第4話 巨大蜘蛛
「がはっ!」
口から血が滝のように出てくる。
「なんで……」
喋ろうとしたが血のせいでうまく喋れない。
鋭い脚は左胸――ちょうど心臓の位置から出てきてた。
なんでだろうな。
体が咄嗟に動いたんだよ。
どうせここで俺が庇ったところで、どうにもならないのにな。
意識が遠のいていき、そして途切れた。
あれ!? 力がみなぎってくる感覚する。
さっきと同じだ。
目を見開く。
すぐ目の前にはカーミルの顔があった。
体はカーミルにのしかかるような状態になっていた。
俺はすぐさま立ち上がり、カーミルを背に守るようにした。
体の傷は跡形もなく塞がっている。
でも体中、血まみれだ。
5匹の巨大蜘蛛が一斉に襲いかかってくる。
俺はそれをすべて殴り飛ばした。
殴り飛ばされた巨大蜘蛛は後ろの巨大蜘蛛をも巻き込んでいく。
そして、飛ばされた巨大蜘蛛がまたカサカサと距離を詰め襲いかかってくるところを殴り飛ばした。
襲いかかってくる巨大蜘蛛をとにかく殴り飛ばした。
何回も殴り飛ばしていると、起き上がってこない巨大蜘蛛も出てき始めた。
これなら倒しきれる。
それから、だんだんと襲ってくる巨大蜘蛛の数は減っていき、残り1匹となった。
「あと、1体!」
俺の体を刺そうとする巨大蜘蛛の鋭い脚を左手で掴み、一瞬で蜘蛛を引き寄せる。
そして、巨大蜘蛛の顔面を右の拳で思いっきり打ち抜いた。
巨大蜘蛛の頭は千切れ、凄い勢いでとんでいった。
千切れた部分から体液が飛び散る。
「終わった。倒しきったぞ――あっ」
俺がカーミルの方を振りむいた瞬間、抱き着いてきた。
お互いに裸なのでカーミルの体の温もりが直接伝わってくる。
そして、肌と肌が接しあう場所はヌルヌルした――俺の血と巨大蜘蛛の体液だ。
「し、死んじゃったかと思った」
カーミルが嗚咽交じりに言った。
「俺も死んだかと思った。でも大丈夫、生きてる」
俺は片方の手を小さな背中へ回し、もう片方の手で頭をなでる。
そうするとカーミルは声をあげて泣き出した。
そのまま俺たちは少しの間、抱き合ったままだった。
★★★
いつの間にか、晴れていた霧は元に戻っていた。
俺たちは襲われる前と同じように岩を背に体育座りをしていた。
ただ一点違うのは、カーミルの距離がだいぶ近いところだ。
肩と肩が密着している。
場所がこんな谷底でなければもっとわくわくしたのにな。
さて、これからどうしよう。
崖を上るにも途中でスキルが切れたら終わりだし。
カーミルの魔力の回復を待つとしてもまた、いつ魔物が襲ってくるかわからない。
まだ、スキルの効果は残っている感じはあるが、いつ切れるか分からないし、発動条件もはっきりしない。
「魔力はどれくらいで回復しそう?」
「あと、もう少しでドラゴンの姿に戻れると思うの」
「わかった」
あと少しか。
その間、スキルの効果よ、持ってくれ――あっ切れたかも。
最悪だ。
まずい。
ドン!
「えっ」
「あっ」
なんだ!?
「すまんな、遅くなった。生きてるか――てっ、血まみれじゃねえか。2人とも」
カーミルをかばった時と抱き合った時に血がついちゃったんだな――ってそうじゃなくて、この男は誰だ? 上から落ちてきたのか? なんでこんな所に?
