第3話 ショッピングモール


茶羽さう黒羽くうと手を繋ぎ、ショッピングモールに入っていく。

二人は自動で開く扉に目を輝かせて、「もう一回」と何度か出入りしていた。

うーん、なんか他の客からの暖かな視線がこそばゆい。


「茶羽、黒羽、もう行くよ。」

「「えー」」

「ご飯食べなくていいのか?」

「「たべる」」


最初はもっと遊びたそうに不満げにしていたが、ご飯と聞いて笑顔で俺の手にしがみついてきた。

『自動ドアでこれじゃこの先が大変だな。』と苦笑しながら二人の手を取り歩いていく。


「二人は何が食べたい?」

「「おさかな」」

「お魚か。」


たしか猫に生魚はあげちゃダメとか昨日ネットで見た気がするな。

それだとお寿司は駄目か、和食のお店なら焼き魚定食とかありそうだな。

と考えて二人に


「よし、焼いたお魚食べに行こうか。」


と告げると二人は跳ねまわって喜んだ。

途中案内板で和食のお店を確認して、エレベーターフロアに向かった。

すると黒羽がトイレに行きたいと言うのでトイレに向かう。

トイレに行くと女性用と男性用の手前に多目的トイレと親子トイレというのがあった。

多目的トイレに行くつもりだったのだが、親子トイレに入ることにした。

中に入ると多目的トイレと同じか少し小さいスペースに洋式トイレと子供用小便器が設置されていた。


「今はこんなスペースもあるのか。」


そうつぶやきながら黒羽に洋式トイレの使い方を教えて、トイレを済ます。

黒羽が終わると茶羽にも教えて済ませる。


「家のトイレもこれと同じだから使い方覚えるんだぞ。」


そう言って手を洗いハンカチで二人の手を拭いてあげる。


すっきりした顔の二人を連れてエレベーターホールに行くと、三人連れの年配の女性が俺たち、というか俺をじろじろ見てこそこそと話しているようだった。

『なんか感じ悪い奴らだな』と思って気にしないようにエレベーターを待っていると、後ろから突然声を掛けられた。


「すいませんちょっと宜しいですか?」


振り向くとこのモールの警備員の服を着た人が二人立っていた。


「何でしょう?」


俺の声のトーンが変わったのを察したのか、茶羽と黒羽は俺の後ろに隠れて足にしがみついた。


「いえ、若い男性が子供を連れまわしていると聞きまして、警戒していまして。」


その言葉にもしやと思い、こそこそ話していたおばさんの方を見ると、すぐ顔を背けてこそこそ逃げるように去っていった。

それを見てから警備員のほうを向いて、


「俺が誘拐犯だとでも言いたいんですか?茶羽と黒羽は俺の子だが、それでも疑うのか?」

「い、いえ、そうではなくてですね」

「この店の従業員たちは、はなから客を犯罪者としてしか見て無いのか?」

「警戒中でして確認のため声をおかけしただけで。」

「駐車場に防犯カメラ付いてるんだろ、それ確認したら俺と茶羽と黒羽が同じ車で来たのが分かるんじゃないか?。E-3の白いセダンでカメラのすぐ前に止めてあるんだが。」


俺はさっきより声を大きくして警備員に言う。

茶羽と黒羽を一時的にでも車に残すので、何かあったときのためにと防犯カメラの目の前に止めていたのだ。

もう一人の警備員が無線機の様な物で話してすぐに、


「あの、問題無いようですので、疑ってしまってすいませんでした、失礼します。」


そう言うと警備員は去っていった。


「たつやこわい」

「茶羽ごめんな、あの人たちが俺を悪い人だと言ってきたからちょっと怒っただけだよ、黒羽も、もう大丈夫だ。」


そう言うとしゃがんで目線を合わせて茶羽と黒羽に頭をなでる。

すると怯えていた二人は笑顔になり俺に抱き着いてきた。

そのまま二人を抱き上げ開いてたエレベーターに乗った。

目的階のボタンを押そうとすると茶羽と黒羽がやりたいと言うので、二人に押させる。

今度はどっちが押すのが早かったと言い合いになってしまった。


