実現
ーコンコンコン
面接室の扉がノックされる。
「どうぞ。」
部屋の中から面接官の声が聞こえて、入室する。
「失礼いたします。」
少し開けた窓からは、爽やかな風が吹き込み、春の日差しが面接室を照らしていた。
「神楽坂リンです。本日は宜しくお願い致します。」
「どうぞ、おかけ下さい。」
「失礼致します。」
「神楽坂リンさんですね。我が社への志望動機をお聞ききしてもいいでしょうか?」
「貴方が居るからです。」
「は?」
「生まれ変わって貴方に会いに来ました。」
「き、君、ふざけるのも…」
リンは椅子が大きな音をたてるのも構わず、立ち上がった。
「ふざけてるのはどっちなのさ、お兄さん?」
「き、君、面接中だぞ。座りたまえ…」
面接官は嗜めるが、目が泳ぎ、冷や汗をかいている。
「俺さ、ちゃんと約束守って、10年経って迎えに行ったんだよ。そしたら、直前で逃げやがって。自分から言った癖に。」
「こ、怖かったんだ…」
「ふうん。やっと認めたね。で?」
「ず、ずっと待ってたんだよ。だけど、もう俺の事なんて忘れてるかもしれない。君が来るかどうか知らなければ、ずっと来たかもしれないって思っていられるから…」
「それで、会えないけど思い合ってるって自己満足してた訳?都合のいい、織姫と彦星だねえ?」
「ゔ…」
「ずっとそうやって生きて来たんだ?俺みたいな純真な子供を傷つけて?」
「そんなことしたい訳じゃないんだ!ただ俺には眩しくて。側に居るのが辛かった。君は綺麗だと、妖精なんて言ってくれたけど、あれは俺の霊魂で…」
「知ってたよ。お兄さんに自信を持って欲しかったんだ。」
「…そうだったのか…すごいな君は…」
「で?俺と付き合うよね?」
「い、いや、今、面接中だし…」
リンは溜息をつく。
「大体、何であんな所に居たの?」
「何か、そう、思い上がっていたんだ。何も知らない癖に何でも出来るって。それで、何もかも失って、だけどそれを認めたくなかった。だから、逃げたんだ。自分は普通の人間じゃない、現実じゃない、失敗したのは自分じゃない、普通の人間より、高い所に居ると閉じ籠もって安心してた。けど、閉じ籠もれば閉じ籠もる程、自信が無くなって…」
「当たり前じゃん。馬鹿なの?」
「…そうか、そうだな、君からしたら、俺は只の馬鹿なのか…」
「それで、いつも中途半端で逃げて、起こってもいない事に恐怖して、ありもしないことを妄想して、その妄想に俺も使われてる、と。」
「…俺だって悩んでる。けど、怖いんだ。」
「臆病なんだね。」
ビクリと肩を震わせる青年を見て、リンは苦笑する。
「いいよ、それでも。」
リンは青年の頬に手を添えると、自分の方に向かせた。
「逃げたければ、逃げたらいいよ。何処に逃げたって必ず見つけてみせるから。いつか、愛されてるって信じさせてあげる。覚悟してよね?」
青年はリンの手に自分の手を重ねて、苦笑した。
いつの間にか流れていた涙で、二人の手が濡れていた。
「君には敵わないな、リン君。」
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