現れた男のガタイは良く、くすんだ茶色の髪に茶色系統の色の服で身を包んでいた。
「とりあえずこれでも着てろ」
くすんだ茶髪の男は布団くらいの大きさの布をどこからか取り出し、投げるように俺とカーミルへ1枚ずつ渡す。
そういえば、俺たち全裸だった。
俺とカーミルは受け取った布で身を包む。
「さて、とりあえずここから出るか。話はそれからだ」
カサカサ、カサカサ。カサカサ、カサカサ。
カサカサ、カサカサ。カサカサ、カサカサ。
カサカサ、カサカサ。カサカサ、カサカサ。
霧の中から巨大蜘蛛が十数体、俺たちの前に現れた。
「ちっ、お前ら死にたくなければ動くなよ。【氷結の槍雨】」
氷の槍が巨大蜘蛛の上に雨のように降り注いだ。氷の槍が巨大蜘蛛を貫いた箇所から白く凍らせていった。
「すごい魔法」
「あれが魔法なのか?」
「うん、そうだよ」
「まじか、一瞬で倒しやがった」
「ちっ、一匹残ったか、【氷結の槍】」
くすんだ茶髪の男の手に氷の槍が突如現れ、それを巨大蜘蛛へと投げつけた。
巨大蜘蛛は、氷の槍に貫かれ、凍り付いた。
「さっさとここからでるぞ」
そう言いながら、くすんだ茶髪の男は俺とカーミルの手を取り近くへ引き寄せた。
「お前らオレにしっかり触れとけよ」
すると、視界が白い光に包まれる。
★★★
白い光がなくなると10畳ほどの広さの部屋にいた。
床、壁、天井のすべてが石で出来てるようだ。
窓はなく、正面に一か所、石でできた上がる階段があった。
ここは、地下室だろうか?
そして隣には、カーミルとくすんだ茶髪の男がいた。
「とりあえずここに来れば魔物に襲われる事はない。ついてこい」
俺たちはくすんだ茶髪の男の後をついて、階段を上ってく。
そして、階段の先にある木で出来た扉を開ける。
扉の先は、木で出来た6畳ほどの広さの部屋だった。
ベッドが一つ置いてあり、クローゼットがあった。
後、木のテーブルと椅子が二つ。
「ちょっと体拭くようの布とお湯取ってくるから待っとけ」
くすんだ茶髪の男はそう言うと、俺たちが出て来たのとは別の扉から出ていった。
「あの人、何なんだろうね」
「うーん、俺たちを助けてくれた訳だし、悪い人ではないんじゃない?」
「きっと、そうだよね」
「ここって、どこなんだろうな」
「わたしには分からない。たぶん、転移でここに来てるから」
「そっか、転移か」
俺は、転移で死の谷に飛ばされたんだったな。
しばらくカーミルと話していると、くすんだ茶髪の男が戻ってきた。
「お湯が沸いたぞ」
くすんだ茶髪の男は、お湯が入った木のバケツと布を持ってきた。
「俺はお前らの服持ってくるからその間に体を拭いておけ」
そう言い、くすんだ茶髪の男は部屋を出ていった。
あれ? ふたり一緒に体拭くの?
まあ、お互いに全部見られたし、裸で抱き合った仲だけど。
あれは、非常事態だったわけで……
「先、体拭いていいよ。俺、終わるまで後ろ向いとくから」
「いいの?」
「いいよ、それ俺の血だし」
言ってて思ったけど俺の血は関係ないな。
「ありがとう。先、拭かしてもらうね」
「おう」
俺は後ろを向く。
会話がなくなると急に静かになり、布で体を拭く音が聞こえてくる。
少しすると、カーミルが「終わったよ」と声を掛けてきた。
次は交代で俺が体を拭いていく。
俺が体をちょうど拭き終わったのを見計らったようにくすんだ茶髪の男は服を持ってやって来た。
くすんだ茶髪の男の持ってきた麻で出来たシンプルな服に袖を通した。
俺の服は半袖の上と半ズボンで、カーミルの服はワンピースみたいなのだった。
やっぱり服はいいな。なんか落ち着く。
「それじゃ、話に入るか。まずオレの名前はバレットだ」
「わたしはカーミル。ド――」
「ドラゴンだろ。見ればわかるよ」
「えっ!?」
くすんだ茶髪の男――バレットさんは少女の姿のカーミルを見てドラゴンだとなぜわかる?
「それとお前は、ユウザキユウシン。勇者召喚された魔力量ゼロの勇者だろ」
「なんでそれを……」
「まあ、落ち着けこれから全部話す」
それからバレットさんは告げた。
「秘密結社”
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