第19話
私たちは、病院をあとにして、憲兵の駐屯所に戻った。
結局、被害者の人に話を聞いても、新たな情報は得られなかった。
加害者がレンガで殴るために近づいてきた気配に、被害者は気付かなかったということを、私たちは再認識しただけだった。
被害者はすぐに気を失ったので、当然犯人の姿は見ていない。
でも、犯人の人物像を想像することはできる。
「傘越しにレンガで殴って気絶させたということは、犯人はかなり体格が大きいはずです。レナードさん、そのような人物は目撃されていないのですか?」
「ええ、そうですね。今のところ、目撃証言はありません。あの日は雨が降っていたので、そもそも外出している人も少なかったですし、傘を差しているので視界も悪いですから、目撃証言は当てにできませんね」
「うーん、困りましたね。完全に行き詰ってきました……。ねえ、マッチョくん、何か意見はないの? 何か、気付いたこととかはない?」
「特にありませんね。しかし、一つ不思議に思うところはあります」
「え、何? 聞かせて」
「お嬢様もおっしゃっていましたが、犯人はどうして、レンガを凶器に選んだのでしょうか? こういう場合は普通、ナイフとかを使うのが一般的だと思います」
「うん、そうなのよね……。犯人はどうしてレンガなんて使ったのかしら?」
「殺すことが目的ではなかったからではないでしょうか? 単に痛めつけるのが目的だったのでは?」
レナードさんが言った。
しかし、私はどうも釈然としなかった。
「うーん、それだったら、何か棒状のもので殴るとかの方が自然じゃないですか?」
「まあ、確かにそうですね」
「レンガを凶器に使ったのには、何か理由があるのかしら……」
*
(※ミランダ視点)
どうしてシェリルは、なんともなかったの?
死んでいないというのならわかるけど、怪我をしている様子もなかった。
傘越しとはいえ、高いところから落としたレンガが当たったのだから、無事で済むはずがない。
実際、レンガが当たった時には倒れて、動かなくなっていたのに……。
でも、今日偶然出会った彼女は、まったくの無傷だった。
動揺して、思わずそれが表に出てしまった。
もしかしたら、少し怪しまれたかもしれない。
いや、この際怪しまれたかどうかなんてどうでもいい。
彼女が怪我をしていないということの方が重要だ。
いったい、どうしてなの?
こんなのありえないわ。
死んでいてもおかしくないほどの衝撃だったはずなのに、どうしてあの女は無傷なのよ……。
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