第8話 茶羽と黒羽の失敗


「健治も香織も今日はありがとな。」

「俺らも楽しめたからいいてことよ。」

「そうね、茶羽さうちゃんも黒羽くうちゃんもかわいかったし、楽しかったわ。」

「そう言ってくれると助かるよ。」


出口に向かう車内で健治と香織にお礼を言い出口の順番待ちの車列に並ぶ。


「二人は晩飯どうすんだ?うちで食ってくか?」


ショッピングモールを後にしてしばらくしてから健治たちに声をかけた。


「帰りに食うって手もあるが、ここは素直にごちそうになろうかな。」

「では家にある食材で、私が作りますよ。」

「ありがとう、お願いしようかな。」


帰りの車の中で三人そんな話をしている中、茶羽と黒羽はすやすやと夢の中にいた。

無事に家に着いた俺は、健治と香織に茶羽と黒羽を任せて、車をガレージに入れて玄関に向かう。

玄関を開けて二階のベットに茶羽と黒羽を寝かせると、香織はキッチンで冷蔵庫の食材や収納庫にある野菜などを確認していた。

健治にはリビングで待ってもらって、俺は風呂のお湯はりスイッチを入れに行く。


リビングに戻ると香織から質問される、


「茶羽ちゃん黒羽ちゃんはアレルギーとかで食べれないものはあるの?」

「アレルギーというか、元が子猫だから、子猫が食べられないものは避けてるんだよね、まだよくわかってないから何かあってからじゃ遅いし。」

「そうね、じゃあ何が良くて何がダメかってリストはある?」

「ネットで調べてプリントアウトしたのが冷蔵庫に貼ってあるよ。」

「これね、駄目なもの意外と多いのね、野菜は加熱すれば大抵がいけそうね、魚介は甲殻類がダメなのね、お肉は加工品以外なら加熱すれば大丈夫なのね、刺激の強い調味料も駄目ね。」

