オープニング

蒼炎伝説の始まり

 ユグドラ歴千百二十九年。八ノ月。

 蒼黒戦争そうこくせんそう 終戦日。




 これは戦争……。そして、私ことシェリアと、あの男との、最後の戦いだ。


 覚悟はもう決めている。私に、もう、迷いはない。この戦いで、あいつと、けりを付ける。


 前方を見渡すと、やはり敵は大軍。しかも、敵は人ではない。いや、人はいるにはいる。ただ、人と、言うべき者は、あの軍勢の中で、たったの一人だけだ。


 それは、血の繋がりはないけど、私の兄メリオダス。そして、これから私が……、いいえ、私達が、倒さなければならない敵。


 かつて、優しかった兄。そんな兄だったけど、その面影はなくなってしまった。変わり果てた、現在の兄は、人々から、こう呼ばれている。ネクロマンサーまたは、古から、伝われている、人々に恐怖を与える存在、厄災と。


 戦場を見渡す私の元に、伝令兵から駆け付けてきた。


「伝令! 伝令!」

「状況は?」

「は! 敵軍は、骸骨兵がいこつへいだけでも、軽く万単位を超えます。後は竜兵りゅうへいがいます。目視できる範囲内では、ありますが、約十体となります。……いかがなさりますか? シェリア殿」


 そんなの決まっている!


 私の蒼い髪と瞳から、蒼い炎が出現した。


 集結している、兵達の方へ、振り向く。私は、この軍の将を任せられている身。大きく深呼吸をした後、一軍の将として、激励げきれいの言葉をかける。


「皆のものー! 聞けー! 我が名はシェリア! この軍の将軍である! いいか! これが私達の最後の戦いになる! ここで破られたら、私達の大切な人達が、無惨に虐殺されてしまうだろう! だから、私達は、この戦いは絶対に負けられない! もし、お前らに守りたい者がいるなら、戦え! そして、生きて帰っていくんだ! その人達のために! 今から、戦う相手は私の兄だが、戦争を起こした張本人だ! たとえ自分の兄でも、私は兄を討ち取る! 皆の者! 覚悟はできているかぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 兵達は自分の武器を持った手を挙げて、「おーー!!」と声をあげる。


 私は、自分の背丈以上の大きさもある、二本の大剣を、片手ずつ、構える。普通なら大剣と言われる剣は、重すぎるため、両手ではないと、持てないらしい。


「皆の覚悟、聞き入れた! なら、迷うことはない! 進軍せよ!!!」


 将軍という立場だが、陣地で指揮するだけでは私の性に合わない。私自ら前線に立ち、敵陣へと向かっていく。私に続いて、兵達も前進する。


私達の、進軍で最初に骸骨兵がいこつへい、別名スケルトンと言われる魔物達が、立ち塞がってきた。


 ほんと、悪趣味ね。スケルトンと呼ばれる魔物は、元々は人間で、その亡骸なきがらを再利用しているのだから。亡骸が動く原理は分からないが、それを可能にしてしまったのが


 私は、目の前に立つスケルトンを、次々と二本の大剣で、前進しながら、斬り付けていく。今の私には『止まる』という言葉はない。


 しかし、敵も黙っていないようね。空から、剣のような形をした黒い物体が、雨のように降り注ぐ。


 『ぐわわわわわ!!!』と兵達の悲鳴が聞こえる。だけど、私は振り向かない。ただ進むだけ。戦いに犠牲者は付きもの。それは割り切っている。けど……。いや、これ以上の犠牲者を出さないためにも、兄を倒す。


 ん!! 何かが、こっちに向かってくる!!?


「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 目の前に竜兵りゅうへい。別名、ドラゴンと呼ばれている魔物が空を飛びながら、現れた。パッと見た感じ、ドラゴンの大きさは十メートル以上あるようだ。デカいが、そんな相手でも……。


 シュパーーーン!!!


「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」


 真正面に突っ込みながら、私の剣技で、ドラゴンの体を真二つに斬りつけた。


 ドラゴンは倒したが気がつくと、周りには、スケルトンに囲まれている。そして、さらに、増援のドラゴンも私の方へ向かってくる。


 これはピンチ。……いや、私にとってはチャンスだ。


 はたから見れば、私の行動は、かなりの無謀だ。私は敵軍に向かって突っ込んでいるから。だけど、私は、ただ突っ込んでいるわけではない。敵将に近づく、そして、犠牲者を減らすなら、敵を多く減らす。


「見てなさい! この蒼い炎は、こんな使い方もできるのよ!!」

 

 勢いよくジャンプした。空高くまで。そして、蒼い炎は右手に持っている大剣を包み込む。それを上空から急降下していき、最終的には、地面に突き刺す。


 ぼぉぉぉぉぉぉ!!!


 そして、剣を突き刺した地面から、忽ち、私を中心に蒼い炎が燃え上がる。その周囲にいたスケルトンとドラゴンは砂のように崩れていく。だけど燃え上がる蒼い炎は味方も巻き込んでしまうが、不思議なことに、この蒼い炎は普通の人に触れても無害だ。


「はあー、はーあ、はーあ……」


 大分、無茶をしたかな? ……息がしにくくなっている。しかし、ここで立ち留まるわけにはいかない。再度、走り出す、邪魔するものを斬りつけながら。とにかく、前進あるのみ!




