! てか、そういった、魔物だから。これは!」


 そういうものか? 


「とにかく、奴らは、人間とは比べものにならないぐらいの、筋力の持ち主です。気を付けて」


 カチュア目掛けて殴り掛かろうとした一匹のマナーガルム。


 しかし。いや、予想はしていた。


「そ〜れ〜」


 殴りかかってきた拳を迎え撃つかのように、カチュアは大剣を振った。


 ザックリ!!!


 マナーガルムの拳が斬れていき、さらに、体も真っ二つに切断した。


「何が〜?」


 ルナの方へ笑顔で振り向いた。


「いえ、何でもないです」

「あの人やりますね。マナーガルムを真っ二つに斬りつけましたよ」


 なんか、感心されているよ。ソフィアに。


「まだ来るよ〜」


 まだ、いるようだね。マナーガルムの一体はカチュア目掛けて、拳を構えながら、向かってくる。というか、こいつら、仲間が倒されているところ見ているんだよな? なのに、先のマナーガルムの攻撃方法は変わらない。魔物は学習能力がないのか? 


「またマナーガルムが襲い掛かります! 気をつけてください!」

「任せて〜」


 カチュアは剣を構える。さっきの倒したマナーガルムのように向かい打つようだ。


 段々、近づいてくる。


「いやああああああ!!!」


 突然、エドナの叫び声が聞こえてきた。


ドーーーン!!!


『えー――――――!!!』


 なんて言うか、何をやっているんだ!? この子は!!


 そう、エドナは多分、転んだのか、その拍子でカチュアの背中目掛けて突っ込んできたよ。


「ちょっと! エドナさん! こんな時に」


 本当にその通りだよ。


「はうう……、矢を取ろうとしたら、途中で手を滑らせてちゃったんだよ。それを取ろうとしたら……、足がつまずいたんだよ……はうう」


 それで転んで、カチュアに突進したのか。こんな時に何をやっているんだ!?


「だいじょぶ?」

「はうう……、ごめんなさい」

「いいのよ〜」

『あの~、カチュアさん。お取込み中、悪いのですが、前を見て危ないですよ』

「ん?」


 顔を上げると、マナーガルムはもう目の前まで接近してきた。すぐにカチュアは剣を構える形をとった。


「よーし、行くわよ〜」

『カチュア! 剣は!?』

「剣? 剣なら~、私が持っているわよ~、ほら~」


 カチュアは、剣を持っていた腕を掲げた。しかし、誰がどう見ても、カチュアの手元には剣がなかった。


「あれれれ? 剣がないわ~」


 重さで気づくでしょう! もう、鈍感のレベルじゃないわよ、それ!


 そう、カチュアの手元にはあの大きな剣がなかった。きっと、エドナとぶつかった時に剣を手ばさしてしまい、それがどっかへ飛ばされてしまったんだ。


 いや、それよりも……。


『カチュア! 前! 前を見ろ!!』

「カチュアさん! 危ないです!」


 剣がない。絶体絶命の大ピンチに。あれ? なんで、剣がないのに絶体絶命って思ったんだろうか? 確かカチュアって。


「はああああ」


 カチュアはマナーガルムの腹部を思い切り殴りつけた。


 そうだった。カチュアは人間離れのバカ力の持ち主だった。もう一度言おう、バカ力。カチュアは剣がなくっても拳でもやり合えるんだった。


 殴られたマナーガルムは立ったまま後方へ飛ばされた。カチュアが殴ったところは穴が開いている。殴っただけだが、体に穴を開けられている。それなのに、まだ生きている。結構、しぶといんだな。そう思っていると。


 グッサリ!!


『え――――――――――!!!』 


 もう、驚くしかない!!!


 空から落ちてきた剣が、マナーガルムの脳天に突き刺さった。さすがに脳天を突き刺さってしまったマナーガルムは倒れていった。


 しかし、この剣って、もしかして、カチュアの剣!? エドナが転んでぶつかったせいで、どっかに行っちゃった剣が、カチュアに殴り飛ばされたマナーガルムの脳天に突き刺さったの?


なんて言う偶然、それとも、カチュアはそれを狙って、殴り飛ばしたのか。……それはないか。


 あれ?


 ふっと、カチュアの手を見ると、物凄く違和感があった。なんだろう。カチュアは怪我をしたところは見たことがないから、手が綺麗なことは不思議ではない。だけど、カチュアの手が綺麗なことに、今は違和感があった。


「ルナちゃん、気を付けて~、来るよ~」


 考えことをしていた途中、マナーガルムの一体がルナ目掛けて襲い掛かってきた。


『ルナが危ない!』


 ルナが持っている杖の先には、火の玉が現れた。火の魔術ね。それをぶつけるのね。だけど、間に合うのか? 


 そう考えていたが。


 シュ――――ン。


 急に強い風が襲い掛かった。


 風が止むんで、マナーガルムを見ると、胸元に風穴が開いてあった。マナーガルムは後ろにへ倒れて行った。


『何が起きたのか、わかったの?』

「エドナちゃんの風の矢よ~」


 ああ、さっきの風は、エドナが放った風の矢が、通った時の勢いで、できた風だったようね。


 確か、その風の矢は魔術で構成するんだっけ?


