この余韻に包まれながら......

ゆりえる

第1話 あいつに断られ続ける日々

 今日も断られた!


 これで、1週間連続だ!


 ゲーセンも

 マンガ喫茶も

 マ〇クで可愛い子ウォッチングも......


 いつもなら二つ返事で、どこへでも行動を共にしていた幼馴染みでクラスメイトの道下健一郎が、こんなにも俺を無下にする日々が訪れようとは!


 どこかおかしい!


 出かけられないほど無気力とか、廃人になっているというわけではなく、むしろ、いつもに比べ、覇気に充ちて別人のような風貌にさえなっている!


 授業中は大抵、机につっ伏して、居眠りしていたり、いたずら書きしかしてないアイツが、最近は、姿勢良く座り、挙手までし出した!


 身体を乗っ取られた、別人なのか......?


 いや、紛れもなく道下健一郎なのだが、多分、何か大きな要因が、アイツを駆り立てているのだろう。


 おかげで、一週間も暇してたし......

 何だかイラつくし、気になるし......


 もうこれ以上、放っておけない!


 俺には、物心ついてからずっと、一緒に過ごしてきた友達として、アイツがああなってしまった要因を突き止める責務が有る!


 誰かと会っているのだろうか?


 誰かというのは、幼馴染みでクラスメイトの俺を差し置いてなんだから、女に違いない!


 生まれてこの方16年間......

 そしてこれからも、恋愛とは縁が無さそうに思えていた俺達二人だったのに......

 俺に何の断りも無く、道下という奴は、一人さっさと女作って毎日デート三昧してたのか!


 だんだん許せなくなってきた!

 裏切られた心境だ!


 今日も誘ってみて断られたところで、尾行作戦開始だ!


「道下、今日、この後、本屋行かないか?」


 案の定、申し訳なさそうに口を開こうとする道下。


「悪いけど、予定入っているから。あっ、何なら、浅間も来る?」


 一瞬、耳を疑った!


 道下は確かに、俺を誘って来た!


 これで、俺は、尾行などという後ろめたい行動に出なくて済む事になり、内心ホッとした。


 どこへ行くのだろう?


 多分、この一週間、同じ目的地に通っていたはず。

 この方向に、道下の興味を引くような場所など有っただろうか?

 少なくとも、俺と一緒に来た事は無い。

 そもそも、この先には建物など無くなるのだから。

 辿り着いたのは、市内でも指折りの大きな公園だった!

 インドア派の道下が外で過ごしていたとは!


 インドア派だったとしても、やはり、女が出来ると、行動パターンが女の要求に合わせて変化するものなのだな~。


 それにしても、毎日、公園デートとは!


 俺だったら、どんな美少女相手だとしても、つまらな過ぎ!


 ......と思ってしまったのを撤回せねばならない状況が待っていた!


 道下は慣れた足取りで、広い公園内をスタスタと歩いていた。

 この先に有るのは、池。


 ......とすると


 道下のお相手は、『女』ではなく『魚』という事か?


 池の魚に餌やりしていたのだろうか?


 悪くはないが.........


 それを楽しみに1週間通い、これからも通い続けるほど魚類への情熱が、道下に有るとは思い難い!


 いや、待てよ......


 池の畔に有る東屋!


 年配者が休憩しているイメージだが......


 そういう年配者に対し、何らかのボランティア的な活動を道下がするだろうか?


 俺の知っている道下は、自分にメリットの無い行動など、決して快くするような奴ではない!


 東屋には、案の定、人影が有るが、池に移った太陽が反射しているのか、そこだけが眩し過ぎて、アウトラインすらまだ掴めない。


 太陽.......


 今にも降り出しそうな曇天だから、反射など有り得ない。


 昨今、火球や隕石の目撃が相次いでいるが、地表であの輝きは留められないだろう。


「道下、あの光っている所...?」


 道下は頷いて近付いた。

 やっぱり、そこなのか......

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