第9話 3ヶ月の成果

 俺とカーミルは2人で家から離れた森の中を走り回っていた。

 訓練中に壊してしまった魔力量偽装の魔道具を修理する材料、魔石を手に入れる為、魔物を狩っている最中だ。


「【龍撃】」


 カーミルが長い鉤爪を両手に装備したような猿の魔物――クローモンキーに拳を打ち込む。

 クローモンキーは、勢いよく飛んでいき大木にぶつかり動かなくなる。


 1匹のクローモンキーを倒すと、続々とクローモンキーが出てきた。


 俺は短剣を構える。


 2匹のクローモンキーが同時に襲いかかってくる。

 振るわれる鉤爪を最低限の動きで躱し、首元を短剣で斬りつける。


 まずは1匹。


 持っている短剣をもう1匹のクローモンキーへと投げる。

 短剣が首に刺さる。


 2匹目。


 5匹のクローモンキーが木の上から襲いかかってくる。

 俺は左右の手に2本ずつ、投擲用の短剣を腰のベルトから抜き取り放つ。

 短剣が、4匹いるクローモンキーのそれぞれ眉間に刺さる。

 残りの1匹の攻撃をすぐさま短剣を抜き防ぎつつ、右足で蹴り飛ばす。

 そして、持っている短剣を眉間に投げつけた。

 短剣が刺さるとクローモンキーは動かなくなった。


「【龍撃】」


 カーミルもクローモンキーと戦っていたが、終わったようだ。


「お疲れ」


「うん、ユウシンこそお疲れ」


 ウウウゥゥゥゥウウゥゥヴヴウゥゥウウウウウヴウゥゥゥゥゥゥウウゥゥ。


 呻くような鳴き声がした。


「なんだ!?」


 近くにある直径10m以上はありそうな大木に目と口が現れており、無数にある枝がクネクネと動いていた。


「――トレント」


「あれがトレントなのか」


「うん。あれを倒せば魔道具用の魔石が手に入りそうだね」


 トレントの無数の枝がこちらへ襲いかかってくる。


「これは、使っちゃってもいいよね――【龍炎壁】」


 トレントの攻撃を遮るように炎の壁が出来る。

 カーミルは、森の中なので火事の心配をして今まで得意な炎魔法を控えていたみたいだ。


「俺は、トレントに接近して魔力を削ってくる」


「わかった。援護はわたしに任せて」


「おう。じゃあ行って来る」


「まって、はいこれ。短剣、さっき結構使ってたでしょ」


 俺はカーミルから短剣を受け取る。


「ありがと。そんじゃ、行って来る」


 炎の壁が消えた瞬間、俺は全力疾走でトレントとの距離を詰める。

 襲いかかってくる枝は、短剣で弾いたりカーミルの魔法での援護で退けていった。

 トレントの元へたどり着くと、襲いかかってくる枝に対応しながら隙をみて、大きな幹の部分を斬りつけていった。


「【龍炎球】」


 炎の球が俺を攻撃しようとした枝へ着弾する。


「枝の方はわたしに任せて!」


「分かった!」


 俺は幹をとにかく斬りつけて、トレントの魔力を削っていく。


 短剣の切れ味がだんだんと悪くなっていく。

 なかなか硬いな。


 俺は切れ味が悪くなった短剣を捨て、新しい短剣を抜く。

 再び、トレントの巨大な幹を斬りつけていく。


「【龍炎球】【龍炎球】【龍炎砲】」


 カーミルが俺を襲おうとしているトレントの枝を次々と焼き払っていく。

 俺は、トレントの魔力を削る事に集中する。


 切れ味が落ち、3本目の短剣を抜いた時――


 ウゥウゥウウウヴウゥゥゥゥゥゥウウゥゥ。

 ウゥウゥウウウヴウゥゥゥゥゥゥウウゥゥ。


 マジか!


 2匹のトレントが現れた。

 最初の1匹目よりは小さい。


 俺は魔力を削るのを辞め、カーミルの元へ戻る。


「【龍炎球】」


 カーミルが俺に迫るトレントの枝を焼き払った。


「ありがと!」


「【龍炎壁】」


 カーミルが炎の壁を張った。


「広範囲の魔法で一気に行くね」


「任せた!」


「【龍炎の雨】」


 炎の雨が周囲に降り注ぐ。

 3匹のトレントが炎に包まれて呻き声を上げる。


「あっ、服が燃えていく」


 俺の服がメラメラと燃えていた。


「ごめん! ユウシン」


 炎の雨は俺とカーミルの所にも降り注いでおり、俺の服へと燃え移っていた。

 俺自体はスキルのおかげで焼ける事はない。

 カーミル自体は火の耐性がとても高い為焼ける事はなく、服なども火耐性強化が掛かってる為、簡単に燃えたりしない。


 俺の服が燃え尽きると同時に炎の壁が消える。


 後から来た2匹のトレントは、炭になっていた。


 ウウゥゥウゥゥウゥゥウヴウヴゥゥゥウウゥゥウウゥ。


 残りの1匹のトレントは所々炭化していたが、まだ余力がありそうだった。


「もう少し、魔力を削ってくる」


 俺は再びトレントの幹を斬りつけて、スキルの力で魔力を削っていく。


 どれだけ魔力を削れてるんだ?