 それにしても、相変わらずの貫通力。この子って、以前まで、村娘だったんだよね? なんて言うものを会得しているんだよ。


「エドナさんって、転ぶ以外にも攻撃手段あったんですね」

「えー!? ルナちゃん、酷いんだよ」

「まあ、せっかくだし。行きます!」


 ルナは作り出した火の玉をマナーガルムの一体に放った。命中した火の玉はマナーガルムの体を燃え上がっている。


「ルナちゃん~、凄―い~」

「感心している場合じゃないですよ、カチュアさん! 後ろ! 来ています」


 カチュアの後ろには私がよく知っている、四足歩行の狼が襲い掛かってきた。でも、普通の狼よりかは大きい、魔物かな? いや、絶対に魔物の分類だ。何だって、奴らの毛の色が紫だ。なんか、紫って、毒があるイメージがあるのは気のせいかな?


 カチュアはまだ、エドナのせいで手放してしまった大剣を回収していない。


 紫色の狼型魔物はカチュアに襲い掛かるが……。


 紫色の狼型魔物の首が切断されている。カチュアの手元には、刃物らしきものはなかった。ただ、カチュアがしたことは紫色の狼型魔物に向かって、蹴りをいれただけだった。


「カチュアさん、まるで足が刃物になったみたい。どうやったんですか?」

「エドナさん、あれは……」


 ルナが説明しようとしたが。


「いややややややややややや!!!」


 なんか、すごい叫び声が聞こえる。この声って、確か……ユミルの声よね。


 声を方向には……やっぱり、あの叫び声の主はユミルだった。


 てか、何だ!? あの悍ましい光景は!?


 ユミルは叫びながら、刀っぽい物で、マナーガルムに斬りつけていた。てか、武器持っていたの? そういえば、この子の腰には鞘らしきものが、あったような……。なんか、適当に、斬っているみたいに見えるけど、目にも見えないほどの速さで、刀を振っている。そして、マナーガルムの原型がなくなっていき、魚の切り身のように、肉がバラバラになっている。


「もう、こないでーーーーー!!!」


 いや、もう死んでいる、レベルじゃ、ないでしょ。切り身でも売るつもり? おいしくなさそうだけど……。


 いや! それ以前に、もう狼の原型残っていないから!


「始まりましたか。ユミル様の絶叫狂乱モードが」


 なんですか、その中二病的、ネーミングセンスは?


「ユミル様ー。もう、敵はミンチ状態ですよ」

「は?」


 ソフィアの一言でユミルは我に返ったようだ。


「わたくしったら、何てお恥ずかしいことを」


 凄く恥ずかしそうにしているよ。まあ、恥ずかしいでしょうね。というか、ユミルに恐怖を感じている。


「まだ、何かくるわ〜」


 今度は……もう驚くのも疲れたわ。全身燃えている狼が。


「あれはデッドガルム?」

「何で燃えているの? 狼って、普段から燃えているの?」

「魔物ですから」

「そっか〜。魔物だからなををだね!」


 いいのかよ。エドナさん。もう、魔物って言えば納得しちゃうのね。


「凄い〜、自分から食べられる気満々だね〜」

『食べられるために、燃えているからじゃないから』

「カチュアさん、魔物の肉は猛毒だから食べられませんよ」


 それは初耳だ。


「そっか〜。残念だわ〜。さすがに毒は食べる気にはならないわ〜」


 てか、毒がなかったら、あれを食べる気だったのか?


「気をつけてください、燃えていますので、直接攻撃は危険です」


 カチュアはまだ、剣を回収していない。いくらカチュアでも、生身で燃えている敵に相手にするのは危険だ。一応、他にも武器はあるが。


「なら、火を消しましょう。ユミル様だけに、やらせるつもりはありません。私もそろそろ参戦しましょう」


 ここでソフィアって人も参加か。


「ユミル様、如何ですか?」

「わたくしは大丈夫です」

「そうですか。敵が多いので纏めて倒します」

「わかりました」


 ユミルは刀を構えて静かになった。こんな時なのに、目をつぶっている。瞑想でもしているのかな?


 その間にデッドウルフが襲い掛かってくる。


『大丈夫なのか、あれ?』


 カチュアに尋ねると。


「だいじょぶよ~」


 ほんとかな。


 目を瞑っていたユミルが目を開けると。


「行きます! 津波よ!」


 ユミルは刀を一振りすると、どこから現れたのか、デットウルフ目掛けて津波が襲い掛かる。


 これって、魔術? 水系かな? さっきの瞑想は詠唱を唱えていたのか。


「では、参ります」


 ソフィアはどこから取り出したのか、右手にナイフを持っていた。そのナイフから「バチバチ」と音を立てていた。もしかして、これは電気? この電気も魔術かな?


「雷撃よ」


 ソフィアは津波目掛けて、電気を付着させたナイフを投げつけた。ナイフが波に入ると波からは電気が流れて「バチバチ」と大きな音を立てている。


「凄いです」


 津波からデットウルフの死骸が出てきた。燃えていた体は火が消えていた。


 水と雷の組み合わせ……凶悪だ。


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