第16話 最後のチャンス

「お先に、道下さんから、どうぞ」


 道下が、ミレーユさんの隣に座り、あのドキドキ過ぎる儀式をし始めた。1週間ぶりのはずだが、俺と違い、つら~っとしている道下!

 動揺している俺を滑稽に思えていたんだろうな.......

 逆の立場になって初めて分かった!


「これで、この場を離れてから約30分後に、これまでの記憶は全て無くなります」


 今のは聞き間違い......?

 記憶が全て無くなる!


 ここでこうして......

ミレーユさんと夢のような時間を過ごした宝物のような思い出が、全てが消されてしまう!!


「では、浅間さん、お願いします!」


 道下は全く動じてない!!

 今の、聴こえてなかったのか?

 ミレーユさんとの思い出が無くなるのに!


「浅間さん、まずは五芒星からですね」


 五芒星、忘れていた!

 今までの心の声、ミレーユさんに丸聴こえだった!!

 

 マスクとメガネでは隠し切れないマヌケ面を晒したかも知れないが、もう今更だ!

 五芒星は必要無い!


 最後にしっかりと俺の心の声だけでも、ミレーユさんに届けたい!


 いつもの儀式が始まったはずだが、何だか、いつもと違う!


『浅間さん......』


 耳を通してではなく、頭の中に勝手に声が聴こえて来た!

 ヤバイ、幻聴か?


 いや、待て......


 幻聴というより......


 聴き間違える事の無い、ミレーユさんの声だ!


 って事は......


 これは、テレパシー!


『本当なら、これは法外なのだけど......宇宙人の私を相手に、こんなにも想ってくれた浅間さんの気持ちに、少しだけでも応えられたらと思って......』


 ミレーユさんは口を動かしてない!


 ミレーユさんの心の声だ!

 

 法外だって言っていた!

 そこを敢えて、ミレーユさんは、こうしてテレパシーで会話してくれている!

 

 道下には聞かれてない!

 もう今しかチャンスは無いから、伝えるんだ!!


『ミレーユさんとのお別れは辛いけど、この幸せだった日々の思い出さえあれば、俺は明日からも今まで通りに生きていける!頼むから、記憶だけは残して欲しい!』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る