1-6 ナギサイド

 やっと、エドナに追いついたわね。カチュアが。


 エドナはというと、何か拾っているみたいだけど。その何かとは、私からでは見えない。


「あ! カチュアさん、遅いんだよ!」


 いや! あんたが走るのが速いんだよ! 恐らく、人類最速の速さだよ、あんたの足は! ……知らんけど。てか、覚えていないし。


「ごめんね~」


 先に行くエドナを追いかけてきたカチュアだが、カチュアはカチュアで、のんびり屋と裏腹に、エドナ程ではないが、走るのが速い方だ。だけど、それ以上にエドナの走るスピードはカチュアが走っても、距離が全然縮まれなかった。寧ろ、どんどん、二人の距離が離れていった。


 てか、なんで、あんなに胸が大きいのに、速く走れるのかしら? この二人、重力でも操れるのか? 


 おまけに、このデカチチコンビ。コンビという程、付き合いはないか。話は戻して、そんな二人は重い物をぶら下げて、何百メートル以上は、速く、走っていたのに、まったく、息切れしていないんだよ! そう、のに!


 ああ!! あの二人をイライラしてきた!!! ……は冗談として。


 どうやら、二人はスタミナも異常にある見たいだ。熟練の戦士かですか?


「カチュアさんが、来る前に、落とした矢を回収しいたんだよ。さっきのデブボアを狩る時に、全部落としちゃったんだよ」


 矢を落としたのか!? 通りで、弓を持っていたのに、矢を入れて置く、筒の中が空っぽだったわけだ。この子、かなりのドジっ子?


「じゃあ~、始めましょう~」

「はーい、なんだよ!」


 元気よく返事するエドナ。


 さって、エドナに追いついた、ところで狩りを始めましょうか。私はしないけど。あくまで、見ているだけだ。まあ、二人の狩りをする姿を見るのも悪くないか。


 ただ、私は森に入る前に気づくべきだった。まぁ、エドナが先に行っちゃったから、カチュアはエドナに追いつくに、精一杯だったなのか? だから、話す暇がなかったから。さっき、猪に襲われた時、カチュアが剣で斬りつける際に、「バキーン」と音がした記憶があるんだ。あの時、すぐに背中にある鞘に、剣を納めちゃったけど。その「バキーン」と音は壊れる音だと思うが、……まさかね。


『カチュア、ちょっと、いいかな?』

「どーしたの~?」

『カチュアの武器は?』

「剣よ~」

『使う武器じゃなくって。その……剣はどこにあるの?』

「背中の、鞘に納めわ〜。ほら〜」


 カチュアは鞘に、収めていた剣を、抜いた。しかし。いや、思っていた通りだ。


『カチュアさん。それはなんですか?」

「何って、剣だわ〜」

『記憶がない私でも、わかるんだけど。剣って、いうのは、刃が付いているものだと思ったのですが?』

「え? それが、どーしたの?」


 いや、察して! ここまで、話てまだ気づかないのか? 鈍感というレベルではないよ! これ。


『カチュアさんは、持っている剣に刃があるんですか?』

「ん〜?」


カチュアは鞘から取り出した剣を眺め始めた。……いつまで眺めているんだ? この子は?


「あれ~? あらあら~。刃がないわ〜。いつの間にか壊れてのね〜」

『ええええええ!!!』


 そう、カチュアの剣には、刃の部分がなかった。というより、折れたのか? 多分、あの猪を斬りつける時に折れたんだろう。「バキーン」っと、音もしていたし。


 というか、さすがに気づいてよ。


「わたしは、よく、剣を壊しちゃうのよ~?」


 どんな、使い方してたら、「よく」が付くほど壊れてるのかしら。あと、ハテナの使い方間違っている。こっちが聞きたいわ。


「あのー、どうしたんですか?」

「さっき、猪を斬りつけた時に、武器が壊れちゃったみたいなの~」

「そうなんですか? ……困ったんだよ」


 『困ったんだよ』って、それだけ? 反応薄! 重要でしょ? なんで、二人揃って、そんなに、呑気にいられるの?


「どうしましょ?」

『いや、武器がないと狩りできないよ』

「弓はあるんだよ。……だけど、あたしの分しか、ないんだよ」

「だいじょぶよ〜。わたし、弓は使えないのよ〜。それ以外なら、弓見たいのじゃなければ、扱えるわ〜」


 何が大丈夫なんですか?


「そうなんですか? 大丈夫なら仕方がないんだよ」


 だから、『大丈夫』の使い方が間違ってるから。解決能力、全く無いよ! この子ら!


 呑気過ぎる。呆れるほど、呑気過ぎるよ。まあ、慌てても無意味だけど。


『いったん、村かどっかで、武器を調達したほうが……』

「それじゃ~、日が暮れちゃうよ〜。現地ちょーたつが一番よ〜」

『その辺に、剣なんて、落ちているわけないでしょ。戦場の跡地でもないし』

「エドナちゃん。この辺に、武器になりそうな物があるかしら〜?」

「え〜と……、この辺には、木の枝しかないんだよ」


 あなた達、狩りしに、来ているのよね? 木の枝って、子供の勇者ごっこじゃないから! 大丈夫なの? この子ら?


 ツルーーーン!!!


「あ!」


 突然、エドナは地面に何も無いのにも関わらず、足を躓いていまい、前方へ倒れていた。


 てか? エドナが転んだ先は……。

 

 ドカーーーン!!!