「一応昨日は駄目なものは買ってないから、調味料さえ気を付けたら大丈夫だと思う。」

「あらそうなの?じゃあちゃちゃっと作るわね。」

「よろしくね。」


キッチンからリビングに戻ると健治はテレビでニュースを見ていた。

すると二階で物音がしたので二人が起きたかなと二階に上がっていく。

二階に上がると寝室から二人が出てきた、俺を見て飛びついて来るかと思ったが、その場でしゅんとした顔で耳もぺたんとなっていてその場で下を向いたまま止まっていた。


「どうした?いつもなら飛びついてくるのに。」


二人を見ると少しスカートが濡れているのに気づく、それを見て寝室のベットを見るとシーツが濡れていた。

それを見て二人に向き合い笑顔で、


「気にしなくていいぞ、今な香織がご飯作ってるから先にお風呂行こうか。」


そう言うと二人を抱き上げて風呂の脱衣所に連れていく。

準備してくるから服脱いで待っててな、と伝えてキッチンに行き香織に事情を話し、ベットの片づけをしてもらう。

その間に二人の着替えと俺の着替えを持って脱衣所に向かう。

脱衣所に着くとまだ二人は服を着たまま耳を伏せてしゅんとしていた。


「なんだまだ脱いでないのか?服脱がないとお風呂入れないぞ、ほら早く入ろう。」


笑顔でそういうと順番に服を脱がし風呂に入れていく。

二人の体と頭を洗って湯船につからせると、今度は自分の体と頭を洗っていく。


「「ごめんなさい」」

「ん?どうしたんだ?何も怒ってないぞ。」


笑顔でそういうが二人はしゅんとしたままだった。


「危ない事したわけでも、何か壊したわけじゃない、だから大丈夫だよ、それにごめんなさいしたろ、だから問題ない。」

「「うん」」


まだちょっとしゅんとしていたので、湯船に入り二人に軽くお湯を掛けてみる、すると驚いたのか耳をピンとたてて、こっちを見てお湯をかけ返してきた。

そのままお湯のかけっこをしていたら笑顔になってきたので、もう大丈夫かなと思い声をかける、


「そろそろ出るか、香織の作ったご飯が待ってるぞ。」

「「ごはん」」


そういうと茶羽と黒羽のお腹が鳴った、それを聞いて三人で笑いながら風呂から出る。


髪を乾かしてパジャマに着替えさせたらリビングに行くと、いい匂いがしてテーブルにはお肉を焼いたものなど料理が並んでいた。


「冷めないうちに食べようぜ。」


健治の一言で茶羽と黒羽もテーブルにつく。

自分も席につこうとしたら香織が小さい声で『シーツと服は洗濯機に入れて回しておいたわ』と伝えてくれた。

布団は明日何とかすればいいか、今日は客用の布団で寝るかなと思い、ありがとうと伝えると席に着いた。


「「おさかなない」」


魚が無いのを見て二人はちょっとしょぼんとしていた。


「お魚ばかり食べてたら病気になっちゃうのよ、だからお魚以外の色んな物食べないとだめよ。」


それを見た香織が二人に説明すると、『びょうきだめ』と納得したようだ。

そして恐る恐ると言った感じで一口大に小さく切ってあるお肉を口に入れると、途端にがつがつと食べ始めた。

それをみて俺ら三人は笑いをこらえるのに必死だった。


「そんな慌てて食べなくても誰も取らないし逃げもしないぞ。」

「おかわりもあるからね、ゆっくり食べてね。」


健治と香織がすごい勢いで食べる茶羽と黒羽に声をかけるが、二人は全く聞いていない様子だった。

『いつ見てもこの二人が食べてるのを見るとお腹一杯になるな』と考えながらつい笑顔になってしまう。

健治と香織も笑顔で二人を見ていた。


食べ終わると後片づけは俺らがやると伝え男二人で片づけをする。

終わってリビングに戻ると、香織が茶羽と黒羽に絵本を読んでいた。

絵本を読み聞かせながら書いてあるひらがなを教えているようだった。

二人は交互にひらがなを指して『これは?』『つぎこれは?』と聞いていた。

少し香織に任せようと思い、健治とテーブルについて少し話をすることにした。


帰ってきてからニュースを見ていた健治に何か新しい情報があったか聞きたかったからだ。


ニュースを見る限り政府発表に関しては特に目新しい内容はなかったらしい。

新しい事は週明けに臨時国会を召集したという発表くらいである。


それとは別に今日行ったショッピングモールの近くで、人化した子供を連れ去ろうとして捕まった奴が居たらしい。

ただそいつはすぐ釈放されたという。

有識者たちはその事で、人権を認める方向だと政府発表があるのだから誘拐だと言う人、まだ人権は認められていないから誘拐ではない、だがペットを連れ去ろうとした行為は窃盗に当たると言う人がいるらしい。

それでもどっちにしろ犯罪行為をしているとして釈放した警察の判断に異議を唱えている。


SNSでもその点では色々と騒ぎになっていて、ハッシュタグと呼ばれる物に『ケモ耳に人権を』とか、『ケモ耳を守れ』とかいう物が乱立しているらしい。


健治に「近場で起こった事件だし、犯人も釈放されているから、茶羽ちゃんと黒羽ちゃん気をつけろよ」と言われた


なんにせよ週明けの明日以降の国会の決議次第だろうと言うのが健治の意見だった。

俺は茶羽と黒羽の国籍取得と戸籍登録ができれば問題はない、それさえ叶えばいいと思っていた。

それが甘い考えだったとは今は考えもしなかった。


あとはネットなどの情報を見る限り、野良猫や野良犬は人化していないらしい、某有名掲示板では『野良ケモ耳を探せ』というスレが立っているが、近所に野良猫や野良犬の子供はいるが人化してなくてショックという書き込みが多く、見つけたという書き込みは無い。


他にもブリーダーのように子供を産ませて販売するような人や業者やペットショップの犬猫は人化していないという。

あくまでも一般家庭でペットとして飼っていて生後半年未満の子猫子犬が人化しているようである。


「そうなると何か作為的というか意図的な物があるのかな?人化した日以降に生まれた子は人化してないみたいだし。」

「そうだな、それも徐々に明らかになっていくと思う、まだまだ情報が足りない、というのが現状だな。」

「なるほどな、まだもう少し情報集め無いとだめだな。」


そこまで話をすると茶羽と黒羽を抱えた香織が近づいてきた、二人を見ると寝てしまったみたいだった。

茶羽と黒羽を香織から受け取ると、時間も時間だからそろそろ帰ると言うので、ベットではなく客用の布団を引いてもらい茶羽と黒羽を寝かす。

玄関まで二人を送ると、また来るよといい帰っていった。

戸締りと火元の確認をしてから、俺も茶羽と黒羽の寝ている布団に潜り込んで寝ることにした。







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明日は19時更新で2話公開します。

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