 俺には魔力が見えないから全然分からねえ。


 あっ!


 短剣が根本から折れる。


 ちっ、新しい短剣を――――服が燃えた時に落としちまってた。


 俺はしょうがなく拳に切り替えて、魔力を削っていく。

 しばらく拳を打ち込み続ける。


 感覚的に分かる。そろそろスキルが切れる。


「ユウシン。さがって、後はわたしが決めるわ」


「わかった!」


 俺は全速力でカーミルの元へと戻る。


「後は任したぞ」


「うん。見てて、【龍炎の息吹】」


 カーミルの口の付近から炎が噴射され、トレントを飲み込んでいく。


 すごいな。人の状態でもブレスが放てるのか。


 魔法が終わるとそこには、炭化したトレントがいた。


「てか、あたり一帯燃えてるな」


 このままにしといたら森全体に火が広がりそうだ。


「【雨降】」


 あたり一帯に雨が振り始める。

 木に付いた火がジュージューと音を立てて消えていく。


 カーミルが魔石を回収して戻ってくる。


「これなら大丈夫そう」


 これで、俺の壊してしまった魔力量を偽装する魔道具が直る。

 俺は、スキル発動中に持っている魔道具を無意識で壊してしまう。

 最初バレットさんと戦った時、その魔道具を身に着けていたままだった為に壊してしまった。


 カーミルが俺を見て、頬を真っ赤に染めて目を逸らす。


「あっ、ごめん」


 俺は慌てて自分の息子を隠す。

 しまった、俺、全裸だった。


「はい。これ」


 カーミルがマジックポーチからバスタオルくらいの大きさの布を取り出し渡してきた。

 俺は、その布を腰に巻く。


「ユウシン、だいぶ筋肉付いてんだね」


「まあな。あんだけ訓練やってるんだからな」


 そうだ、俺はこの森の家に来てから3ヶ月、休み無しで朝から晩まで訓練をしていた。


「初めてあった時より引き締まってるね」


 カーミルはそんなに俺の裸をしっかり覚えているのか。

 俺もカーミルの一糸まとわぬ姿は脳に焼き付いているがな。


「まあ、この世界に来るまではずっと帰宅部でエースを張っていたからな」


「きたくぶでえーす?」


「なんでもない。気にすんな」


 俺は日本で部活を一切してこなかった。

 アニメやゲームなどの時間が減るからだ。

 あと、面倒くさかった。


「ユウシン、スキルはどう?」


「もう効果切れだ」


「じゃあ、わたしがおんぶするね」


「ああたのむ。早く帰る為だけに死んで〈死からの反撃〉を発動させるのは嫌だからな」


 3ヶ月の訓練で何回も殺された事もあって抵抗は大分減ってきたのだが、帰る為だけにスキルを使うのはな。


 俺はカーミルに背負われる。


 カーミルに背負ってもらうの何回目だっけ?

 訓練が始まってからもちょくちょく背負ってもらってたな。

 なんか慣れてきたな――って慣れたら駄目だろ。


「普通、逆なんだよなー」


 思っている事が思わず口から出てしまった。


「そうかもね。でも、わたし、ユウシンをおんぶするの嫌じゃないよ」


「ありがと」



★★★


 俺は、カーミルに背負われて家まで帰った。


「ユウザキまた。全裸になったのか」


 家に入るとバレットさんに真っ先に言われた。


「いや、なりたくてなってるわけじゃないですよ」


「わたしの魔法で――」


「ああ、そうか。いや、こいつはわざと魔法にあたって全裸になろうとしてるんじゃねえか」


「待ってくださいよ。バレットさん。俺はそんな全裸を見せつけるような変態じゃ」


「はいはい。まあ、ユウザキに丈夫な鎧とか着させたら、スキルが発動してないとろくに動けないし、軽いものは大抵魔道具だからすぐ壊れちまうしな」


 俺は、魔力がない為【身体強化】を使えない。

 その為、鎧など重いものを装備すると素早く動けない。

 短剣を使っているのも、スキルが発動してない時でも使えるようにと軽い武器を選択した結果だ。


「ユウシン君、また裸になったの? 好きだねー。なんか目覚めちゃった?」


 リザさんも俺を変態扱いするのか。

 しっかり否定しとかないと。


「目覚めてません! 後、俺は一度も自分の意志で裸になった事はありません」


「そうだっけ?」


「そうです!」


 俺は決して人前で裸に成りたがる変態ではない。


「リザさん、これ魔石です」


 カーミルは魔石をリザさんに手渡す。


「ありがと! これで修理できるよー」


 リザさんは魔石を持って部屋へと戻っていく。


「ユウザキ、カーミル。話がある」


「話ですか?」


「ああ、こっちで座って話そう」


 バレットさん、机を挟んで俺とカーミルで座る。


 真剣な顔つきに変わったバレットさんが口を開く。


「カミユイユイナ。知ってるか?」


 知ってるも何も、上結さんは――――俺が夏休み前に告白し、そして振られた人だ。

 なんで、その名前が今出てくる。

 いや、城の中にも”完全なる平和”のメンバーがいるんだったな。

 何かあったのか? 上結さんに。


「カミユイがある貴族に買われた」



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