 エドナの、顔が目の前に、あった樹木に激突した。ぶつかった樹木は、エドナが転んだ方向に倒れていった。いや、生やしている樹木を折るって、まじかよ!? てか、顔面からぶつかったけど大丈夫なの!? 女の顔が命だよ。顔のパーツは、崩れていないかしら!?


「痛いんだよ!!!」


 エドナは顔を押さえて叫んでる。痛いだろ。思いきっり、顔面からぶつかったから。


「だいじょぶ?」

「大丈夫なんだよ。あたし、よく、転ぶんだよ!」


 この子も『よく』が付く程、やらかしているみたいだ。カチュアの場合は、剣をよく壊すみたいだしね。現に、今持っている剣も、折れているし。


「ぐゆゆゆゆ」


なんか、どこからか、獣らしき唸り声が。


 カチュア達の目の前に、熊らしき生き物が。熊でいいよね? これ。


 熊だったら、マジでやばい! いや、私の知っている熊よりかは、やばいよ、これ。だって! 図体が私の知っている熊の倍以上の大きさがあるんだよ!


「あらあら~、。それらしい気配を感じていたんだけど、やっぱり、いたのね~。すごく、凶暴な熊さんが~」

『なんか、気づいていましたよって、言い方ね』

「カチュアさん。あれはギガントベアという、熊型の危険種ですね」


 あ〜。めっちゃ、やばそうな名前なんですね。名前のセンスはさておき。このギガントベアとかいう熊、名前通り、体はでかいし、以下にも凶暴なんですけど。冬眠から目を覚ました熊並みに!


「でも、狩りに来てたから、丁度いいかもしれないわ~」

『限度があるでしょ!』


 こんな凶暴そうなギガンドベアと呼ばれる熊を目の前にしても、何で、そんなに落ち着いているんだよ!


「凄いですね、カチュアさん。危ないのが来ちゃったのに冷静で」


 呑気なだけだと思うんだけど。


『そんなことを、言ってないで、逃げなさいよ! 逃げる時は、絶対に背中は見せちゃダメだよ!』


 いや、言っといてなんだけど、この対処方法、効果あるのか?


「ん〜。でも、せっかくの大物なのに〜。勿体無いわ〜

『命の方が大事だろ! てか、あんたの武器は壊れているだろ!』

「素手で捕らえるつもりだわ~」

『うん、普通に無理だから! いいから逃げるよ!』

「うーん……。じゃあ~」


 カチュアは何かを探しているのか? 下の方を見ながら、首をキョロキョロと左右に動かしている。いや、ギガンドベアが、着々と、こちらに向かって、来ているんですけど。


「あ〜! 丁度いい、ものが、あったわ〜」


 地面に何かを拾ったようだけど。それは、カチュアの手の平より、ちょっと、大きめの石だった。


『それをどうするの?』

「こう、するのよ~」


 カチュアは投げる構えをした。あー。あの石を投げて、ぶつけるつもりか。だけど、それで、あのデカい熊を仕留めることは、できないのでは?


 そして。


「そーーれ~~」


 カチュアは、石を、ギガンドベア目掛けて、投げつけた。


 シューーーーーーーーーーン!!!


 これは、夢でも見ているかしら?


 投げた瞬間、もの凄い、台風が直撃したのでは、と思う程の、強力な突風が襲いかかる。投げた石が見えない程、物凄い、速さで飛んでいった。


『てか、どんな力を振り絞って、投げれば、突風を起こせるんだよ!』


 突風が収まり、ギガントベアの方を見ると。


『すごい……。胸元に風穴が……』


 ギガントベアの胸元には、カチュアが投げた石くらいの、風穴が、空いていた。そのまま、ギガントベアは後ろに倒れていった。


 さらに、石が飛んでいった方向にあった樹木には、カチュアが仕留めた、熊のように風穴が開いたり、倒れた樹木があった。


 カチュアの投げた石はどこまで飛んだんだ?


「やったわ~、今日はご馳走よ~」

「すごいすごーい。……でも」


 あれ? なんか、問題が発生したのか? カチュアの捉え方が適切ではなかったから?


「肉がかなり削れているんだよ。食べる部分が減ったんだよ」


 いや、そこかよ! 確かに、食べる部分があるに越したことはないが。


「このギガントベアはどうしましょうか? かなり大きいから、持ち運べないよ。ここで解体して、持っていくしか……」

「じゃあ~、わたしが、これを持っていくね~」

 

 正直、もう驚くことなんてない。カチュアは自分よりも倍の大きさもある、ギガントベアを軽々しく担いたよ。


 カチュアって、もしかして、かなりの怪力の持の主? あの細腕から考えにくい。


「すごーい! カチュアさんって、力持ちなんですね!」

『あはは……。もしかして、素手でもいけてた?』

「もう~、さっきから、言ってるでしょ~」

 

 そうは言っても普通は信じないから。その細腕から、あんな、怪力を持っているなんて、誰だって疑いたくなるから。


 というか、カチュアは、剣で戦うよりも、素手の方がいいような。それに、カチュアが剣を、よく壊すと言っていたけど、その原因も、なんとなく分かっちゃたし。


 さっきの猪を斬りつける時も、力を振り絞って、斬りつけたから、剣が壊れたって、ことか。


「どーする? このまま帰るのかしら~?」

「ううん! まだ続けるんだよ! 次はあたしが捕らえるんだよ」

「わ~、楽しみだわ~」


 まだ継続するんだ。狩りを。このギガントベアだけで、充分だと思うけど。


 正直、私は見ているだけなんだけど、この二人を見ていると、二人よりも先に寿命が尽きそう。そもそも、私って、生きているのかしら?



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