第13話 おさかなてんごく♪


車で走る事約1時間半ほど、俺たちは水族館に着いた。

ここは魚の展示以外にイルカやアシカにペンギンのショーもやっているので子供だけでなく大人にも人気の水族館だ。


全員で行っても仕方ないので、四人には入場口近くで待ってもらって俺はチケット売り場に並んでいる。

俺の番になって窓口に張り紙があるのに気づく、特別法案可決記念、犬人いぬひと猫人ねこひと入館無料と書いてあった。


「あの、ここに猫人無料って書いてあるんですけど・・・」

「はい法案可決したので、来月いっぱいまでイベントとしてやっています。」

「それでしたら大人3枚お願いします。」

「猫人は何人でしょうか?」

「あ、2人です。」

「では代金は大人3人で・・・。それとこちら猫人犬人チケットです、退館時にお土産も用意しております、無くさないようにしてくださいね。」

「ありがとうございます」

「ごゆっくりどうぞ。」


なんとこんなところにも法案可決の恩恵が、などと考えながら皆のいるところに向かう。


「おまたせ、大人のチケットはこれな、あと茶羽さう黒羽くうのはこれだ、帰りにお土産貰えるみたいだから無くすなよ。」

「おっさんきゅー」

「「おみやげ」」


入り口で半券を渡され中に入る、茶羽と黒羽のは無くさないように預かろうとしたが、大事そうにポシェットの中にしまっていたのでそのままにした。


「このまま道順に回って最後にイルカショーにするか?それともイルカショーから先に逆周りするか?」

「道順で最後にイルカショーで良いと思う。」

「おーけー、じゃあこっちだな。」


この水族館は人が少ない朝一の時間にショーを見てから回る逆走ルートという玄人的な回り方が存在する。

ただそれには問題がある、土日祝日だと人が多すぎて人混みをかき分けて進まないといけなくなるため、逆に疲れると言う平日限定ルートである。

今日は日曜だし茶羽と黒羽も居る事だ、順路通りに見ていくのがいいだろうという俺の考えだ。


「茶羽、黒羽、お魚いっぱいいるぞ。」

「「おさかな、おいしそう」」

「いやここのお魚は食べれないからな。」

「「たべれない」」


最初の水槽に着くなり目を輝かせ今にも涎をたらしそうな顔をしていたが、食べれないと分かるとしょぼんとしだす。

二人をなでてから食べれないけどいろんなお魚見れるぞ、と抱き上げてよく見える位置に連れていく。

二人は良く見える位置に来て機嫌がよくなったのか腕の中ではしゃぎだす。

しばらく進むとタイミングよく餌やりの時間の水槽に着いた。


「「おさかなさんのごはん」」


初めてみる餌やりに興奮して飛び跳ねながら喜んでいた、それを見た周りにいた人も、こっちが見やすいよ、などと声をかけてくれて場所を譲ってくれたりして、さらに喜んではしゃぎまわっていた。

餌やりを見て次はカニやエビ等魚以外がいる水槽に来ると、見たことない生き物だらけなので、怯え始め耳をぺたんとさせて俺の後ろから足にしがみついていた。


「怖くないから大丈夫だよ。」


そう言っても足から離れないので、抱き上げて水槽から離れる。

しばらく進むと開けた場所に出る、休憩用のテーブルや飲食関係の売店やグッズを売ってるお店などが集まっている場所だ。

ちょうど開いているテーブルを確保して座ると、茶羽と黒羽のお腹が鳴る。


「お魚いっぱい見ておなかすいたか?」

「「おなかすいた」」

「なら少し早いけどお昼にしますか。」


香織がお弁当の入っているカバンを出すと、茶羽と黒羽はもうご飯モードに入ってしまった。

二人を香織に任せて俺と健治は飲み物を買いに売店に向かう。

三人はコーヒー、茶羽と黒羽はオレンジジュースを買って席に戻る。

テーブルには卵焼きや焼いたお肉などが入ったタッパーとラップにくるまれたおにぎりが並んでいた。


「おいしそうだな、たべるか」

「「いただきます」」


お腹空いていたのか茶羽と黒羽は口いっぱいに頬張ってハムスターみたいにほっぺが膨らんでいた。

それを見た健治と香織は笑いをこらえるのに必死だった、俺も慣れてきたとはいえかわいい二人をみて笑顔になっていた。


「ほら、誰も取らないからゆっくり食べな。」


俺の一言にはっと気づき、口いっぱいに頬張りながらキョロキョロ見てから、口の中のご飯を飲み込んでゆっくりと食べ始める。

食べ終わると片づけをしてトイレに行ってから後半の順路を進んでいく。


茶羽と黒羽は魚のいる水槽は興奮した状態ではしゃいでいるが、魚以外になるとまだ怖いのか俺たちの後ろに隠れてしまう。


水族館の水槽コーナーが終わるとまた少し開けた場所に出る。

この先にイルカショーのステージがある、茶羽と黒羽の手を引いてステージの席に行こうとすると二人が何かをじっと見ていた。

視線の先にはスタッフに連れられてアシカが出てきていて、子供たちが一緒に写真を撮ったりしていた。


「アシカと写真撮るか?」

「「・・・」」


返事がないので二人を見ると目は興味津々だが耳はペタンとしていた。

手を引いて近くに行くとスタッフの人に声を掛けられたので、近づいてからスタッフのお姉さんに触ってもいいよと言われて、恐る恐る手を出す二人、チョンと触れても動かないアシカに安心したのかぺたぺたと触り笑顔になって喜び始めた、カメラは持っていないがスマホの動画で一部始終撮りながらうちの子かわいいと終始笑顔が崩れていた。


スタッフにお礼を言ってステージの席に向かう、茶羽と黒羽は見えなくなるまでアシカにずっと手を振っていた。

ショーステージでは真ん中ではないが一番前の席が取れた。

ここのイルカショーでは真ん中の席は大人気なので、席取りしている人が多い。


ショーが始まるまで何が始まるのかわからない二人はずっとキョロキョロしていた。

ショーが始まるとイルカがジャンプするたびにキャッキャと手をあげて大興奮。

イルカのプールの壁は透明になっていて泳いでいるイルカも見れる、近くに来ると二人は驚きながらも喜んでいた。

ショーも終盤になると客席の目の前に顔を出してキューキュー鳴いてくれる、何度か場所を変えて顔を出して、俺等の目の前に顔を出したので二人はまたもはしゃぎ始める、


ショーが終わっても興奮してるのか、ずっとぴょんぴょん跳ねまわっていて、出口前のお土産屋に来ると魚のぬいぐるみを見てさらに興奮しだす。

二人の身長くらいある大きなイルカのぬいぐるみを色違いで買ってあげると抱えて喜んだ。

そのまま出口に行くと、出口脇でスタッフに呼ばれた、二人は俺を見てくるのでぬいぐるみを預かり二人に行っておいでという、スタッフ近づいてポシェットからチケットを出して見せると缶バッチと水族館のマスコットが描かれているストラップをもらっていた。

二人は喜んでポシェットにしまって「ありがとう」とお礼を言って戻ってきた。


「よかったな」


となでてからぬいぐるみを渡して水族館を後にする。


帰りの運転は俺がするので運転席に座りみんな乗ったのを確認するため後ろを見ると、茶羽と黒羽はぬいぐるみを抱えたままもう寝ていた。


「じゃあ帰るか。」


二人の寝顔を見て静かな声で言うと車を出す。







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