「ケンカするならご飯は無しだぞ。」

「「ごめんなさい」」


一緒に乗っていた男性も笑顔でこっちを見ていたので「騒がしくてすいません」と言うと手を軽く振って開いた扉から出ていった。


「騒いだら他の人の迷惑になるから静かにしような。」

「「はーい」」


そして目的階に着いたので三人で降りていく。


「さて和食の店はどっちだったかな。」


そうつぶやきながら案内板を確認して、三人手を繋いで和食の店に歩いていく。

さすがに昼時は過ぎているのでレストラン街には人は少なかったが、そこに行くまでは多かった、さすが土曜日だ家族連れが多い。

すれ違う子供たちから茶羽と黒羽の猫耳を指摘されたり、お耳かわいいと目をキラキラさせていたり、されたが茶羽と黒羽は特に気にした様子もなかったので気にしないことにした。


お店に着くとすぐ席まで案内されてメニューと水を持って来てくれた。

そのまま店員に


「焼き魚定食を二つと天ぷら定食をお願いします。」


と注文をして二人の様子を見ると店内をキラキラした目でキョロキョロ見ていた。


「なんか面白い物でもあったか?」

「おさかなのにおいがいっぱい」

「おいしそうなにおいがいっぱい」

「そうか、よかったな良い子で待ってたら焼いたお魚が来るぞ。」


そう言うと今にも涎をたらしそうな顔で固まったように座り直していたが目はきょろきょろしていた。

『なんだろめっちゃ可愛いぞ』


しばらく待つと焼き魚定食を店員が持って来た、店員に子供用にフォークとスプーンは無いかと聞くと、もうセットしてあるらしく、


「お子様用のフォークとスプーンはお付けしてあります。」


と返事をされたのでお礼を言うと、ごゆっくりどうぞ、と店員は下がっていった。


俺の料理が来てないので気にしているのか手を付けずに待ってる二人に、


「俺のもすぐ来るから先に食べていいぞ。」


と伝えると、笑顔になり

すごい勢いで食べ始めた。

それを見てふと気づいた、魚はほぐして骨を取ってあるのだ。


「何この店、サービスすごいな。」


そうつぶやいた時店員が天ぷら定食を持って来ていた。


「こちら天ぷら定食になります、それとお子様だったので骨を取ってほぐさせていただきました。」

「え?そんなサービスとかしてんの?」

「お子様連れも多いので混雑していない時間帯でしたらサービスでさせていただいております。」

「へぇ、すごいんだな、ありがとう。」

「いえ、ではごゆっくりどうぞ。」


店員はそう言うと下がっていった。

二人は食べ終わると満足したのか満面の笑みで座っていた。

俺も食べ終わっていたので席を立ち会計に向かう。

レジで先ほどの店員さんだったので


「ありがとう、サービス良かったしおいしかった、これからもちょくちょく来るよ。」


と伝えると茶羽と黒羽が


「「おいしかった」」


と言った。

店員さんは茶羽と黒羽に手を振りながら「ありがとうございました、またお越しください。」と見送ってくれた。


店を出て歩きながら


「茶羽、黒羽、おいしかったか?」

「「おいしかった」」


と話しながらエレベーターホールに向かう、そしてエレベーターの扉が開くと同時に茶羽と黒羽が行こうとしたので手を引っ張り止めて、


「こういう時は降りる人が先なんだよ、だから降りる人にお先にどうぞ、ってしてあげるんだよ。」


そう言うと二人は乳母車を押してる親子連れが降りようとしてるのを見て、


「「おさきにどうぞ」」


と声かけて「ありがとうね」とお礼を言われた。

二人はお礼を言われたので笑顔で俺の顔を見る、二人撫でながら「よくできたね偉いぞ。」とエレベーターに乗り込んでいく。

そして次の目的階を茶羽が押して、次は黒羽が押すと張り切っていた。






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