第28話:忍び寄る脳破壊の足音
長かった春休みが終わり、遂に始まる高校生活。
「晴人、そろそろ出ないと遅刻してしまうよ」
「ああ、分かってる」
下ろしたてのブレザーに袖を通した俺と来夢は、これから高校の入学式へと向かう。
「……しかし、ようやく俺達も高校生か」
「ああ、色々と感慨深いねぇ」
来夢は笑いながら、その場で一回転する。
それによって、短めのスカートがギリギリのところまでふわりと舞い上がる。
「パンツ見えるぞ」
「おや、中身が気になるのかい?」
「今更気になるも何も、お前の下着を干したりもしているし」
「……実際に履いているのを見るのとでは、興奮度が違うと思うのだけれど」
「まぁ、そこは否定しないけどさ」
そんな他愛のない会話をしながら、アパートを出る。
そしてそのまま階段を降りて、高校に向かう道のりを進む。
「むぅ、なんだか最近。晴人の対応がこなれて来ている気がするよ」
「そりゃあ、もう一ヶ月近くも同棲しているわけだからな」
「だとしても、少しくらい……何かあっても、いいだろう?」
来夢は後ろ手を組みながら、そわそわと俺の顔を覗き込んでくる。
俺はそんな可愛らしい彼女の頭をポンッと叩くと、自分の素直な気持ちを口にした。
「その制服、すげぇ似合っていて可愛いよ。まさに反則的だ」
「……ククク。やれば出来るじゃないか、晴人」
来夢は嬉しそうにはにかむと、俺のネクタイをぎゅっと掴んで引っ張る。
そして俺の頬に、ちゅぅっとキスをしてきた。
「おいおい、来夢」
「おおっと、すまない。キスは家の中だけ……という約束だったね」
「当たり前だ。入学早々、俺達がこういう関係だって知られてみろ。絶対に、変な風に思われるからさ」
あのハーレム同盟宣言以来、俺と来夢は恋人関係である。
しかし、その中には真凛ちゃんとミスティお姉ちゃんも含まれているのだ。
高校一年生にして彼女と同棲。しかもその他に2人の彼女もいるハーレム状態だなんて、クラスメイトに知られたら面倒極まりない。
「分かっているさ。ボクと君の関係は秘密。それでいいんだろう?」
「ああ。これも、お前と付き合い続ける為に必要な我慢だと思ってくれ」
「ボクとしても、君といちゃいちゃちゅっちゅしたいのは山々だけど……それで君に迷惑を掛けては本末転倒だからねぇ。勿論、自制するとも」
そう言いながらも、来夢は俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。
そして最近、ますます成長を遂げている胸を惜しみもなく、押し付けてきた。
「あ、当たってるって……」
「当てているのさ。ククク……ミスティさんには及ばないが、それなりのサイズと質感だと自負しているよ」
もはや、正式に付き合い始めた事で来夢のデレっぷりは凄まじい。
家の中にいればほぼ一日中ベタベタしてくるし、スキンシップを取ろうとしてくる。
まぁ、俺は全然嫌じゃないし、むしろ嬉しいくらいなんだけど。
「気持ちいいけど、もうちょい我慢しろって。マジで誰かに見られちまうって」
「しょうがないねぇ。続きは、帰ってからにするとしようか」
名残惜しそうに、俺から離れる来夢。
どうやら今夜の来夢のイチャつきは、とんでもない事になっちまいそうだな。
「ああ、早く入学式なんて終わってくれたまえよ」
「どうだろうな。校長先生が話し好きじゃなければいいんだが」
「今日一番の不安要素はそこだねぇ」
「そこかよ。俺はお前と同じクラスになれるかどうかの方が心配だけど」
「ククク……それは大丈夫さ。ボクと君が別々のクラスになった事なんて、ただの一度も無いのだから」
確かに俺と来夢は、幼稚園の頃からずっと同じクラスである。
今にして思えば、俺とコイツは運命の赤い糸で結ばれていたのかもしれない。
「しかも、根島の【ね】と晴波の【は】が近いから、クラス替え最初の席はほぼ確実に近い場所になるしねぇ」
「橋本さんとか、いない限りはそうなるか」
「ああ。どうせなら隣同士がいい。授業中もずっと、君の顔を見つめていたよ」
「授業中は黒板をちゃんと見ておけよ」
やれやれ、こんなんで本当に高校3年間大丈夫なのか?
