恋する乙女は暗殺者~恋愛ものの主人公みたいなチートを持って転生したら、暗殺者一族に生まれてしまいました~

空寝クー

序章 浅科かすみ、転生しました!

第1話 浅科かすみ、死んじゃいました!




 私の名前は浅科あさしなかすみ! 高校二年生!

 成績そこそこ、運動神経は並、特技は料理とお裁縫!

 趣味は恋愛漫画や恋愛ゲーム、恋に恋するお年頃!

 夢は漫画やゲームみたいな恋をすること!

 夢に見ているくらいだから、男性経験はなし! ってやかましいわ!


 今日も今日とて通学路を行く、退屈で平凡な日常生活。

 こんな日常にそうそう素敵な恋なんて転がっている筈もなく……。

 実際は退屈だなんだと思う事もなく、ただ日常の何気ない事に一喜一憂しながら私は過ごしていました。


 そんなある日の事。学校が終わった帰り道。

 通学路にある公園から、コロコロとサッカーボールが転がってくるのを私は見ました。

 それを追い掛けて走って行くのは小さな男の子。

 ボールはコロコロと道路に飛び出して、私は危ないなぁと思いながら道路の先を見ると気付いてしまいました。


 ブレーキも踏む気配もなく走ってくる一台の車。

 運転手は耳にスマホを当てて、何やら電話しているようでした。

 全く道路に飛び出したボールや子供に気付いていないのが一目で分かりました。


 私の頭がフル回転しているのでしょうか。

 まるでそれはスロー映像のようにゆっくりと流れているように見えて、驚く程に冷静に状況を判断できたのです。


 このままでは子供が轢かれてしまう。それに気付いた瞬間に、身体は咄嗟に動いていました。

 運動神経は並な私の、咄嗟のスタート。走り、道路に飛び出した子供に手を伸ばします。

 届かない。更に踏み込んで子供の身体に近寄ります。

 子供はまだ車に気付いていません。私は子供を引き留めるのではなく、思い切り突き飛ばしました。

 子供はよろめきながら道路の外に転げていきました。これで一旦安全圏。思ったよりも上手い事対処できました。


 後は私も此処から脱出……しようと思った時に、丁度そこに転がっていたボールを踏んづけました。


 世界は更にスローになります。

 ど派手にスッ転ぶ私。宙を舞うボール。転んで泣いている子供。今更になって気付いた運転手。赤い空。




 ドン!と身体を打ち付ける衝撃と激痛と共に、頭が激しく揺さぶられて、世界がたちまち正常な速度を取り戻しました。


 死ぬほど痛いんですけど……。


 周りでガヤガヤと騒音が聞こえます。そして、頬をつけた冷たいコンクリートの上に、赤い血がじわーっと広がっていくのが見えました。

 これ、私の血ですかね? これ死んじゃうやつですよね?

 だんだんと寒くなってきました。これ本当に死んじゃうやつかもしれません。

 妙に冷静に自分は死ぬんだなぁ、と思えるのは走馬燈だかなんだか知らないけれど、多分そういうやつなのでしょう。


 ああ、せめて。一回くらいは素敵な恋がしたかった。


 そんなアホな事を考えた瞬間、私の世界は真っ暗になりました。




 お母さんお父さん、弟のもみじに愛犬のハナ、みんなみんなごめんなさい。




 浅科かすみ、死んじゃいました!




「勇気ある人の子よ。」


 そんな声が聞こえて、私は目を開けます。

 あれ? 生きてる?

 目を開けると知らない白い天井がありました。


「病院?」

「いいえ。あなたは死にました。」


 すんごいすっぱりと私に言い放ったのは、背中から白い翼を生やした綺麗なお姉さん。空気で分かります。この人、痛いコスプレイヤーではなく本物の女神様です。

 どうやらあの自動車事故で私は死んでしまったようです。ここは天国でしょうか。


「ここは死者の魂を選別する場所。」


 女神様いわくここは天国ではないようです。


「あなたは子供の命を救い、命を落としてしまいました。その勇気と功績は賞賛に値します。」


 どうやら褒められているようです。まぁ、褒められても死んじゃったら意味ないんですけどね。

 そんな事を考えていると、女神様の口からは思いも寄らぬ言葉が出てきました。


「そのご褒美として、あなたには新しい人生を与えましょう。」


 これはあれです。転生ってやつです。生まれ変わりってやつです。

 最近読んでる漫画や小説でド定番の導入です。

 もしかして私、転生モノの主人公になっちゃう?


「それに伴い、あなたの次の人生が充実したものであるように、特別にひとつだけ望みを叶えて差し上げます。」


 来た! 転生特典きた!

 これはもしかして、もしかすると、生前の願いが叶う予感!?


「何でも望むものを言って御覧なさい。」


 女神様に問われた私の答えは既に決まっています!

 私は即答しました。


「恋愛漫画やゲームの主人公みたいになりたいです!」

「いいでしょう。それではあなたにそれを実現する力を授けましょう。」


 女神が両手を差し出すと、そこからぽわっと毛玉みたいなものが浮かび上がりました。光を放つ毛玉みたいなのは私の方に近寄ってきて、私の胸の辺りに当たって吸い込まれるように消えました。

 凄まじい力が流れ込んでくるのを感じます! これはあれです! チート能力というやつです!


 私は恋愛漫画の主人公のようなチート能力を手に入れたのです!


「では、新たな生を楽しんで下さい。」


 私の意識がふっと途切れて、再び暗闇が訪れました。

 どうやらこれから私は生まれ変わるようです。


 ここから、恋愛漫画の主人公のような、私のモテモテ恋愛ライフが始まるのです!










  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 山の奥の奥にひっそりと存在する隠れ里。

 知る人ぞ知る隠れ里は、"殺し"を生業とする一族が暮らしておりました。

 一部の権力者達の依頼を受けて、金次第でどんな命でも奪い去る、冷酷非道の仕事人集団。


 彼らは"アサシノ一族"。闇に生きる暗殺者集団です。


 そんなアサシノ一族の里を、肩で風を切りながら歩く黒衣の若き女が一人。

 女が通れば、周囲の者達はざわめき始める。


「…………見て、これからお仕事に行かれるそうよ。」

「…………この前はサクラ国の将軍を一人で仕留めたんだって。」

「…………相変わらずクールで素敵だわ。是非お近づきになりたいわね。」

「…………恐ろしい才能だ。奴はアサシノ一族の歴史に名を残す暗殺者となるだろう。」


 そんなヒソヒソとした噂話に耳を傾けながら、女は一軒の建物に入った。

 そこにいたのは幼い顔立ちの黒衣の少女と、一人の身なりの良い貴族風の男。

 少女は建物に入ってきた女を見て、ぱぁっと顔を明るくして膝を折った。




「お待ちしておりました、カスミ様!」




 YES。私です。

 死んじゃった浅科あさしなかすみ、改めアサシノ一族期待の星、暗殺者のカスミです。 


 どうしてこうなった。


 どうしてこうなった!


 私の転生先は、暗殺者の一族でした。

 恋愛じゃなくて殺し合い(やかましいわ!)が日常茶飯事の世界に、私は転生してしまったのです!


 こうして私のアツアツ恋愛ライフ……ではなく、サツバツ殺し合いライフは幕を開けます。




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