 進軍し続けて、ようやく、兄の元へたどり着いた。


 ただ突っ立ている兄だが、禍々しい気を感じる。まるで、人間ではないようだ。


「……兄さん」

「久しぶりだな。まさか、ここまで来るとは」

「兄さん。一つだけ聞かせて。なぜ、こんな戦いを? あんなに、優しかった兄さんが、なぜ?」

「……そんなことか。それは、お前には関係はないことだ」


 やはり、答えてくれないのね。


「強いていうなら、この世界を俺が支配することだ。そう、俺の思いのままの世界に」

「その言葉、聞き飽きているわ」


 『世界の支配』それは、人が変わって、しまってからの、兄の口癖だ。


「まるで創造主ね。……神にでも、なるつもり?」

「神か……、案外そうかもしれないなー。俺は神にも等しい力を手にした。……と言いたいところだが、悉く、お前に邪魔をされて、今はまだ、その力を完全には、手にしていない。だがな、手にしようと思えば、いつでも、手に入れられる。お前を倒してからでも、遅くはない」


 兄の体から、禍々しい黒い煙みたいのが、現れた。その黒い煙は、兄の体を纏っていった。


「血の繋がりはなくとも、お前は俺の妹だ。だが、俺の邪魔をするなら、たとえ妹でも、容赦ようしゃしない」


 やはり、だめだったか……。いや、わかっていた。今更、何を迷っていた? あいつは、私の兄だが、それと同時に倒さないといけない敵だ。そう割り切ったはずだ。


 私は深呼吸をして。


「仕方がない……なら」


 さらに、私の全身から、蒼い炎が、激しく燃え上がってきた。


「私が兄さんを殺す!」


 右手に持っていた大剣の先を、兄のいる方へ向けた。


「殺せるならな。お前の蒼き炎のせいで、俺の勇能力ゆうのうりょくはなくなった。しかし、俺にはまだ、ネクロマンサーとしての魔術の力がある。もはや、英雄の力と言われる勇能力ゆうのうりょくなんて、比べ物に、ならないほどの、力をなー!」


 兄は、腰に掛けてあった、鞘から、禍々しい黒い煙を纏った剣を抜いた。私に向かって、その剣で突き刺そうとするが、私は、それを素早く、かわす。私は素早く斬り下ろす。しかし、兄は、自分の剣で、私の剣技を受け止める。

 

 それからは、素早い剣と剣との、激しくぶつけ合いが始まる。


 とにかく、魔術まじゅつの達人である兄に魔術まじゅつを使わせる余裕を作らせたりしない。


 剣だけなら、私は誰にも負けない!!


「ぐう! 強い! 相変わらず、剣技だけなら、シェリアの方が上手か。……だが」


 兄の左手から黒い球を放つ。


 私の左手に持っていた剣で、防いだが、黒い球に当たった衝撃で、剣は弾き飛ばされてしまい、そのまま、空高くまで飛ばされてしまった。


 兄は勇能力ゆうのうりょくを持っていた頃よりも、魔術まじゅつの発動は遅くなっているが、それでも発動は早い方だ。


 しかし、武器を一本飛ばされたからといって、私はそれに動じない。怯まず、兄に剣を向ける。


 再度、剣と剣との、ぶつけ合いだ。そして。


 これで、けりを付ける!


 少し後ろに下がった後、兄の懐に入り剣先を向ける。しかし、兄は私に向かって剣を斬り下げようとする。


 一歩、私の方が遅かった! 確実に斬られる!


「これで、終わりだー!!! シェリア!!!」


 この時、兄は自分の勝利を確信したと思っただろう。


 そして、決着が着いた。


「バカな……、俺の野望は……、ここまでなのか……?」


 私の蒼い炎で纏った剣が、兄の胸を貫いた。


 私は斬られるところだった。だけど、斬られなかった。それは、剣を持っていた兄の右腕が切断されていたから。


 勝ったことを確信していた兄は驚いたでしょうね。いつの間にか、自分の腕がなくなっていたから。


 兄の右腕を切断したのは。今、落ちている切断された兄の腕の隣にある、地面に突き刺さった大剣だ。


 あの剣は私の持っていた剣の内一本。そう、先ほど、兄によって弾き飛ばされてしまった剣だ。


 そう、あの時、私は、わざと、剣を手放したものだ。私は兄に、空高く、弾き飛ばされていた剣に、視点を向かわせないため、とにかく兄に対して剣を向けていた。自分の手によって飛ばされた剣が、自分目掛けて落下してくることに気が付かず、その落下した剣で兄の右腕を切断したのだ。


 兄の腹に刺さった剣を抜き、兄は後方へ倒れていく。


「……兄さん、ごめんなさい、こんな方法しかなくって」


 倒れた兄が地面に着くと、同時に、兄が率いていたスケルトンの体は崩れていった。ドラゴンも動かなくなり。次々と倒れていった。


 終わったのね。私は軍の前に立つ。そして。


「敵将は討ち取った! 戦争は終わった!!」


 剣を持ちながら、右手を上げ、勝利の宣言をすると、兵達は歓声かんせいをあげた。


「おおお! シェリア様!」

「将軍様!」

「蒼炎のシェリア様!」

「シェリア様! ばんざい!!」




 結局、なぜ兄は人が変わったのか? なんで、こんな戦いを起こしたのか? 最後まで分からないままだった。


 ただ、一時かもしれないが、平和が訪れた。今はそれを喜ぶべきだと。


 でも、できれば、厄災という存在が今後、出てこないことを祈りたいわ。

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