それに、あの高校には――俺の良く知るあの女も通っているんだ。
「そういや……雷火の奴、最近見かけないけど」
「雷火さん、というか。他の姉妹達もだねぇ。もう諦めたのかな?」
「そうだと嬉しいんだけどな。俺も二度と、アイツらとは関わり合いになりたくないし」
俺はもう、来夢やミスティお姉ちゃん、真凛ちゃん達と一緒に人生を歩むと決めた。
雪菜、雷火、雨瑠、美雲。
あの姉妹達と関わらずに済むのであれば、それに越した事は無い――
【とある高校 玄関前 掲示板】
高校に到着してすぐに、俺達はクラス割りを確認するべく掲示板の元へと急ぐ。
「見てごらん、晴人。クラス割りが貼り出されているよ」
「ああ、本当だな。というか、すげぇ人混みだな」
しかし流石に全新入生がチェックに来ているせいで、中々掲示板の前に近付けない。
「んー……見えない! 晴人、ボクに代わって確認してくれ」
「はいはい。えーっと、俺達は……」
ぴょんっぴょんっとその場で飛び跳ねる来夢に代わり、俺は背伸びをして掲示物を確認する。
晴波晴人、晴波晴人……根島来夢、根島来夢……あ、あった。
「俺が……1組だな」
「ああ、そうか。じゃあ、体育館へと向かおうか」
俺のクラスを伝えると、来夢は興味が失せたように背中を向ける。
「なんでだよ? お前のクラスを聞かないのか?」
「さっきも言っただろう? 君が1組ならボクも同じに決まっている。確認するまでもないよ」
「すげぇ自信だな。それで本当に同じクラスなんだから、びっくりだ」
「本当!?」
俺がそう返すと、来夢はくるりと振り返る。
その瞳には涙が滲んでいた。
「……あっ」
「ははーん? 来夢お前、本当は結構怖かったんだろ?」
「うぐっ……!?」
「だから答えを聞かずに逃げようとしたな?」
「……ああ、そうだよ」
「え?」
「君と離れ離れになると思ったら、怖くて堪らなかった。君がいない高校生活なんて、ボクにとっては灰色そのものだからね」
「来夢……ごめん」
素直に自分の想いを口にする来夢を見て、俺は自分の愚かさを恥じる。
そうだよ、怖くないわけがなかったんだ。
それでも来夢は、俺に心配を掛けまいと……気丈に振る舞っていたんだ。
「クク……いいのさ。もう過ぎたこと。結果として、ボクは……ふぇっ!?」
俺は来夢を抱きしめる。
その行動に、周囲にいる生徒達からざわめきが漏れ始めるが……
「は、晴人? 君、自分が何をしているのか……」
「もういい、俺が馬鹿だった。誰に何を言われようが関係ない。俺はお前が好きだ。お前は俺の彼女なんだ。隠す必要も、誤魔化す必要もない」
「晴人……ああ、君はいつもボクの胸をキュンキュンさせてくれる。愛しているよ」
来夢も俺の背中に両手を回し、ぎゅっと抱きしめ返してくれる。
そんな光景を見て、野次馬達の一部が「ひゅーひゅー!」と茶化すような声を出してきたが……俺達は何も気にしない。
「バカップル扱い上等だ。この学校の全員に見せつけてやろうぜ」
「ククク……ああ、いいとも。ボクが君の女だという事を、全ての人間に刻みつけてくれたまえ」
こうして、俺達は入学式初日から、ほとんどの同級生達に恋人同士だと認知された。
しかし、野次馬の中に混じっている――一人の少女だけは違った。
「へぇ? そういう事、しちゃうんですね」
クスクスと笑う、黒髪の美少女。
彼女はその赤い舌をチロリと出して、桜色の唇を濡らす。
「もう、駄目じゃないですか。アナタは私の獲物なんですから」
そして、右手の人差し指と親指だけを立てて……その形を拳銃に見立てると、その銃口を俺の心臓へと向ける。
「うふふふふっ……! 覚悟していてくださいね、お兄さん」
少女の名前は雨宮ひかり。
今年、俺と同じ高校に入学し、俺のクラスメイトとなる美少女。
そして、そう遠くない未来。
来夢、ミスティお姉ちゃん、真凛ちゃんをさしおいて――
「必ず、私がアナタの心を奪い取ってみせますから」
俺のファーストキスを奪う相手でもある。
――――――
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